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01:お嬢様と侍女
しおりを挟むほんわりと平和な国。
それなりに豊かな土地で、それなりに発展した技術と、それなりの魔法がある国。
隣国が戦争を起こしてまで奪取する価値のある物があるわけでもないが、他国からの援助が無ければ立ち行かないわけでもない。
良くも悪くも、のんびりとした国である。
そののんびりとした国の、公爵家の令嬢。
それがこの話の主人公であるリリーアンヌ・ド・ローセント。
嫡子である長男と、既に侯爵家へ嫁いでいる長女が上にいる為に、どちらかと言うと自由に育てられてきた。
勿論貴族としての教育はされているが、元来持っているお転婆で無鉄砲なところは、いまいち矯正されずに育ってしまったのだ。
それでも性根が真っ直ぐだっので、家族や使用人達からは愛されていた。
「お嬢様、長い間お世話しました」
リリーアンヌ付きの侍女が突然頭を下げて挨拶をする。
「え?急にどうしたの?」
驚いた声で問い掛けるリリーアンヌに、侍女は頭を下げたまま答える。
「実家の男爵家から、子爵家の後妻に入るようにと連絡が参りました。おそらく馬鹿な父か兄が株で失敗でもしたのでしょう」
それは、身売り同然に嫁に行かされるという事だ。
侍女のマリッサは、リリーアンヌの二つ上の18歳。
上二人と少し歳の離れているリリーアンヌの話し相手兼侍女見習いとして、8歳から公爵家に勤めていた。
所謂姉妹同然に育ったと言われる関係だ。
そのように小さいうちから実家を離れた理由も、両親の分不相応な贅沢のせいでまともな教育も受けさせて貰えていなかったのを、偶然知った公爵の厚意によるものだった。
通常より2年遅れて、マリッサは貴族に必要な教育をリリーアンヌと受けたのだった。
「なので、逃亡しようと思います」
予想外なマリッサの宣言に、リリーアンヌの目が見開かれた。
子爵家に嫁ぐから辞めるのだと思っていたからだ。
「逃亡って、当てはあるの?」
「当てがないから、逃亡するのです。幸い、隣国へ行き、仕事を探す間生活できる程度の蓄えならあります」
「蓄え?今までのお給金の事?」
「生活に必要な分以外は貯めてあります」
「え?小さい頃からずっと?」
「はい。ずっとです」
マリッサは、小さい頃から覚悟していたのだ。
この様な日が来る事を。
「お父様には、もう伝えたの?」
「いえ、一応はお嬢様に先にご挨拶をと思いまして」
「さっきからちょいちょい失礼よね?一応とか、お世話しましたとか」
「お給金は旦那様から頂いておりますので、旦那様へは『お世話になりました』とご挨拶する予定です」
「絶対間違ってると思うけど、反論できない……」
「お嬢様には無理でしょうね」
「くっそぅ……とりあえず、他に策がないか考えるから、お父様へ伝えるのは待ってちょうだい」
「かしこまりました。ですが、実家から逃げるには後1ヶ月ほどしか猶予はございません」
「1ヶ月ね、わかったわ」
リリーアンヌの人生の勘違い大冒険の幕開けである。
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