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乙女ゲーム本編突入です。
第24話:平民の常識
しおりを挟む王子様のように颯爽と登場したつもりだろうけど、単なる勘違いだから。
いや、本当に王子様なのだけど、別に助ける理由ないから。
「マカ殿下。そのように一方的に決めつけるのはおやめください」
私達は、10月の寒空に地面に直接座ってパイを食べていた非常識な娘に、室内で食べたら?とアドバイスしていただけである。
その子が油の付いた手をスカートで拭いたから、ハンカチを貸そうとしただけ。
え?これでも私達、悪者ですか?
「決めつけるも何も、3人で1人を囲んでいただろう」
えぇ?馬鹿なの?バカ殿下。あ、馬鹿だったわ。
3対1で話してたら、人数多い方が悪者ですか?
いや、仮にそういう状況だとしてもよ?
袖を掴んでいるチョコアの手を上から握ってるけど、よく見て?
彼女の腕も手も、ここにいる誰よりもがっちりしているわよ
ちなみにニの腕は、私の倍くらいあるわよ。筋肉で。
だって、パン屋の娘だから。小麦粉大袋を抱えて運べるのよ、彼女。
背も私よりも高い。
こちらは侯爵家令嬢1人と、公爵家令嬢2人。
1人はストールを巻いて背中丸めて震えていて、1人は虚弱体質丸出しのチビで、1人はスタイルは良いけどカトラリーより重い物を持った事が無いようなお嬢様。
それが目の前に並んだからって、どうなの?
現にバカ殿下が来るまでは、階級なんて物ともしない態度でしたからね?
学園内でなければ、不敬罪で罰せられるほどの態度でしたけど!?
ミリフィール曰く、私はゲームの私よりも大分華奢らしい。
前世だったら狂喜乱舞する『食べても太らない体質』なのである。
成長もしないけどね。スイカとかメロンとか羨ましくないもん。
チョコアの場合『甘王公式本』に比べると、大分体格が良い。
そりゃそうよね。下町のパン屋の1人娘だったら、絶対にお店の手伝いしてるでしょ。しかもこの世界、全工程人力作業。
あのイラストみたいに華奢な訳がない。
焼けたパンを並べて「いらっしゃいませ~」ニコニコで終わるはずがない。
「私達は、常識を教えていただけですわ」
本当の事なので、胸を張って告げる。
バカ殿下が人の事を見て、鼻で笑った。
「常識、常識。お前の言う常識は、貴族の世界の常識か?
だがここは貴族社会ではない。学生が皆平等である学園だ」
馬鹿がドヤ顔で馬鹿な事を言っている。馬鹿だから。
え?マジで言ってるのかな?
「この寒い時期に地面に直接座って、パイを大口開けて貪るのが平民の常識なら、私は貴族で良かったと思います」
私の台詞に、え?とバカ殿下がチョコアを見る。
その顔がパイ屑だらけなのに、体ごと引いたのを見逃さないわよ。
それでも、自分の失態を認めるのが悔しいのだろう。
「チョコア、行くぞ」
私達を残して去っていく2人。
その瞬間、いつものあの音がした。
**ピンポーン**
<イベントが一つ解放されました>
<新しいページが閲覧可能になりました>
一緒にいたからか、ミリフィールにも聞こえたらしい。
「イベントきたぁ!」とか喜んでいる。
私、このイベントまで辿り着いたかなぁ……
「木陰イベントだったんだね。季節が全然違うから、気付かなかった」
ミリフィール情報では、初夏の時期のイベントらしい。
しかもゲームでは可愛くフルーツがのった小さなパイだったらしいが、チョコアはガッツリ系のクリームミートパイかポテトグラタンパイに見えた。
だから油も凄かったんだよね。
「とりあえず、馬車に忘れ物取り行っちゃおうよ」
サラが最初の目的を思い出す。
そう。私達がこんな所を歩いていた理由は、私が次の授業で使う道具を馬車に忘れたからだ。
寒い中付いて来てくれた上に、バカ殿下とはち合わせてしまい、本当に2人には申し訳ない。
しかし、私達は理由があるから良いとして、何でバカ殿下はこんな所にいたのだろう?
チョコアと待ち合わせしていた様子はないし。
とりまき1、2が一緒にいないって事は、何か2人に内緒にしたい事があったとか?
まぁ、どうでも良いけどね。
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