上 下
6 / 51

第6話 課外活動

しおりを挟む
 それから一月は、巽先生の術式の授業と虎堂先生のしごき、もとい実技の授業だった。 模擬戦闘をする度、負傷者が出ていたが、何とか僕と灰と雅は付いていった。


 授業終わり、


「痛たた......ハードすぎるだろ......毎日毎日、戦闘訓練、ここは軍隊か......大体怪我人多すぎて、全員揃うこともないしな」


 灰が愚痴をこぼした。


「だけど、雅は回復術式と灰は新しい攻撃術式を覚えただろ。 僕は霊力の形を変化させるのは上達したけど、術式はからきしだし、霊力を無くす方法も全くわからないし......」


「そもそも霊力を上げる場所ですから、霊力を無くす方法を探すのは難しいんじゃ......」


 困った顔をして雅が僕に言う、


「確かに、先生に聞いてもそんなものはないって、答えてくれなかったし」


「おい、お前達」


 虎堂先生が僕達に声をかける。


「明日、土光薙、鬼灯、犬境の三人課外活動を受けてもらう、朝五時に校門前に集合するように」


 そう用件だけ言うと去っていった。 僕達は三人で顔を見合わせる。


(いやな予感がする......)


 僕はそう思った。




 次の日の、朝まだ日も上らない時刻、校門前に僕達は集まった。


「ふぁ、何でこんな早いんだ」


 あくびをしながら灰が言う。


「課外授業ってなんだろう? どこかに行くってことかな」


「多分そうでしょうね。 でもこの間の森の事があったのに、学園の外はより危険では......」


 僕の問いに、そう不安げに雅は答えた。


「学園に刺客がいないとは限らないぜ、あれはお前達二人のどっちかを狙ってただろうからな」


 そう厳しい顔で灰は言った。 


「......それならおそらく僕だろうね。 上級生の人が怪我をしたって言ってたけど、そこまでして狙う理由がわからない」


「幸い命に別状はないんだろ。 それより他の五行家が土光薙家の力を削ごうとしてるのかもな.....」


「僕が、そんな強力な術士じゃないのは、すぐにわかるんじゃないの?」


「そんな! 神無様はすごい術士ですよ!」


 雅が必死にそう言う。


「でも、術式を使えないのに、そんな危険視するかな?」


「そ、それは......」


 雅は口ごもる。


 まあ当然だ。 この世界は術式が重要視される、術式の使えない僕なんて、脅威に感じられはしないだろう。


「それに僕を殺しても本家か、。 他の分家から誰かが当主になるんじゃないの?」


「ええ、おそらくは......」


「だとすれば、身内でお前の地位を狙う奴がいるんじゃねーのか」


 灰の言葉に僕が雅の方を見ると、、


「......土光薙家は十六家あり、分家は竜場《りゅうば》家、羊石《ようせき》家、牛砂《うしずな》家、そして私の家犬境《けんきょう》家、そして戊《つちのえ》家、己《つちのと》家の六家と神無様以外の土光薙の九家。 この十五家から土光薙家に養子に入り当主を望む者がいないかといわれれば......」


「その可能性はないわけでもない、か......」


 僕はため息が出てきた。


「別に殺さなくても、半年後どうせ代わるし、欲しいなら今からでも代わってあげるのに」


「何をおっしゃるのです! 神無様が当主である方が良いに決まっています!」


 鼻息を荒くして雅が答えた。


 そんな話をしていると軍用みたいなジープが来た。 運転席から虎堂先生が顔をだし、


「よし揃ったな、いくぞ乗れ」


 僕達は荷台に乗せられ、僕が聞いた。


「虎堂先生、課外活動って何をするんてすか?」


「陰陽師の活動と言えば、怨霊や魔物、妖退治に決まっているだろう。 今回は私が依頼を受けたある神社に巣食う魔物退治だ。 こいつは強いらしい、気を引き締めろ。


「仕事の手伝いかよ」 


 灰が不満そうに言った。


「当然だ、我々もボランティアじゃない。 元々陰陽師が主で教師は兼業だ。 戦力の確保も含めて教師をしている」


「俺たちは駒じゃねーぞ」


「実戦に勝る訓練はない。 戦う私から学べるということは強くなるチャンスだぞ」


 虎堂先生は笑いながら答えた。


 神社に着くと嫌な感覚が付きまとう。 神社周辺に僕の霊力感知でも、かなりの数が感知できた。 


「100体以上はいますよ」


 僕が言うと、虎堂先生は、


「ほう、土光薙。 貴様、広範囲の霊力感知が出来るのか、珍しいな」


「一応......強さはわかりませんけど」


「バラバラに散って倒すのですか?」


 雅が聞くと、


「いや、ほとんどが雑魚だろうが、その中に頭がいるそいつに当たると危険だ。 全員で各個撃破する。 土光薙は敵の場所を指示、鬼灯は煙幕、犬境は回復だ。 攻撃は私がやる」


 虎堂先生を前に神社の中に入った。 中は濃い霧がかかり、狭間の森のように奇妙な植物が生える異界と化していた。 灰の煙幕で周囲を包みながら移動する。


「ここも、隠世なんですか?」


 僕が先を行く虎堂先生に聞くと、


「いいや、ここは魔物が作った領域、玄界《げんかい》だ。 ここは外界とは隔絶している結界のようなもの、作った本体を倒さないと出られず、ああなる」


 虎堂先生が指差す方に巫女服の白骨があった。 その時左から高速で近づいてくるのを感じた。


「先生、左から一体きます!」


「わかった!」


 霧の奥から人ぐらいの人ぐらいの大きな赤い蜘蛛が現れた。 虎堂先生は術式を唱えて、懐から符を取り出し投げると、符は双頭の虎となった。 蜘蛛は糸を吐いたが、虎はかわし、片方の頭から火を吹いた。 蜘蛛は揉んどり打ってもがき、そして動かなくなった。


「これで、一体か...... !? 先生! 他の全部がこっちに向かってきます!」


「どうやら、繋がってるみたいだな血族か!......逃げられないな......これは迎え撃つしかないか、よし全員対処しておけ!」


「先生、僕思い付いたことがあるので試していいですか」


「......いいだろう、やってみろ」


 僕は、霊力を集めると球状にして留めた。 霧の奥からガサガサと音が全方位からして、さっきと同じ蜘蛛達が大量に現れた。 僕は作った球体を上空に放ち、一気に爆発させると、霊力の雨が蜘蛛達に降り注いだ。蜘蛛達は、なすすべなく地面に転がっていく。


「うお! すげえ!」   


「神無様!」

 
「こいつはおどろいた......何て量の霊力だ......」


「いえ、まだ一体......来ます!」


 霧に巨大な影が揺らめく、上から巨石のように何かが振ってきた。 


 ドガッ!!


 地面に突き刺さった巨大なそれは、蜘蛛の前肢だった。
 

「わらわのかわいい子供達を殺してくれたのは、お前達かえ」


 現れたのは山のような蜘蛛だった。

 
「ちっ! 言語をかいする妖大《たいよう》か!」


 虎堂先生が舌打ちして言った。


「この化けもんが!」


 雅と灰が炎弾と石弾を撃ち込むが、びくともしなかった。


「お前達を新たな子供達の苗床なえどこにしてやるわえ」


 蜘蛛は糸を大量に吐き出した。 僕達は絡みとられる、僕の霊刃でも斬れずもがいていると、


「落ち着け!」


 そういうと先生は術式を唱えている。


「何をしても無駄なことよ」

 
「式神依装《しきがみいそう》、《翠虎脚》(すいこきゃく)!」


 そう言うと先生の腕がみるみる変化していき緑の獣の前肢になった。そして振るった爪は風を纏って糸を切り、僕達の糸を切ると、蜘蛛の前肢をいとも簡単に切り裂いた。


「ギャアアアアアア」


 咆哮とも鳴き声ともつかない音をだして、蜘蛛はすごいスピードで逃げようとするが、獣の前肢を使ってそれを上回る速さで先生が追い付き、


「何故じゃ! 何故逃げられぬ!」


 そう蜘蛛がもがいてる所を、先生がその身体を双爪で切り裂いた。 すると、最初ピクピク動いていたが、そのうちに動かなくなった。


 人の姿に戻った先生は、深い深呼吸をして、


「まさか大妖《たいよう》とはな......依頼内容と違うな」


「大妖?」 


 僕が疑問に思っていると、


「元々神だったが、信仰心がなくなりほとんどの力を失って妖化した奴だ。 本来プロの陰陽師がチームで戦うレベルだがな......依頼ではそんな話聞いてない、これは、はめられたか......」


「僕狙いですか......」


「......」


 先生は答えなかったが、それが答えだと僕は悟った。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...