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異世界探査1

お前ら誰だよ

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  世界とは弱肉強食である。それはどの様な時代、場所であっても同じである。例えば、現代の日本では経済力による弱肉強食がある。弱肉強食がある限り、そこには公平などというものはない。努力しない者は敗れ、努力した者は後世の子孫までその努力の恩恵が与えられる。それと同じ様に、誰かに頼るしかしない弱者は、誰かに頼られる強者には勝てないのだ。それはまるで法則の様にどの世界にも共通に当てはまる。では、ここで問おう。弱者が強者に喧嘩を売り、生き残りたい場合どうなるのか?答えは簡単である

「降参する。だから、これ以上攻撃をしないでくれ。」

ーーーー強者に屈する。それだけである。
  
  主神シミラーはペドファムと彼の戦いを見て、目の前の彼に勝てないことを痛感した。ペドファムは決して弱い神ではない。身体能力は他の神には劣るが、彼の『未成』はそれを感じさせないほど強力な物だ。しかし、彼はそれをいとも簡単に破ってしまった。気付くべきだったのだ。彼がここに来た時点で、最高戦力のバーバライクが破れているという事に。二柱の神を無傷で屠った彼に自分があと一歩でも近づけば、その瞬間にシミラーは瞬く間にペシャンコになる事など容易に想像がつく。いや、それはまだいいほうだ。シミラーの頭の中には幾千もの自分の死に際が嫌という程浮かんだ。

「なんだ、今回の奴は少し物分りがいいな。」

  空中に浮かんでいた彼が、下にゆっくりと着地するとそのままこちらに歩み寄ってくる。その姿だけを見れば隙をついて殺れそうだが、そんな事をすれば殺られるのはこちらだ。それは隣にいた女神もわかっていた様で、めづらしく大人しい。
  目の前まで来た彼はシミラーを一瞥すると質問した。

「それで、お前は誰だ?私が来たというのに、お前らののハキヤはどこに行った。」

  一言一言重みがある彼の言葉に動揺しながらも、シミラーは勇気を振り絞って答えた。

「ハ、ハキヤはもういない。今は私がこの世界の主神をしている。」

 「はぁ?」

  不機嫌そうに顔を歪める彼に少しビクッとする。しかし、恐る恐る答えた。

「今からこの世界の時間軸で3000年前に、乱心を起こして我々と戦い、そして討滅した。」

  この世界では神しか知らない過去の大戦。よもや、こんな形で思い出すことになるとはシミラーは思わなかった。

「・・・・・乱心ねぇ」

  シミラーの言葉に何か納得いかない様な感じの彼に不安が膨らむ。すると、突然消えたかと思った途端彼に首を絞められた。

「お前、舐めてんかのか?」

  明らかに怒りの表情をしている彼に恐怖の感情が口から出て行こうとするが、首が絞められているためお腹の中に押し戻される。

「き、貴様!」

  隣にいた女神が突然のことに一瞬驚いたが、すぐに冷静になり主神を解放させようと攻撃しようとする。

「や、やめろ!」

  しかし、それは主神自らが静止させる。今触れている彼の手から流れ込んでくる押しつぶす様な絶対的な力に女神が勝てないとわかっていたからである。

「た、頼む!話を聞いてくれ!」

  必死に懇願するシミラーに彼の手が少し緩む。話すことを許可されたシミラーは3000年前の事を話し始めた。

「あれは1度目の魔王が復活して、私達は日本という異世界から勇者を召喚した時のことだ。我らはその人間達に恩恵を与えた。その時、ハキヤはその内の1人の人間がたいそう気に入ったらしくよく神界から観察していた。
  そして、ついに魔王討伐が完遂し、平和な世界になったある日のことだ。めづらしく召集された我らの前でハキヤはこう言った「この世界は失敗だ。今から壊そう。そして、新しい世界を作るのだ」と。当然、我ら起源の四神は全員が反対した。他の神達もハキヤに滅多にしない大声をだしながら、そんなことはしないでくれと言っていた。それでもハキヤは聞く耳を持たず、来週末に世界を壊すと宣言した。いつものハキヤらしからぬ発言に私は不審に思い、私は会わなかった間のハキヤの事についてくまなく調べた。そして一つの事実にたどり着いた。
  ハキヤは女として本気で勇者の1人に対し恋をしていた。その思いはすでに神としての一線を超えていた。ハキヤは自分の分身を私たちに隠してこっそり彼の近くに置いて、猛烈なアプローチをかけていたのだ。神として、人間にその様な目的で干渉するなどしてはいけない行為だ。それが神としての定めだ。それでも、彼女はそこまでのめり込んでしまった
 そしてある夜。もう1人勇者に惚れていた同郷の、異世界人の女勇者とハキヤのどちらを勇者が選ぶか勝負となった。結果、勇者は同郷の女勇者を選んだ。まあ、それだけならまだ問題は無かった。どちらにしても、神としてそもそも叶う筈のない恋なのだから結ばれない事はわかりきっていたことだ。しかし、問題はハキヤの方だった。ハキヤの彼に対する思いは相当歪んでいたのだ。それはもう、普通の乙女の恋心とはだいぶかけ離れ、狂ってしまう程に。そして彼女は勇者を我が物にすべく狂行に出た。
  魔王討伐直後の油断しきった勇者一行を襲い、彼以外全員殺したのだ。さらに、彼の魂だけを抜き取り元の世界に帰らない様に術式を施し手元に置いた。ハキヤは私達に勇者は魔王討伐で相打ちとなり死亡したと伝えていた。言い訳にしかならないが、そのせいで私たちも気づくのに遅れてしまった。
  そして、彼を手に入れた彼女は自分に惚れなかったのは体のせいだと決めつけ、新たな体を与えようとした。だが、異世界人の魂がこの世界で作った体に入るわけがない。しかも、日本の人間はとても優秀で素晴らしい肉体と透き通った魂をしていた。だからこそ、私たちが応援を頼んだくらいだ。そんな器が作れるなら初めから異世界転生などしてはいない。
 それに気づいたハキヤはあろうことか彼を蘇生させる為に、彼のためだけの世界の作ろうとしたのだ。
  そのことに気づいた我らは何とか彼女を説得しようと試みた。しかし、歪んだ彼女に正常な言葉など届くことは無かった。我らは最終手段として彼女と戦いそして討滅した。彼の魂はその後にちゃんと供養して、異世界日本に返した。
  これが、3000年前に起きたことの全てだ。」

  シミラーが話を終えた時、彼は動かずにただじっと何かを考えていた。話しに対して何の反応のない彼に、少しシミラーは不安感を覚えた。すると、彼は何か思い立ったのか突如手を離した。首を軽く撫でながらシミラーは安堵の気持ちに包まれた。しかし、未だ彼は目の前にいる。緊張感はまだ抜けなかった。

「・・・そうか。」

  彼はそう呟くと、身を翻しその場を離れて行こうとする。それにより、今度こそ大丈夫だとシミラーが安心しきった時だった。彼は後ろに振り返り、こう言った。

「ハキヤはまだ生きてる。少なくともこの世界のどこかにいる。恐らく、お前らが死んだと言った私の国の人間をその様に見せかけたのも奴だ。私は今から奴に会いに行く。くれぐれも私の国の人間をこれ以上傷つけるなよ。それと、そこの女神。」

 「・・・えっ?」

  いきなり話しかけられ、少し間があいてしまった。

「さっきの話全部聞こえてたから。お前は処刑な。」

  そう、実は彼は先程の会議を全て聞いていたのだ。怒りに染まった彼は何かを彼女に向かって投げた。女神はそれを避けようとするが、それが近くまで来た時に驚きの表情にそまる。

「っ!?」

  それは、意識を失ったバーバライクだった。彼女はそのまま彼を受け 止めよう手を広げたときだった。

「花よ咲き開け。」

  彼がそう言った途端、バーバライクは轟音を撒き散らしながら一瞬の閃光と共に爆散した。それに女神もほぼゼロ距離で巻き込まれる。煙がもくもくと登り、後に残ったのは黒く体が崩壊していた女神の姿だった。

「時間がないから、ただ殺すだけで許してやる。それと現主神のお前。今のうちに言っとくぞ。この世界、時と場合によっては私が滅ぼすからな。だが
、今はハキヤと私の国の人間の方が大事だ。それに、お前らはちゃんと正規のルートで異世界転生を行っている。だから、事が終わるまでは生かしといてやる。」

  そして、その場をから消えた。本気の殺気を生で感じたシミラーは仲間が二柱死んだにもかかわらず、喜びの感情が湧き出ていた。しかし、後にシミラーは気づいた。なぜ、彼がハキヤの名を知っているかという事に。そして、思い出した。異世界日本の人間に対して「私の国の人間」と彼が言っていた事に。




 

  







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