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22a:アンダーソン子爵とアメリア

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 ミアは、ステージ上の王族と、必死にアメリアに復縁を迫るフーリーを呆然と見ていた。

 公爵家令嬢になったと思っていた。
 王太子の婚約者になったと思っていた。

 しかし自分は子爵令嬢のままで、しかも今日からは何の仕事も領地も無い子爵だと、やっとミアは自分の立場を理解した。
 朝、公爵に「子爵家の邸を覚えているか」と言われたのは、これからはそこに住めって意味なのだと。


「うそ。嘘でしょ。私、これからどうなるの?」
 ブツブツと呟くミアをロバーツは冷たく見下ろす。
「何度も、忠告したはずだ。将来の事を考え、しっかりと学ぶようにと。優秀な成績を取れば、侍女として働けるだろうと」
 ミアの視線がユルユルとロバーツへと向く。

「金も無限にあるわけではないから、本当に必要な物だけを買うように言ったのにな」
 どこか馬鹿にしたように鼻で笑われても、ミアは意味が解らなかった。
「え?だってあれは、お母様が買ってくれたのよ」
 確かに、一緒に買い物に行くたびに、公爵夫人に「欲しい物を選び買いなさい」と言われていた。

「だから、自分のお金で欲しい物を買えと言われただけだろう?何を勝手に自分に都合良く解釈してる」
「え?」
「公爵家に来る前に、財産管理人とうちの両親と話し合ったはずだろう?」
「は?え?」

「ミア・アンダーソン子爵は、公爵家の養子にはなっていない。だから、必要最低限の物以外は、自分の財産を使って買うのだと説明されたはすだ」
「でもでも!ドレスも宝石も、公爵令嬢には必要でしょう!?」
「君は公爵令嬢じゃないのに?」


「あ、あぁ、ああぁぁぁ~~~!」
 ミアは頭を抱えて叫んだ。
「私は、私は公爵令嬢で、王太子の婚約者で、将来の王妃なのよ!」
 今度は、舞台の上のアメリアを睨みつける。
「いくら私の方が皆に愛されているからって、こんな意地悪するなんて酷すぎるわ!おねえ様!!」

 睨みつけられてるアメリアは、優しい微笑みを返す。
「アンダーソン子爵。貴女を愛しているのはそこにいらっしゃるフーリー様。そしてお二人は婚約者でしょう?」

 どこまでも慈愛に満ちたアメリアの表情。
「王太子の座より、貴女を選んだ方ですよ。それ以上の何かを望むのは、分不相応です」
 優しい笑顔で、しかしキッパリと言い切るその姿は、ミアには、いや会場に居る全員に、間違い無く王妃に見えた。


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