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02:図書館のお嬢様
しおりを挟むリリーアンヌは、珍しく図書館へと通い詰めていた。
勉強より体を動かす事の方が好きなリリーアンヌの異常な行動に、家族や使用人達は本気で心配をし始めている。
「リリーアンヌは、また図書館へ行ったのか?」
父親である侯爵家当主が執事へと問う。
「はい。しかし何か本を借りて帰って来る訳では無いようです」
執事の返答に、侯爵は首を捻る。
「リリーアンヌが図書館にいる間に読みきれる本など絵本くらいではないか?」
かなり失礼な当主の言葉に、執事は無言で頷いた。
静謐とも言える図書館の一画で、リリーアンヌは過去の新聞を開いていた。
経済紙ではなく、どこまでが真実なのか怪しい、しかし人気のあるゴシップ紙だ。
「不倫じゃ意味ないのよ。姦通罪?お呼びで無いわ。引き裂かれた純愛?惜しいわね。確かこの人達は先月、お互いに離婚してたわ。再婚間近よね」
最後のページをパラリとめくり、溜息を吐く。
目的の記事は見当たらなかった。
リリーアンヌが見ているのは、自国ではなく他国のゴシップページだった。
普通は、わざわざ図書館に来てまで読む価値のあるものではない。
しかし今の彼女には必要な情報だった。
「愛しい人がいるけど身分的にアウトだから、契約結婚を望んでいる高位貴族は居ないのかしら。他国で」
「なぜ他国なのですか?」
「自国じゃ、侍女を連れて逃亡出来ないからよ」
沈黙が落ちる。
「……は?」
独り言に質問をされ、更にそれに答えてから、やっとおかしな状況であると気付いたリリーアンヌは、声のした方へと振り返る。
目の前には見知らぬ男性。
年齢はリリーアンヌより少し上、マリッサと同じ位かもう少し上かもしれない。
金髪に碧眼の、絵に描いたような美丈夫がいた。
「逃亡とは、随分と楽しそうな計画ですね」
座ったリリーアンヌの耳元で囁くように話す男は、前屈みになり顔が近い。
「近い!」
リリーアンヌが大袈裟に体を引くと、椅子と机が音を立てた。
シィーーッ!
周りの人間から静かにするようにと注意をされる。
リリーアンヌは「私のせいじゃないのに」と呟きながらも、周りに対して頭を下げた。
会話をするには不適当な場所である図書館から、二人は場所を移す事にした。
街の様子をほとんど知らない男性に呆れつつも、リリーアンヌが行き先を決める。
「いつも女性任せ何でしょ!そのうち愛想を尽かされるわよ?」
実は整った顔があまり好きでは無いリリーアンヌは、独断と偏見で男性を責める。
「努力しないで女が寄って来る男は、本当にボンクラだわ」
そんなリリーアンヌを見て、男性は楽しそうな笑顔を浮かべていた。
リリーアンヌのそれなりに気に入っているカフェへと行き、少し奥まった席へと座る。
「初めまして。サイラスと申します」
見るからに貴族なのに、なぜか男性は家名を名乗らなかった。
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