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04:暗転としての好転
しおりを挟むケヴィンはマリアンヌの部屋へとやってきて、無理矢理押し入ろうとした。
医師の「安静にしなくては死んでしまいます!」と言う言葉を聞いても、「大袈裟な」と鼻で笑って信じなかった。
しかしマリアンヌの助言通りに「これ以上無理を強いるなら、伯爵夫人が死にそうだと王宮へ報告します」と脅すと、すぐに顔色を悪くし、「勝手にしろ!」と立ち去って行ったのだ。
ケヴィンは、上にはペコペコと媚を売り、下には偉そうに振る舞う、嫌な権力者の典型だった。
そんな事があってから数日。
アリアンヌの食事は、重湯からお粥へと変えられた。
それとは別にスープも飲んでいるが、こちらはポタージュである。
要は、固形物を胃が受け付けられるようになったという事だ。
「お肉が食べたいわ」
マリアンヌがポツリと呟く。
モニクがそれを聞いて嬉しそうに笑いながらも、目に涙を浮かべている。
心情としては「奥様が食べたいと言った」だろうか。
だが気持ちと裏腹に、体は間違い無く肉を受け付けないだろう。
「医師の許可が出ましたら、最高級のお肉を用意しますね!」
モニクには、そう答えるのが精一杯だった。
俄に屋敷の入口が騒がしくなった。
屋敷の奥に配置されているマリアンヌの部屋まで聞こえてくるのだから、かなりの喧騒だ。
マリアンヌの部屋は女主人の使用する部屋では無い。
ケヴィン曰く、「お前はまだ侯爵夫人では無い」からだそうだ。
確かにこの屋敷は、ジェルマン侯爵家のタウンハウスだった。
しかしそれならば、ケヴィンが主人が使う部屋を使用しているのはおかしいのでは?
今のマリアンヌはそう思う。
しかし当時のマリアンヌは、素直に従った。
更に、ジェルマン侯爵夫人が居た頃に与えられた部屋よりも、更に待遇の悪い部屋へと移動させられていた。
「妻としての仕事も出来ないのに、部屋だけは一人前に使おうとするな!」
勝手に使用人に部屋を移動させたケヴィンは、驚くマリアンヌへとそう言い放った。
昔の事が色々思い出され、マリアンヌが拳を握りしめた時、部屋の扉が乱暴に開け放たれた。
思わずマリアンヌが睨みつけると、そこに居たのは予想と違う人物だった。
「お兄様……?」
更にバタバタと足音が聞こえる。
「マリアンヌ!まぁ!何て姿なの!?」
入口で固まってしまった兄と父親を押し退けて、母親がベッドへと駆け寄って来た。
「大変だったわね」
母親にそっと抱きしめられた瞬間、マリアンヌの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
ポロポロと止め処無く流れ落ちる涙に「あぁ、自分は辛かったのか」と、どこか他人事の様に感じていた。
母親に抱きしめられたマリアンヌを、更に両脇から兄と父親も抱きしめる。
嬉しく思うマリアンヌと、傍から見たら間抜けな絵面よね、と冷静に分析するマリアンヌがいる。
そんなマリアンヌの手を、そっと両手で握りしめる者が居た。
遅れて部屋に入って来た妹である。
儚げな雰囲気がマリアンヌによく似ている美少女だ。
目が合うと、泣きながら微笑んでくる。
わぁ、可愛いなぁ。
これ程の素敵な家族が居るのに、なぜケヴィンなんかに固執して、連絡を取らなかったのかしら?
今までの自分を不思議に思いながら、マリアンヌも微笑み返す。
泣きながらではあるが、久しぶりの心からの笑顔だった。
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