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第六章 【二つの世界】
6-495 経過
しおりを挟むあの時代から、かなりの時が流れていった
エレーナという名は思い出せても、今ではすぐにはどんな声だったのかも思い出せない程の時の中を。
ただ、そのつながりは今でも続いている。
グラキース山の山中に、一人で過ごすには十分の大きさの家がある。
ハルナは土の元素を操り、この家を作り上げた。家は何度か作り直し、この家が何回目だったかはもう数えてはいない。
その家は、長い時間の中でも朽ちることなく存在し続けていた。
いつしかそこは、神の住む家として、東の王国……いまでは東西が統一してひとつの王国の中に広がっている。
その家には、国王から許しを得た限られた者しか立ち入ることができない。
山の麓に光が当たるころ、いつものようにハルナの様子を見に来ている者が訪れる。
「おはようございます、ハルナ様」
「おはようございます、スミレさん。今日もありがとね」
「ふふふ、ハルナ様はいつも同じことをおっしゃるのですね?」
その女性は、ハルナに向かってそう告げる。
その面影はどこか、エレーナのことを思い出させる顔立ちをしていた。
ハルナの面倒を見てくれている家の者たちは、ステイビルとマーホンとエレーナの家系が主に面倒を見てくれている。
ブンデルとサナも、二人の子を連れて遊びに来てくれている。
エレーナの家系に生まれた子たちは、これまで全てハルナがその名を与えていた。そうすることにより、ハルナとのつながりを途切れさせないという思いが、エレーナとアルベルトによって今でもしきたりとして続いている。
ハルナは、このタイミングで思い返す。この子は、エレーナから数えてどのくらいの子孫なのかと。
しかし、そんなことを考えても、何も変わらないのでハルナはすぐに考えることを止めた。
「では、今日も行かれますか?」
「えぇ、お願いします」
そう言ってハルナは席を立ち、スミレが前を歩いてその場所まで誘導していく。
「いってらっしゃいませ」
ハルナは、王国から派遣されたメイドにそう声を掛けられる。
ハルナの世話をしてくれるメイドは、入れ替えの時期以外は常に一人だけメイドが滞在していた。
本当は何人かで、この家の世話を回していくことになっていたが、ハルナ自身が落ち着かないと告げたことにより、専属のメイドが付くようになった。
このメイドも一般のメイドではなく、ソフィーネのような護身術を獲得しているメイドで、万が一ハルナに危険なことが起きた場合にも対処できるようにとの王国側の要望を受け入れた形でこのようになっていた。
スミレが付き添った先は、ハルナが元いた世界でよく見た墓石だった。
そこに、ハルナに付き添ってくれたエレーナの代々の者の身体の一部が収められていた。
元の世界で、ハルナ自身に特に信じる宗教は無かったが、ハルナが思いつく方法で自分に尽くしてくれた者たちへの感謝の気持ちを込めて、こうしてその痕跡を残していた。
「……うん、ありがとね。さぁ、戻りましょう」
「私も……この中に入れていただけますか?」
「え?まだ早いでしょ?」
「でも、ハルナ様が大切にされてきた方々の中に……私も一緒に入りたいと思っています」
「……そう。でも、まだそんなこと考えなくてもいいのよ?もしかしたら、私の方が先に……」
「そんなことをおっしゃらないでください。ハルナ様は、神の力をお持ちなのですから。それにその胸の石を溶かしてしまうのに、まだまだ時間がかかるのでしょ?」
「どうかしらね?最初の頃に比べたら、随分と小さくなっているんだけど……」
そう言って、ハルナは首から下げているネックレスの先に付いた入れ物の中の石を見る。
ここには、盾の創造者を閉じ込めた石が入っている。これまで何の問題もなくハルナの力によってここまで小さくすることができた。
長い時間を過ごしてきたハルナからすれば、この石が消滅するまであと少しと言ったところだった。
「では、戻りましょう。戻れば食事の準備もできていることでしょう」
スミレは、そう言ってハルナを家の方へと案内する。
ハルナたちは家に戻り、いつものように食事を摂った。
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