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1:救いという願い

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 扉が開かれ、室内へと目を向けます。

 重厚かつ繊細な彫刻のされた家具が、広く温かい色の部屋に並んでおりました。その配置といい、照明具合から窓の大きさといい。インテリアだの建築だのというものに見識のないわたしでも、そこが至高を尽くした場所であるということは、ヒシと感じられました。

 けれど、その室内の雰囲気といえば冬に吹く颪風おろしかぜに晒された時より、ずっと寒々しいものでした。
 夜霧に包まれた深林よりも、ずっとずっと暗く光の見えぬ場所でした。

 その事実に光景に、いつものことながら息を呑んでしまいます。胸が締め付けられたように苦しくなってしまいます。
 数名の使用人や王妃様のお顔が悲愴にくれているということが――苦しめられているということが、わたしには途轍もなく苦しいことなのです。

 原因が、部屋の奥部に横たわる御人にあることも。
 元凶が、その御人に憑く魔の物であることも。
 全て分かっています。
 それにも関わらず、いつだって、このような場面で、わたしは人々の苦しんだ時を想い、胸を痛くしてしまうのです。

 慣れません。
 同じ務めを果たす聖女友人にも、聞きましたが、そこそこの場数を踏んだ中官聖女ともなれば、常として感じる心持ちではないといいます。
 けれど、私がこの場に慣れることは、一向にありませんでした。

 
 暗く沈んだ室内を、かき乱すように闊歩して進みます。
 勿論、心というものを表すなら、この室内と同様沈んでいます。

 しかし、この絶望的状況で、望みである聖女わたしまで暗い顔をしていたら如何でしょう。
 覇気のない足取りをしていたら如何でしょう。
 頼りない、不安だと感じられるのではないでしょうか。

 人は希望があるからこそ立っていられます。希望に揺らぐことがあったのなら、気を張った足元はいとも容易く崩れ落ちてしまうのではないでしょうか。

 此処で懸命に立つ方たちを、わたしは決して揺らすわけにはいきません。
 わたしはエルム・ガルディア様のみならず、その関わるすべての方をも救いたいと願うのですから。
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