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03:愚かな人々

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「は?」
 地を這うような低音がフェデリーカの口から漏れる。
 横に居たロザリアが驚いて、顔を覗き込んでくるほどだ。
「実は今日お話ししようと思っていたのですが、私も婚約しましたの」
 ロザリアに話をしているが、フェデリーカの視線は例の子爵令嬢を見たままである。

「婚約者はベッラノーヴァ侯爵家のスティーグという名前なのですが」
 フェデリーカの顔がグルンとロザリアの方へと向く。
「どうやら私の勘違いだったようですわ」
 にっこりと笑ったフェデリーカの目は、冷たい熱をはらんでいた。


 入学初日は簡単な学校の規則や、クラス内での自己紹介で終わる。
 侯爵家の婚約者が居ると自慢していた令嬢は、「カーラ・カルカテルラ」と言う子爵令嬢だった。

 自己紹介でも「侯爵家嫡男の婚約者がおりますので、皆様そのおつもりで」と高飛車な態度を崩さなかった。
 クルクルと巻いた髪に、派手な化粧。
 制服よりも露出の高いカクテルドレスの方が似合いそうな令嬢だった。


 フェデリーカは悶々もんもんとした気持ちを抱えたまま、迎えの馬車を待っていた。
 一緒に待っていたロザリアは、先に迎えの馬車が来たので帰って行った。
 ここは馬車待ちの為の部屋で、簡単な飲み物が用意されている。
 勿論生徒が自分で淹れるのではなく、数人の係の者が待機している。

「待っている時間って長いわ」
 早々に家に帰って、今日目撃した事を家族に報告したいのに、そういう時に限ってなかなか馬車が来ない。
 はぁ、と溜め息を吐き出したところで、いきなり後ろから肩を掴まれた。

 ビクリと体が震える。
 当然だろう。
 家族であっても、ひと声掛けてから体に触れてくる。
 余りにも不躾な行為にその手を払い落とし振り返ったフェデリーカの視界に、今、1番会いたくない人物が居た。


「なぜ教室で待って居ない!」
 いきなり高圧的に怒鳴りつけてくるスティーグに、フェデリーカの顔から表情が消える。
 婚約前は紳士的で優しい人柄だったのに、どうやら良い人を演じていたようだ。
 しかもスティーグの後ろには、自称婚約者のカーラが当たり前のように居る。

「おい!話があるからこっちへ来い!」
 もう一度肩を掴んでこようとした手を、フェデリーカははたき落とした。
「お話ならここで」
 フェデリーカは席を立ち、スティーグの手が届かない距離へと一歩下がる。

 チッと舌打ちしたスティーグは、周りを見回した。
 やはりあの日に聞いた舌打ち音はこの人だったのか。
 妙に冷静にフェデリーカは目の前の二人を観察する。

 スティーグは室内に居る人数を確認しているのだろう。
 今居るのは、係員と奥のテーブルにいる六人だけである。
 このくらいなら良いか、と判断したのが表情から判った。
 そして、斜め後ろに居たカーラの腰を抱き、自分の方へと引き寄せる。

「おい、お前!お前はカーラの身代わりのお飾りの婚約者だからな!勘違いするなよ!」
 スティーグはフェデリーカを指差し、大きな声を出す。
 室内に居た生徒を含む六人と、係員数人が何事かと注目しているのにも気付いていない。

「お前を愛する事は無い!」
 スティーグは部屋中に響き渡る声で宣言した。


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