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「寄らなくてもいいわ。エリオス殿下の言われるとおりにしますから。抵抗はしません」
「まったく‥‥‥最初からそう素直に言えばいいんだ。お前は婚約破棄を受け入れ、このオリビア様を虐待した罪で断罪される。平民が貴族に、それも他国の王族に手を挙げるなど、死罪に等しい!」
「私は全く身に覚えがございませんが。それでも殿下が仰せになるなら、そうなのでしょう。そちらに参りますから御自由に、断罪なさるといいわ」
「いい心掛けだ。明日にも、お前の首を跳ねてやろう」
「……最低の人」
嘲りと怒りを含んだその言葉を吐き捨て、ナフティリアはエリオスの方へと足を向けた。
彼女が離れていくのと同時に、皇太子はさっさと踵を返してテラスを抜け出していた。
足早に同じく帝国から留学してきている子弟子女のグループへと戻っていく。
彼らの周りには、あちらの国から派遣された騎士たちが、主人たちを守るようにしてこの場から去るべきだと話しているのが聞こえてくる。
「見捨てられたな?」
「……お父様とどんな約束を交わしたのかは知りません。でも、そのオリビア様を擁立して亡命を許すなんて。国王陛下に聞こえたらとんでもないことになりませんよ」
「さあ? それはどうかな」
「陛下も、御存知ですか……なんて愚かなこと」
「お前にはもう関係ない話だ。ああ、そうだ。あの書面には続きがあってな」
「……最後に元婚約者として、愛情のひとかけらでも与えては下さらないのですか」
「ふん。忌々しいお前に触れることなんてしたくもないが‥‥‥まあ、いい」
そう言い、エリオスはナフティリアを抱き寄せた。
これから死を賜ることになる彼女は、小刻みに肩を震わせていた。
恐怖に耐えきれなくなったのだろう。
そう解釈した第三王子は、彼女の頭にキスをする。
「哀れな女だな。利用されるだけされて死んでいく。道具のような女だ‥‥‥最後の文面を教えてやろうか」
「その残された文面、知っております。ゼフェトと私が不貞を働き、オリビア様を虐待した証拠がある、とでも書かれているのでしょう?」
「なっ。なぜ、それお―――ッ」
しかし、自分の胸元近くに寄ってきたナフティリアに絶望を与えてやろうと考えて、エリオスは饒舌になり過ぎていた。
語ることに夢中になりすぎて、目の前にある危機に気づくのが遅かった。
訝しむエリオスの顔が、いきなり苦痛に歪んだ。
胸元にじんわりと朱の華が咲き誇る。
「殿下っ! ひいっ――、血が‥‥‥」
「黙りなさい! 偽りの王女なんて、この人には相応しくない。あれだけ私のことを愛していると叫んだのだから、裏切るというのなら、死を以って償えばいいんだわ‥‥‥」
そう言い、ゆっくりと顔を上げたナフティリアの顔は、エリオスの胸からあふれ出る大量の血しぶきで、紅に染まって見えた。
周囲から悲鳴があがり、この場を覗いていた群衆はその血を目にすると、一斉に蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出していく。
衛士たちが駆け寄ってナフティリアをエリオスから引きはがしたときには――、何もかもが遅かった。
「まったく‥‥‥最初からそう素直に言えばいいんだ。お前は婚約破棄を受け入れ、このオリビア様を虐待した罪で断罪される。平民が貴族に、それも他国の王族に手を挙げるなど、死罪に等しい!」
「私は全く身に覚えがございませんが。それでも殿下が仰せになるなら、そうなのでしょう。そちらに参りますから御自由に、断罪なさるといいわ」
「いい心掛けだ。明日にも、お前の首を跳ねてやろう」
「……最低の人」
嘲りと怒りを含んだその言葉を吐き捨て、ナフティリアはエリオスの方へと足を向けた。
彼女が離れていくのと同時に、皇太子はさっさと踵を返してテラスを抜け出していた。
足早に同じく帝国から留学してきている子弟子女のグループへと戻っていく。
彼らの周りには、あちらの国から派遣された騎士たちが、主人たちを守るようにしてこの場から去るべきだと話しているのが聞こえてくる。
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「……お父様とどんな約束を交わしたのかは知りません。でも、そのオリビア様を擁立して亡命を許すなんて。国王陛下に聞こえたらとんでもないことになりませんよ」
「さあ? それはどうかな」
「陛下も、御存知ですか……なんて愚かなこと」
「お前にはもう関係ない話だ。ああ、そうだ。あの書面には続きがあってな」
「……最後に元婚約者として、愛情のひとかけらでも与えては下さらないのですか」
「ふん。忌々しいお前に触れることなんてしたくもないが‥‥‥まあ、いい」
そう言い、エリオスはナフティリアを抱き寄せた。
これから死を賜ることになる彼女は、小刻みに肩を震わせていた。
恐怖に耐えきれなくなったのだろう。
そう解釈した第三王子は、彼女の頭にキスをする。
「哀れな女だな。利用されるだけされて死んでいく。道具のような女だ‥‥‥最後の文面を教えてやろうか」
「その残された文面、知っております。ゼフェトと私が不貞を働き、オリビア様を虐待した証拠がある、とでも書かれているのでしょう?」
「なっ。なぜ、それお―――ッ」
しかし、自分の胸元近くに寄ってきたナフティリアに絶望を与えてやろうと考えて、エリオスは饒舌になり過ぎていた。
語ることに夢中になりすぎて、目の前にある危機に気づくのが遅かった。
訝しむエリオスの顔が、いきなり苦痛に歪んだ。
胸元にじんわりと朱の華が咲き誇る。
「殿下っ! ひいっ――、血が‥‥‥」
「黙りなさい! 偽りの王女なんて、この人には相応しくない。あれだけ私のことを愛していると叫んだのだから、裏切るというのなら、死を以って償えばいいんだわ‥‥‥」
そう言い、ゆっくりと顔を上げたナフティリアの顔は、エリオスの胸からあふれ出る大量の血しぶきで、紅に染まって見えた。
周囲から悲鳴があがり、この場を覗いていた群衆はその血を目にすると、一斉に蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出していく。
衛士たちが駆け寄ってナフティリアをエリオスから引きはがしたときには――、何もかもが遅かった。
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