5 / 11
憧れの騎士(アメリア視点)
しおりを挟む「は~!美味しい!やっぱりウォルフが作ったトマトジュースは最高ね!」
先ほどは、味わう余裕もなかったトマトジュースを、少々お行儀悪く一気に飲み干してグラスを置く。
ようやくホッと一息ついて、表情をゆるめるアメリアに、ムクルスが「お疲れさまでございました」と頭を下げた。
「ウォルフ自ら育てあげた有機トマトですからな。それも朝採れですから、美味しいでしょうとも」
「お二人にも飲んで頂きたかったけれど……お酒を飲めないなんて知られたら、女王として恥ずかしいものね」
アメリアは肩をすくめた。
彼女はお酒の類がどうも苦手で、正式な晩餐でもアルコールを飲むことができない。
「何が恥ずかしいものですか。陛下がそう仰るのなら、内緒に致しますがね。恥ずかしいことではありません」
ムクルスが、両目をつぶる下手くそなウインクをした。
「ふふ、ありがとう。はあ、それにしても今日は緊張したわ……何せ他国の方と会うのは初めてですもの。そして少し、喋りすぎてしまったわね……」
「なんの!話好きな女性は宝だと、スコット様は仰っていましたぞ」
ムクルスが快活に笑う。人見知りの彼は、それでも張り切って久しぶりの来客に笑顔を見せていたのだけれど、自然な今の笑顔の方がずっといいとアメリアは思った。
「ムクルス、今日のおもてなしは完璧だったわ。ただすこーし笑顔に力が入りすぎていたかもね。今の笑顔のほうが素敵よ」
「これはお恥ずかしい。些か歓迎の気持ちが強過ぎましたな」
恥じらうムクルスにアメリアは笑った。
「でも笑顔がないよりは良いわよね。これで少しは我が国が恐ろしくないと、わかってくだされば良いのだけど」
ヴラドは他国との交流がない。
ヴラド王家が代々闇の魔術を使うことが、他国から恐れられる要因なのでは、とムクルスが推測していた。
アメリアにとっては闇の魔術は、とても便利で生活に欠かせない、謂わばナイフやフォークのような位置付けなのだが、確かに魔術を人に向けたら惨たらしく死んでしまうだろうし、どんな建物だって全壊する。
使い手の倫理観がわからない以上、怖がられるのも無理はない。
というわけでヴラドは不本意にも、ほぼ鎖国状態となっている。
アメリアは、それを変えたかった。
ヴラドは小さいながらも豊かな国で、美しい自然もある。食べ物も美味しい。温かい泉もあって、疲れを癒すのにはぴったりの島だ。
ぜひとも他国の人々に訪れてもらい、観光大国の看板を掲げるまでにフレンドリーな国になりたい。
だから今回大国アビニアの、王子であり英雄と呼ばれる騎士、ジークフリートに来てもらえたのは僥倖だった。
誓約がなくとも戦争なんてする気はないけれども、来たいという申し出を断る理由は全くなかった。いつまででもいて、ぜひヴラドの素晴らしさを目に焼き付けて国に帰ってもらいたい。
そして「ヴラドは良いとこ一度はおいで」と啓蒙してほしい。人気が高いらしいジークフリートの言葉は、きっと説得力があるだろう。
(……それにしても、ジークフリート様は想像よりもずっとお綺麗な方だわ)
男性に綺麗というのはおかしいだろうか。けれど黒い髪に青い瞳は、見惚れてしまうほど美しかった。
そして彼は想像上の騎士よりもずっと寡黙で、けれど優しい表情をしていた。
アメリアははーっと長く息を吐いて長椅子に寝そべった。その様子にムクルスが顔を顰める。
「陛下、お行儀が悪いですぞ」
「今日は許して。気が抜けたの。……ねえムクルス、騎士様って素敵ね。あのわくわくするお話の数々、あなたも聞いたでしょう?」
うっとりとするアメリアに、彼は仕方がないと言う様に微笑んで、頷いた。
「物語で読んだ通り。本当に、素敵だわ」
「彼らは日々主と決めた方のために、鍛えておりますからな。私とおんなじ。それは魅力的でしょう」
「まあ、ムクルスってば」
はっはっは、うっふっふ、と部屋に笑い声が響く。
「ムクルスのおかげで明日は国を案内できることになっあわ。ヴラドの良さを思う存分思い知って頂きましょう!」
「ええ!ただ、陛下は世界で一番魅力的な女性ですから、如何なる時も必ずアダムと同行してくださいね。まあアダムの方が離れないでしょうけれど」
「まあ、ムクルス。騎士様なら大丈夫よ。騎士道というものがあるのですから。それに……」
楽しげに話していたアメリアの顔が曇った。
「私はもう、二十四歳。まさか独身の、それも女王がこんな年齢とは思わないでしょうけれど、一目見たら良い年なのはわかるでしょう?流石に魅力的だと思われることはないと思うわ……」
「ご冗談を。今日の彼らをご覧になりましたか?ジョルジュ殿は青ざめておられた」
「えっ、どうして?」
何か粗相があったのかと、口元を手で抑えるアメリアにムクルスはニヤッと微笑んだ。
「ジークフリート様がアメリア様に見惚れておられたからです。アビニアの誇りである騎士団長が陛下の魅力に骨抜きにされたらどうしようと、思案していたのでしょう。ヴラドの王配になられたら困るでしょうからな」
「またムクルスの執事バカが始まったわ……」
「事実です。このムクルスの目は誤魔化せません。いいですか、もし明日求婚されたとしても頷いてはなりませんよ。友人から、というのもダメです!人となりを知るためには、まずは半年間の文通は必須です」
アメリアは白い目で、真剣な顔で馬鹿げたことを言う執事を見た。ムクルスは身内贔屓がひどいのだ。
いや、それを言えばヴラドの民の九割が、代々女王贔屓が凄いのだが。
「スコット様も、カーミラ様に求婚する前は最低でも二日に三通は手紙を送っていましたよ。何十匹もいる伝書鳩が全て疲弊しきって、鳩が可哀想だからと結局三ヶ月でこのムクルスを振り切りカーミラ様からスコット様に求婚されたのですが……陛下、それは絶対にいけませんよ」
「お父様はその頃からお母様が大好きだったのね……」
長椅子に横になったら眠くなってきてしまって、アメリアは大きな欠伸を一つする。ムクルスが「明日のためにも早くお休みくださいませ」と微笑んだ。
「そうね。明日は早いもの。ああ、どこにご案内しようかしら?」
「アビニアが見える農地、それから市場はいかがでしょうか。港からも近く、美しく活気もあります。我が国の陽気さをアピールできる良い場所かと」
「そうね、そうしましょう……」
「はっはっは、とりあえずベッドにお入りください。歯磨きも忘れずに」
「子ども扱いはよしてちょうだい」
失礼しました、とムクルスは口を抑えて、憮然とするアメリアに恭しく礼をする。
「……ゆっくりお休みくださいませ、陛下」
「ええ、お休みなさい。あなたもゆっくりと休んでね」
ムクルスが微笑んで、アメリアの部屋から出る。
幼い頃から彼女の教育係を任されてきたこの執事は、アメリアの良き保護者であり良き相談相手でもあった。
彼女が憧れているものも、寂しさも、叶えられない夢の話も、ムクルスは全て知っている。
「あなたの夢が叶うことを、心から祈っております」
部屋の中の彼女に聞こえないよう小さく呟いて、ムクルスは軽い足取りで親友であるウォルフとハピィの元へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる