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「見て! 殿下がいらっしゃったわ」
「本当ね。それにしても随分と遅く‥‥‥ねえ、お連れの令嬢はどなたかしら」
「さあ? 初めて目にする御方ですけど。でも、綺麗な女性」
ざわざわと会場が別の意味でにぎわい始める。
ナフティリアはそのとき、さっきまで座っていたソファーからテラスの席へと移動していた。
会場には幸せそうなカップルがたくさんいて、その中に混じっていると一人で彼のことを待つのが辛くなってしまったのだ。
「何かしら」
会場のざわめきがそれまでのものとちょっと違った雰囲気に変わった。
そして聞こえてくる声は、こちらに向かってやってくる誰かのことを噂しているもので、その口調はどれもが疑いや戸惑いに満ちたものに感じられた。
テラスは会場の床から数段、下に階段を降りたところに設営されている。
そこに誰かが足を踏み下ろした音を耳にして、ナフティリアは後ろに顔を向けた。
「エリオス殿下‥‥‥そちらの方は一体?」
「ここにいたのか、お前のことを探したぞ!」
「あ、はい……申し訳ございません殿下。ちょっと夜の風に当たりたくなりましたので」
彼は見知らぬ一人の令嬢に、その腕を貸していた。
彼女は夜の闇に映える綺麗な銀髪を腰まで伸ばし、知的な苔色の瞳に吸い込まれそうになるような雰囲気を携えた、小柄の女性だった。
自分の金髪に黒の瞳とは対照的だ、とナフティリアはその美しさに驚きの声を漏らす。
さっきまで会場を沸かせていたのは、彼女の登場が原因なのね、と理解した。
「タージマル王女オリビア様だ」
「タージマル‥‥‥? あの国の王族は滅亡したはずですが‥‥‥?」
それは、十数年前に隣国である帝国との戦いに敗れ滅亡した国の名前だった。
王族はすべて死刑に処され、国民の多くは奴隷として海外に売り飛ばされたと聞く。
そんな亡国の王女、といきなり言われても信じがたいものがあった。
婚約者は怪訝な顔して現実を受け入れることができないでいるナフティリアに、厳しい視線を突き付ける。
燃えるような赤毛と青い双眸が、彼の怒りを体現するかのように、会場の光を背に受けて輝いていた。
「僕の発言が信じられないというのか、お前は」
「いえ、そんなことは。大変失礼いたしました」
相手が王族というのならば、例え失われた国のものであっても、その身分は保証される。
ナフティリアはエリオスと同じ王族だが、王位継承権を持たない。
その意味では、一段下がった公族となるから、オリビアという女性を目上の人として礼儀を尽くさなければ鳴らなかった。
「初めまして、オリビア様。ラクーン公女ナフティリアと申します。本日はお会いできて光栄です」
「よろしく」
こちらは膝を折って挨拶をしているというのに、あちらは壇上から、まるで汚い物でも見下ろすかのようにしてふんっと鼻を鳴らしてくる。
その様はこの場にいる誰かにやるせない怒りを叩きつけるような、憤然としたものを感じさせた。
私の至らない行動がこの王女様の怒りに触れたのだろうか。
もしそうだとしたら早々に彼女に謝罪しなくては――。
そう思っていたら、エリオスが口を開いて宣言した。
「ラクーン公女ナフティリア! お前にローストス王国、第三王子エリオスの名に於いて、僕との婚約破棄を申し付ける! どうしてこうなったかは理解しているな?」
「婚約‥‥‥破棄?」
「そうだ。お前は僕に相応しくない。この第三王子エリオスには、お前のような卑怯で恥知らずの輩は、必要ない!」
いきなりの婚約破棄宣言。
あまりにも唐突すぎるそれは、一瞬、ナフティリアの思考を奪った。
「本当ね。それにしても随分と遅く‥‥‥ねえ、お連れの令嬢はどなたかしら」
「さあ? 初めて目にする御方ですけど。でも、綺麗な女性」
ざわざわと会場が別の意味でにぎわい始める。
ナフティリアはそのとき、さっきまで座っていたソファーからテラスの席へと移動していた。
会場には幸せそうなカップルがたくさんいて、その中に混じっていると一人で彼のことを待つのが辛くなってしまったのだ。
「何かしら」
会場のざわめきがそれまでのものとちょっと違った雰囲気に変わった。
そして聞こえてくる声は、こちらに向かってやってくる誰かのことを噂しているもので、その口調はどれもが疑いや戸惑いに満ちたものに感じられた。
テラスは会場の床から数段、下に階段を降りたところに設営されている。
そこに誰かが足を踏み下ろした音を耳にして、ナフティリアは後ろに顔を向けた。
「エリオス殿下‥‥‥そちらの方は一体?」
「ここにいたのか、お前のことを探したぞ!」
「あ、はい……申し訳ございません殿下。ちょっと夜の風に当たりたくなりましたので」
彼は見知らぬ一人の令嬢に、その腕を貸していた。
彼女は夜の闇に映える綺麗な銀髪を腰まで伸ばし、知的な苔色の瞳に吸い込まれそうになるような雰囲気を携えた、小柄の女性だった。
自分の金髪に黒の瞳とは対照的だ、とナフティリアはその美しさに驚きの声を漏らす。
さっきまで会場を沸かせていたのは、彼女の登場が原因なのね、と理解した。
「タージマル王女オリビア様だ」
「タージマル‥‥‥? あの国の王族は滅亡したはずですが‥‥‥?」
それは、十数年前に隣国である帝国との戦いに敗れ滅亡した国の名前だった。
王族はすべて死刑に処され、国民の多くは奴隷として海外に売り飛ばされたと聞く。
そんな亡国の王女、といきなり言われても信じがたいものがあった。
婚約者は怪訝な顔して現実を受け入れることができないでいるナフティリアに、厳しい視線を突き付ける。
燃えるような赤毛と青い双眸が、彼の怒りを体現するかのように、会場の光を背に受けて輝いていた。
「僕の発言が信じられないというのか、お前は」
「いえ、そんなことは。大変失礼いたしました」
相手が王族というのならば、例え失われた国のものであっても、その身分は保証される。
ナフティリアはエリオスと同じ王族だが、王位継承権を持たない。
その意味では、一段下がった公族となるから、オリビアという女性を目上の人として礼儀を尽くさなければ鳴らなかった。
「初めまして、オリビア様。ラクーン公女ナフティリアと申します。本日はお会いできて光栄です」
「よろしく」
こちらは膝を折って挨拶をしているというのに、あちらは壇上から、まるで汚い物でも見下ろすかのようにしてふんっと鼻を鳴らしてくる。
その様はこの場にいる誰かにやるせない怒りを叩きつけるような、憤然としたものを感じさせた。
私の至らない行動がこの王女様の怒りに触れたのだろうか。
もしそうだとしたら早々に彼女に謝罪しなくては――。
そう思っていたら、エリオスが口を開いて宣言した。
「ラクーン公女ナフティリア! お前にローストス王国、第三王子エリオスの名に於いて、僕との婚約破棄を申し付ける! どうしてこうなったかは理解しているな?」
「婚約‥‥‥破棄?」
「そうだ。お前は僕に相応しくない。この第三王子エリオスには、お前のような卑怯で恥知らずの輩は、必要ない!」
いきなりの婚約破棄宣言。
あまりにも唐突すぎるそれは、一瞬、ナフティリアの思考を奪った。
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