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奇妙なお出掛け1

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 アスラに気持ちを伝えた私は、なんだかやたらと上機嫌だった。
 普段は思わず遠慮が顔に出ちゃうような王子の至近距離も、今日は私史上最高にエレガントにかわすことができていた。
 だからか。
「今日はそんなに楽しかった?」
 なんてことを王子に尋ねられた。
 いけない、いけない。アスラと話したことは一応王子には秘密なんだ。
 なんせ『あの男』呼ばわりするほど、王子はアスラにいい気はしてないのだ。もしバレて、またアスラにお咎めとかあってもそれじゃ本末転倒。
 一応、ジルさんも内緒にしてくれているみたいなんだから、ここは私がしっかりやらないと!
 というわけで、私はちょっと笑みを控えめに作り直して王子を向いた。
「はい、久しぶりでしたから」
 すると、王子は『こいつ、単純バカだな』とでも言いたいのか、綺麗な顔を苦笑させていた。
 しかも、ちょっと苦味成分に偏りがち。
 そ、そんな引かなくても……。
 なんてことを、いつもは散々王子に引いてる癖に理不尽にも思っていれば、
「悪いけど、少し付き合って貰えるかな? 寄りたいところがあるんだ」
 と、王子から唐突なお誘いがあった。
 勿論、馬車に頑丈な鍵をつけられて、運命の赤い糸で片手を拘束されてる私に拒否権などあるわけもなく。
「も、勿論です」
 なんて快い返事を返すより他はなかったのだ。

 そうして降り立った城下町は活気に満ち溢れ、立っているだけでもワクワクしてくる場所だった。
 我が故郷――オーフェル伯爵領は片田舎の畑やら山やらに囲まれた農地なので、街といっても同様の賑わいは味わえない。これに近い賑わいが、年数回の行なっていた収穫祭でやっと味わえるかなぁといった具合なのだ。
 だから、自然と上がっていくテンションに、
「――っすごい! 皆んな笑顔だ!」
 なんて声を上げては、釣られて私も頬が緩んでいった。
 特に、どこかしこからする食べ物のいい香りが、私の口角をぐんと上げていくのだ。
「君は、ヴァルレアに降りるのは初めて?」
 尋ねられて、私は大袈裟に頷く。
「はい! 通ったことは何度もあったのですが、実際に歩くのは初めてです!」
 やや興奮気味に返事をすれば、王子はサラリと軽い笑みを返してきた。
「そうか。ならば気になるところがあれば気兼ねなく言ってくれ。是非寄って行こう」
 そんな言葉に私は胸を高鳴らせ、早速めぼしい料理屋に目を光らせる。
 うぅ、パン屋もいいけど、お菓子屋も……。
 果物屋さんも捨てがたい……!
 でも、まずは――
「イルヴィン様、あちらのチキン棒――」
「あっちだな」
 言うよりも先に手を引かれ、私の愛するチキン棒は離れて行く。
 え? え――……。チキン棒……。
 悲しきかな愛しき相手を目で送り、そうして連れて行かれた場所というのは……。
 
「まぁ、素晴らしい! ミラ様はダイヤもパールもお似合いでいらっしゃいますね。首飾りもイヤリングもとても素敵です」
 街の一等地にある宝飾店だった。
 見たこともない豪華な店構えに、奥のVIPルーム。辺り一面、私の命より重そうなキラキラ宝飾で埋め尽くされていた。
 しかも、なんか教科書に載ってそうな人がつけてる重々しい首飾りとか、なんなら全面宝石張りの王冠すらもあったりして。
 怖いことにどれもこれも、お値段が一切書かれていなかった……。
「え……。なにこれ、おいくらなの?」
 恥ずかしながら、タグやら立て札を探してみる。けれど、見つかるはずもなく……。
「なに、辺境に城が一城建つくらいの大したことはない額だ。好きなものを好きなだけ手に取って欲しい」
 取れるか――‼︎
 私は持たされダイヤの指輪を、そっとテーブルの上にあるふわふわ生地の上に着地させた。しかし。
「ん? これが気に入ったの?」
 違――う‼︎
 私は慌てて首を振る。それでこっそり王子に耳打ちした。
「ああああの……、どうしてこんな宝飾品選びを私なんかと⁉︎」
 こういうのは好きな方とやるべきでは! そういう確認のつもりだった。
 けれど、王子は一拍の間すら置かず即答で。
「無論、君に贈るためだよ」と。
 いやいやいや……なんで!
 ここ最近ファインプレーどころかファウル行為しかしてこなかった私だよ。
 なにがどうなったら、高価な宝飾品を贈るなんて発想に……。
 この国に、大罪人は高価な宝石を身につけさせた方がより酷い地獄へ落とせるなんて伝承あったっけ⁉︎ 聞いたことないけど!
「お、お気持ちは嬉しいですが、私にはどれも素敵すぎると言いますか、少し重すぎると言いますか……」
 重量的にも価値的にも!
 けれど、王子はそんな私の言葉を甚だしく勘違いした。
「なるほど、気にいるものがなかったか。では、オーダーするとしよう。すまない――」
「待ったぁ!」
 すかさず店員さんを呼び付けようとする王子の口を制止する。慌てていたので、思わず両手で口を押さえちゃったけど、流石は王子御用達の宝飾店。あの謎多き婚約話を知っていてなのか、突如密着する私達にも眉ひとつ動かさないスマートさだった。
 そっと手を離す。
 手を離した王子は、相変わらずの女性顔負けの美麗な顔立ちで。なんていうか、まつ毛やら眉毛やら、いちいちが上質な宝石でも編んで作られたみたいな洗練さがあった。
 宝飾品こういうのって、絶対私より王子の方が似合うよね……。
 そんなことを思いながら、これ以上勘違いされないようにしっかり言っておいた。
「オーダーも大丈夫ですし、宝石もいりません!」
 無料ただより怖いものはないんだから!
 しかし、案の定王子に私の気持ちは伝わらなかった。
「あぁ……。確かに、ドレスが決まらないと装飾品を決めるのは難しかったね。では、先にドレス選びに行こうか」
 話が全然伝わらないい!
「いや、だからあの……」
「こっちだ」
 果たして王子は、店員さんに『また来る』と言って断りを入れ。私の手を引っ張った。
 いや、違う……。
 違うから!
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