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しおりを挟む「殿下!」
「ああ、もう駄目だ。意識が、殿下、殿下!」
学院で医術を教えている教授たちや、回復魔法に長けた魔導師達が、その場に遅れて駆け込んできた。
彼らは各々の方法で止血をしエネオスの命を少しでも長く保とうと努力をしていたが、それはどうにも無駄なように思えてならなかった。
ナフティリアがゼフェトから借り受けた護身用の短剣は、まずエリオスの肺の部分を貫き、そのまま上部へ。
心臓のある方向に向けて、少女の渾身の力を以って、彼の身の奥深くへと叩きこまれていたからだ。
エネオスがもう少し用心深く彼女のことを観察していたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
あと少しだけ距離を置いておけば、たとえ刺されたとしても回復魔法でどうにかなったかもしれない。
しかし今の彼は、もう凄惨な状況に置かれてしまっていた。
「あなたなんてことを! 殿下を殺すなんて、気でも狂ったの!」
エリオスのそばに駆け寄ろうとしたオリビアは、しかし、医療班によって引き離されていた。
ナフティリアが手にした短剣は、相手の胴体に刺さったままで、その手には残っていない。
丸腰の彼女を見て、後ろ手に拘束された彼女を見て、オリビアは思いっきりその頬を何度も、何度も張っていた。
「これからようやく自由になれると思ったのに! 私の家族の仇を取れると思ったのに! お前が! お前が全てをダメにしたっ―ーッ!」
「っ‥‥‥」
同性に殴られた痛みよりも彼女が叫んだその一言が意外だった。
まさか本当に、あの亡くなった国の王族に連なる者だったなんて。
皇太子を殺し、悲しみと同様につつまれる帝国を、王国は急襲する予定だったのだろう。
亡国の亡霊たちと、帝国を挟み撃ちにするつもりだったかもしれない。
自分の知らない足元で、そんな大それた計画が進行していたとは‥‥‥そして、実の父親は娘を駒として扱い、平気な顔をして棄てることに意欲的だったことも、同じくショックだった。
これから先、王子を殺害した犯人として、自分は処刑される。
そう思ったら、もう恐れるものはなにもなかった。
だから驚いたのだ。
ゼフェトの姿をその視界にとどめたから――。
「おい、行くぞ!」
「へっ? ちょっと、何っ?」
騒然としているテラスに、いきなり男たちの一団が乱入してきた。
彼らの一人は、誰でもない皇太子ゼフェトで、その側には数人の騎士と魔法使いと思しき男性たちが周りを固めていた。
皇太子はその細い身体からは想像もできない力でナフティリアを抱え上げると、部下たちが衛士たちや周りの野次馬を押し出して開いた道――その向こうに広がる運河を目指して、空を飛んでいた。
「ここまでやったんだ! 死ぬ気があるなら俺のそばにいろ! 一生だ!」
そしたら何があっても守ってやる。
そんな声を耳にしたかどうかというタイミングで、冷たい春先の水の中に全身が投じられてしまい‥‥‥意識は薄れていく。
ナフティリアが次に気が付いたのは、帝国へと向かう船の中だった。
ベッドに横たわる彼女の脇に座り、意識が戻るまで付き添ってくれたゼフェトの顔を、開いた瞳の向こうに認めた途端、安堵の涙が溢れて止まらなかった。
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ありがとうございます。
どうも私のなかの幸せ器官がキャラクターたちの幸せを見ると、途端、お話終了宣言を打ちだしてしまうのです。この話の後は、読者様の想像に委ねたいと思います。
ハッピーエンドというよりハッピーエンド?という感じでしたね😮
面白かったのですが何ともいえない重い終わり方でした。
もう少し明るくない話と分かるようなタグを付けた方が良いかもしれないですね。
検討してみます。
ありがとうございます。
泥沼な開戦が始まるのですね。
ハッピーエンドということでもっと楽しい?展開を
期待して読み始めたので、そういう意味でがっかりしました。
このタグは外した方がいいかと。
というか、誰がハッピーエンドを迎えたんだろう。
ありがとうございます回戦になるかどうかはまた別問題なので、 この話の終わりとしてはハッピーエンドで問題ないと思いますのでこれは、ここで終わりですね。