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その夜のパーティーは、余興というには過ぎた場の盛り上がりを見せていた。
貴族子弟子女の多くは、十五・六歳になると婚約し、結婚する。
長男・長女の多くは家を継ぐか、どこかに養子に入ることが多い。
その場合は、たいてい実家よりも有力貴族の元に行くことになる。
結婚する前には社交界にデビューして、多くの人々に自分を売り込むことも必須条件だ。
そうした彼らにはやはり、予行演習という者は必要で。
十二歳から十六歳まで、すべての貴族の子女が通うことを義務付けられている学院の夜会は、その前哨戦にはぴったりの場所だった。
人の集まりというものはどこの世界でも、どこの社会でも力ある者の側に群れるものだ。
だからこそ、学院でも有数の名家の出身でありながら、孤独に夜会に参加している彼女はとても浮いて見えた。
ラクーン公爵家の第二令嬢ナフティリアは、いままさに、おひとり様のど真ん中に自らを置いていた。
彼女にはこのローストス王国の第三王子エリオスという婚約者がいるのだが、彼は夜会が始まる前も、始まってからもまったく会場に姿を現わす気配がない。
「どうしろって言われるのかしら。暇だわ‥‥‥」
夜会の会場となっている学年のホールは、賑わいに満ちていて、その中に混じることもができない自分のことを恨めしくさえ思ってしまう。
「今夜は誰とも混じることなく、一人で待つように。いいな」とは、婚約者の言いつけで、身分が上の彼氏の命令には従わなければならない。
「ナフティリア様、あちらでご一緒にお話をいたしませんか」
「ラクーン公爵令嬢。どうか僕と踊っていただけませんか」
「あなたが一人でいらっしゃるなんてありえないことだ。我々と一緒に将来についての話をしましょう」
そんなお誘いがやってきては「ごめんなさい」と、断るのも心苦しくなってしまう。
夜会が始まった頃はそんな彼らも多く行ってきた。
でも中盤を過ぎてしまった今となっては、もう誰も彼女に声をかけてこない。
むしろ、そんな時間まで一人でいることに周りは奇妙な視線を注ぎ始めていた。
「あの御方、ずっと一人でいらっしゃいますわ」
「ナフティリア様でしょう? エリオス殿下のお姿が見えませんわね」
「お二人は婚約していらっしゃるのに、珍しいこと」
「そういえば、お昼頃に、殿下から何かを言いつけられていたような‥‥‥」
会場の隅に用意された長椅子に一人座り、寂しそうに佇んでいる彼女を見て、周囲はあれこれと余計な詮索を始める。
そのうちに、昼間の二人の会話がなにやら普通の口調ではなかったかも? なんておかしな発言が飛び出して、二人はもしかしたら破局寸前なのかもしれない。
そんなふうに、遠巻きに噂する人々の脳内では、彼女がなにか粗相をして殿下をおこらせたのではないか、と噂が飛び交い始めた。
そんな時だ。
彼女の婚約者たる、第三王子エリオスが、会場に姿を現したのは。
貴族子弟子女の多くは、十五・六歳になると婚約し、結婚する。
長男・長女の多くは家を継ぐか、どこかに養子に入ることが多い。
その場合は、たいてい実家よりも有力貴族の元に行くことになる。
結婚する前には社交界にデビューして、多くの人々に自分を売り込むことも必須条件だ。
そうした彼らにはやはり、予行演習という者は必要で。
十二歳から十六歳まで、すべての貴族の子女が通うことを義務付けられている学院の夜会は、その前哨戦にはぴったりの場所だった。
人の集まりというものはどこの世界でも、どこの社会でも力ある者の側に群れるものだ。
だからこそ、学院でも有数の名家の出身でありながら、孤独に夜会に参加している彼女はとても浮いて見えた。
ラクーン公爵家の第二令嬢ナフティリアは、いままさに、おひとり様のど真ん中に自らを置いていた。
彼女にはこのローストス王国の第三王子エリオスという婚約者がいるのだが、彼は夜会が始まる前も、始まってからもまったく会場に姿を現わす気配がない。
「どうしろって言われるのかしら。暇だわ‥‥‥」
夜会の会場となっている学年のホールは、賑わいに満ちていて、その中に混じることもができない自分のことを恨めしくさえ思ってしまう。
「今夜は誰とも混じることなく、一人で待つように。いいな」とは、婚約者の言いつけで、身分が上の彼氏の命令には従わなければならない。
「ナフティリア様、あちらでご一緒にお話をいたしませんか」
「ラクーン公爵令嬢。どうか僕と踊っていただけませんか」
「あなたが一人でいらっしゃるなんてありえないことだ。我々と一緒に将来についての話をしましょう」
そんなお誘いがやってきては「ごめんなさい」と、断るのも心苦しくなってしまう。
夜会が始まった頃はそんな彼らも多く行ってきた。
でも中盤を過ぎてしまった今となっては、もう誰も彼女に声をかけてこない。
むしろ、そんな時間まで一人でいることに周りは奇妙な視線を注ぎ始めていた。
「あの御方、ずっと一人でいらっしゃいますわ」
「ナフティリア様でしょう? エリオス殿下のお姿が見えませんわね」
「お二人は婚約していらっしゃるのに、珍しいこと」
「そういえば、お昼頃に、殿下から何かを言いつけられていたような‥‥‥」
会場の隅に用意された長椅子に一人座り、寂しそうに佇んでいる彼女を見て、周囲はあれこれと余計な詮索を始める。
そのうちに、昼間の二人の会話がなにやら普通の口調ではなかったかも? なんておかしな発言が飛び出して、二人はもしかしたら破局寸前なのかもしれない。
そんなふうに、遠巻きに噂する人々の脳内では、彼女がなにか粗相をして殿下をおこらせたのではないか、と噂が飛び交い始めた。
そんな時だ。
彼女の婚約者たる、第三王子エリオスが、会場に姿を現したのは。
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