お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

うしまる

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奇妙なお出掛け2

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その後はもう、本当に大変だった。
 なにが大変って。王子がなにかと高価な品々を買い与えようとしてくるのだ。
 それはもう、数分ごとに大金を使わないと死ぬ奇病にでもかかってるかの如く。
 だから私は制止に制止、拒否に拒否を重ね、ものすっごく頑張った。その結果が、ドレス三着、首飾り五つという戦果になるわけだった。
 とはいえ、相手はブティックでフロア買いしようとするラスボス相手。
 むしろよくここまで抑え込んだと讃えて欲しい!
 なんてことを思って、再び訪れた宝飾店を後にしたところ。不意に王子が立ち止まった。
 しかも。
「……買い忘れた」
 そんなことを呟いた。
 いやいやいや、絶対もういらないでしょ……。
 なにも言わずとも首をぶんぶん振って主張する。けれど、王子は――
「君にブレスレットを贈りたいと思っていたんだ」
 聞く耳を全く持ってはいなかった。
 それどころか、『これはいけない』と踵を返して店に戻ろうとする。結ばれた手が離れて自由になるも、私は慌てて王子の手を引いた。
「あ、あの……、もう十分なのではないでしょうか?」
 恐れながらに口を出す。
 けれど、王子の意志は固かった。
「いや、ブレスレットは必須なんだ。どうしても今日欲しい。夜に使いたいんだ」
 その言葉に、眉がピクリと顰まった。
「……よ、夜ですか?」
 嫌な予感しかしない。けれど案の定、頷いた王子の言葉は最悪だった。
「あぁ、入浴時に革のものは不便だと思ってね。ならばいっそ、ブレスレットにしてしまおうと思ったんだ。軽いし見た目にも良いしね。勿論、簡単に外せないように加工はするよ」
 いや、なんだ。そういうことじゃない。
 なんというか、その……。
「入浴時も拘束……なんですか?」
 おずおずと尋ねてみる。
 ちなみに、流石に外では赤い糸は外されていた。
 しかし、王子は駄々っ子に言い聞かせでもするみたいに淡々と告げていった。
「あぁ、君は目を離せばすぐ逃げて行くからね。僕が入浴時でも手を繋いでいていいというのなら構わないけど、それは嫌だよね?」
「いや、当たり前!」
 王子の突拍子もない選択肢に思わず心の声が漏れ出して、慌てて口を塞いだけれど遅かった。
 そんな私をみて、王子は「ほら言った」とでも言わんばかりに小さく笑って見せた。
「じゃあやっぱり、必要だね。大丈夫、大体の目星は付けてあるんだ。君にぴったりの可愛いのを選ぼう」
 そう言うと、王子には握っていた私の手をがっちり掴まれて。その拍子にふいっと王子の腕の中引き寄せられる。
 さっきまでは精々手繋ぎだったのに、何故だか腰を抱かれたりなんかして。
 華麗なエスコートと共に二度目の再入店と相成った。

「うん、良いのを選べたね」
 宝飾店・VIPルーム。
 私の両手首には、何個も試着を重ねた上に選び抜かれた至高の枷が光り輝いていた。
 それは、ブレスレットというよりは太めのバングルというやつで。ただの武骨な金属一辺倒のものではなく、全体に数えきれないほどのダイヤと繊細な彫刻がされた確かに可愛らしいものだった。
 ……もといこれが枷なんかじゃなければ。
「どう、気に入った?」
 ここで、うんと頷けばなにかを失う気がしたので流石に無言を貫いた。
 ちなみに目は数十分前から既に死んでいる。
 自分を拘束する器具を自分で選ぶ日が来るとは思わなかった……。
 世の中広いなぁ、田舎に帰りたい……。
 そんなことを思ったりした。
 しかし、そんな儚い夢はすぐに打ち破られ、隣の王子は懐から例のリボンを取り出した。
「折角だからこれも付けて良い?」
 なにが折角なのか、全く分からなかったけど、さっき無視した引け目があるので取り敢えず頷いた。
 どうせ髪でしょ。もはや、髪くらい……。
 そう思って、スッと側頭を差し出す。
 しかし、隣に座る王子の狙いは首だった。
 そっと首にリボンが掛かり、止めた髪をふわりと解放される。うなじから、王子の少し冷たい手が髪をなぞり上げ、少しくすぐったい感覚を覚えたりした。
 そうして掛かったリボンを王子は蝶々結びにする。ちょうど昨晩、手枷足枷付きの私にしたように、大きくて可愛らしい白のリボンが私の首に飾り立てられた。
「うん、よく似合う」
 最初、このリボンは匂わせだとかそういう意味だったはず。けれど、婚約だのなんだのそんな話が出回る今日こんにち、そんな意味は全く持たないはずだから、だとしたらこのリボンは王子の趣味……?
 死にかけも半ばの心でぼんやり考えていれば、王子が手を差し出す。
「じゃあ、次へ行こうか」
 え……まだ行くの? もう帰りたい……。
 そんなことを思いながらも、儀礼的に手を取った。
 
 けれど、意外と後半戦は楽しかった。
 なんたって美味しいもの巡りで、街中のありとあらゆる美食を食らい尽くしたのだ。
 私は、大きな食パンを丸齧りした。バゲットだって、チキンだって、クッキーだって頬張って。呆然と見つめる王子を横目にとにかくお腹いっぱい詰め込んだ。
 心と瞳に失った光が少しずつ戻っていく感覚! 大丈夫、大丈夫。人生絶望はまだ早い!
 何時間ぶりかの頬の緩みを感じ取り、ちょっとしたご機嫌でケーキを口に運んでいたところ。
「美味しい?」
 ふいに王子が聞いてきた。
 私といえば、忘れていた王子の存在に気がついて。ちょっとばかり顔が真顔に戻ったけど、とにかくコクコクと頷いた。
 そんな私に、王子は「そう」とだけ返事して。どこか憂うような表情を外へと向けてしまった。
 ……?
 なんとなく違和感を感じて、私も外へと視線を向けてみる。
 すると、昼過ぎから突如曇り出したその空が、益々とそのどんより具合を加速させ。今にも雨が降り出しそうな空になってしまっていた。
「……雨が、降りそうですね」
 声を掛けてみる。
「あぁ、そろそろ戻った方がいいね」
 王子のその言葉に私も同意する。
 私にとっては宝石よりも宝石らしいケーキには、まだまだ名残惜しさはあったりした。
 けれど、雨が酷くなっては大変だし。
 また来れたらいいなと、その場を後にした。
 はずだったのだが――
 私たちは、店を出てたったの一歩で物凄い雨に見舞われた。
 さっきまでの街の活気はどこへやら、街行く人は瞬く間に皆んな捌けていき、お店もどんどんと閉まっていけば、一瞬で暗く寂しい街へと成り果てた。
「わ、私たちも急がないとですね……」
 流石に焦ってくる。
 雨は大地を潤すとても良いものではあるけれど、その反面、行き過ぎた勢いは恐ろしいものなのだ。
 しかし、王子にいつもの勢いはなく。
 何故か雨模様の空をぼんやりと眺めていた。
「あの……?」
 気になって声を掛けてみる。
 向いた王子は、なんだか凄く儚げだった。
 それから、王子は静かに口を開いて、
「宿を取ろう。近くに知っているところがあるんだ」と。
「……いや、お城見えてますが⁉︎」
 しかし、叫んだ私の意見はすげなくいなされて、王子は自身のジャケットを私に被せ、馬車へと引き連れて行った。
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