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しおりを挟むそんないきなり――どうすればいいの!?
否定も肯定も、どちらの言葉も脳裏に浮かばない。
自分の置かれた状況が好ましくないことだけは理解できた。
さらにそれを受けてしまっては実家の名誉にかかわる、という保身的な思考がその後に浮かんでくれたのは、ある意味、良かったのかもしれない。
「お、お受けいたしかねます‥‥‥殿下」
「なんだと?」
震える唇から小さくそう切り出すのが精一杯だった。
静かで穏やかな海岸に立っていたら、いきなりやってきた怒涛の荒波に揉まれてしまい、息をすることも忘れてしまうことにそれは衝撃的な宣告だった。
心の中に生まれた嵐はまだおさまることを知らず、ぐいぐいと理性を圧迫していく。
それはまるで冷たい氷の牢獄の中に閉じ込められてしまったような、そんな錯覚をナフティリアに覚えさせた。
「このような場でそのような宣言を為されても、お受けいたしかねます。父にしかられてしまいます」
どうやってこの牢獄から抜け出したらいいのだろう。
ナフティリアは一度目を閉じて、大きく深呼吸をする。
怒れる父親の顔が、まぶたの裏に、浮かんでは消えた。
誰か助けて。
その想いは残念ながら言葉にならなかった。
ぜー、はーっとなかなか呼吸が元に戻ってくれない。
焦れば焦るほど狼狽してしまい、何を答えるのが正しいのかがわからなくなる。
「ああ、それなら問題はない。会場に着く前に、既に許可を得てあるからなッ」
「え? 許可、とはなんですか、エリオス」
その単語を聞いて、ナフティリアは自身の体から、一斉に血の気が引くのを感じた。
まさか、まさか‥‥‥と、エリオスの次の言葉を待つ。
告げられたそれは、この世でもっとも聞きたくない言葉だった。
「僕に婚約破棄される情けない娘など、公爵家にはふさわしくない。お前を一族から追放する、だそうだ。貴族籍をはく奪するともおっしゃっていた。残念だな、公族からいきなり身分を奪われて、これからどうなるのやら」
「そんなっ。お父様がそんなことを‥‥‥? 娘に確認もせずに、そんな理不尽なことをなさるはずが―――ッ!」
「本当のことだ。この通り、お前との婚約を破棄する書面に公爵閣下の署名も頂いている。見るがいい、婚約破棄の条件にはお前の身分を奪い、平民にするとも書かれてある」
そう言って第三王子は忌々しい物を叩きつけるかのようにナフティリアに一枚の書面を放り投げた。
それは勢い余って彼女の顔面にぶつかってしまう。
「写しをおまえにくれてやる。何かあった時に僕が勝手に言い出したなんてことを、どこかで吹聴されたらたまらんからな」
「う、そ‥‥‥」
わなわなと唇が震えた。
それは両手の指の先にまで伝播していき、足元に落ちた一枚の紙を拾い上げるのに随分と時間を要した。
この世で一番信じていた家族に追放されるという裏切りが、ナフティリアの心を悲痛のどん底へと叩き落そうとしていた。
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