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第六章 【二つの世界】
6-29 大精霊
しおりを挟むハルナたちはソイと別れてからの三日間、森の影に隠れながら進んでいった。
昼間はほとんど口をきかずに進み続けたが、夜の場合にのみ一日のなかでちゃんとした食事と休息をとるためにゆっくりと身体を休めた。
ハルナは、ステイビルに昼間でなく、夜に移動した方が気付かれなくていいのではと進言した。
夜は夜行性の凶暴な動物の動きが活発化しており、特にこの時期のギガスベアは繁殖期前のため、植物や動物の種類を問わずに襲い口にしていく。
ステイビルが一人だけだとしても、集団で行動するギガスベアには抵抗することが難しい。
この人数であれば、一人は息の合った精霊使いでなければ囲まれてしまった場合の生存は厳しいものになると言った
それに、昼間は亜人と争っているグラキース山のふもとの拠点に物資や人が運ばれているために、特に拠点の近くになると騒がしくて森の中の状況など気にしていられないため、自分たちの存在に気付かれる確率は少ないだろうとのことだった。
それに夜の暗闇を歩くよりも、日が昇っている方が歩きやすいのもその理由の一つだという。
サヤたちも、夜はいろいろとこの国の状況をゆっくりと確認することができた。
すると、この世界では精霊使いはかなり高い権力を与えられることを知らされた。
それによってさまざまな問題が起きていることは、ハルナたちが想像している通りだった。
中にはその力を使い、精霊を神格化させ新しい人々の崇拝の対象とさせている者もいるという。
騙されたものは全ての財産を巻き上げられたり、家族がそのことに金銭を持ち出し過ぎて一家が離散する事例もあるという。
その力は誰でも希望すればその力を得られるわけでもなく、さらには精霊から選ばれなければその力を得られることは出来ない。
その自信と不思議な力が、そういう状況を作ってしまったのだとステイビルは最後に言った。
「はぁ……アンタたちってちょろいんだなぇ!?アタシもなんかやってみようかな!そうしたら楽に稼げそうだし、生きるのも楽そうじゃない!!」
「ちょっと、サヤちゃん……無神経すぎ」
その話をしている間、ステイビルの眉間には皺が寄っており、言葉も感情を抑えながら話しているのだということはハルナにも伝わっていた。
「いや……いいのです。実際に何もできなかったのだから」
ステイビルは、この問題について改善したいと考えていた。
王選の旅の最中でも、こうして被害を受けた者たちがステイビルに訴えかけてきた。
これについては、エレーナも何とかしたいと考えており、モイスティア内だけでもその行為を取り締まる法を母と準備をしていた。
だが、それは大臣の権限を持つものよりも上の力によってその法案は施行されることが直前で阻止されてしまっていた。
サヤはその話を聞いて、一度鼻で笑うように息を出してステイビルに話しかけた。
「それって……詐欺みたいなもんじゃない?んー、でも詐欺でないのかな?精霊の存在自体は、実際にあるのだし……勝手に思い込んでるだけだしねぇ。で、王国は何してたの?取り締まりは?」
「何も……なにもしていない。先ほども話しましたが、それを阻止する動きをとると強い圧力で全て止められている。腐ってしまっているんです、この国は……もうこの話は、ここまででいいでしょう」
ステイビルは小さく”大精霊……か”と恨むような声でその存在を口にし、身を纏う毛布で身体を隠すように包み横になった。
ハルナは、ラファエルたちにも何か変化が起きているのかと気になった。
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