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第六章 【二つの世界】

6-398 記憶の可能性

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ローディアは気位が高く、決して謝らない性格として知られていた。
この施設に来たときから、誰にも負けないために謝罪する場面はなかったし、謝罪するような事態に至るミスも行動もとってこなかった。

その行動と判断力を見込まれて、精霊との契約の候補一位を得ていた。

自信に満ち溢れ、それを裏付ける言動。決して誰かに頭を下げる事すらしなかったローディアが、サヤに対して詫びている行動はアーテリアも信じられなかった。


「……いんだよ。ローディアだっけか?あんた、短い間だったけどヴァスティーユとは仲良くしてくれてたもんね」


その声掛けに対しても、ローディアの額はまだ地面に手を重ねた床の上に乗ったままだった。

「し、しかし!?私のせいで……私のせいでヴァスティーユは」

伏せたままの体勢の肩に、誰かの手が触れられて身体を引き起こされる。
その行為に反発してまで、自分のお詫びの体勢を続けてしまうのは失礼に当たると判断し、ローディアは肩に触れられた手と同じ速度で上半身を起こした。
顔を上げると近くにサヤの顔があり、その顔は優しい目つきでローディアのことを見つめていた。


「あいつも、友達のアンタを守ることができて喜んでるんだろうよ……それに」


「……それに?」

「アンタはまだ、ヴァスティーユのこと……覚えてるよね?」


「……?私の命の恩人で友人であるヴァスティーユのことを忘れてしまうなど!」


「あ……そういうことね、サヤちゃん」




ローディアは突然割り込んできた、ハルナの方に目だけを移動させた。
突然あの場所に出現して、この問題に関係のある人物であることは理解できる。
だが、ハルナ自身が自分にとってどのような存在かわからないローディアは、ハルナに対して警戒を今でも続けていた。


「……どういうことでございますか?」

ローディアのその質問は、割り込んできたハルナに対してではなく、自分が信頼をしているサヤに対しての言葉だった。
さすがのハルナも、どちらの世界でも初めて見るローディアという女性が、自分に対して不信感を抱いていることはこれまでの対応で感じ取っている。
だからローディアからの質問に対しては、この場に最も適した人物が答えるべきだとハルナは目で合図を送る。送られたサヤは、不快感をたっぷりと含みハルナを睨みつけた。

「ちっ!?なんでアタシしなんだよ……いや、あんたじゃないよ」


舌打ちをするサヤが、自分がした質問のことで不機嫌になったのだと思い、ローディアは目の前にいるサヤに詫びたが即座に否定された。



「あんた、まだ”ヴァスティーユ”のこと覚えてるよね?」


ローディアは、サヤからつい直前の時と同じ質問をもう一度され不思議に思う。
そして、自分がどれほど助けられたヴァスティーユのことを想っているかを伝える必要はないと考え、今度は言葉ではなく肯定する意味で頭を縦に振って返す。するとサヤからは、自分が理解しがたい答えが返ってきた。


「あの盾の創造者が消した存在は、この世界の人々から記憶も消されてしまうんだよ。だからアンタが覚えてくれているってことは、ヴァスティーユはまだ消されていないってことなんだよね」







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