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3:兄、ロバーツ
しおりを挟む「アメリア」
使用人から隠れるように、小声で呼ぶ声がした。
柱に隠れるように、兄のロバーツが手を振っている。
「あ・と・で」
口の動きで話し掛けた後に、アメリアの部屋を指差し、身振りで「行く」と表現している。
アメリアは微かに頷いてみせた。
教育を受ける為の部屋に向かって歩いていると、前から公爵夫人が歩いて来ていた。
アメリアはそのまま、まっすぐ前を向いて歩く。
夫人は横にずれて、簡易な会釈をしてアメリアが通り過ぎるのを待つ。
とても母と娘の邂逅には見えないが、アメリアの中ではこれが当たり前だった。
父親である公爵とは、もう3ヶ月も会っていない。
なぜなら、アメリアは家族と食事をしないからだ。
アメリアにとっての食事は、マナーを勉強する時間であり、常に講師に見守られて独りでするものであった。
「来年からは学校へ行きますし、明日から家族と食事をしても良いでしょう」
マナー講師にそう言われても、アメリアは何も感じなかった。
ただいつものように微笑んで、「はい」と返事をした。
その日の夜、ロバーツがコッソリとアメリアの部屋へ遊びに来た。
「明日から一緒に食事が出来るって聞いた」
嬉しそうに言うロバーツに、アメリアも笑顔で「はい」と答える。
「アメリアは好き嫌いは無い?僕はどうしてもセロリが好きになれないんだよ」
はぁ、と溜め息を吐くロバーツに、アメリアは笑顔を向ける。
「ワタクシは好き嫌いはありませんが、苦手な物はしょうがありませんわ」
「そうかな?」
「ええ。それに、大人になったら急に食べられるようになる事もあるそうですわ。大人と子供では、味覚が違うそうです」
微笑みながら柔らかい口調で言われると、自分を肯定されたような気分になる。
「アメリアは物知りだね」
ロバーツがアメリアの頭を撫でる。
「ありがとうございます」
この兄という存在は、他の人より距離感が近いものなのだなとアメリアは思った。
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