上 下
7 / 51

第7話 師事

しおりを挟む
 教室で巽先生が話を始めた。


「前にもいったが、二週間後には、磨術祭《まじゅつさい》が始まる。 高等部一年~大学部四年までが参加する個人戦のトーナメントだ。 このクラスから四名がエントリーされる」


「金形代 鍊、鬼灯 灰、犬境 雅、そして土光薙神無だ」


 クラスメートから、歓声と拍手がおこり、


「頑張れよ!」


「私たち応援してるからね!」


「負けんなよな!」


 など盛り上がっている。 授業が終わると帰ろうとする金形代君と目が合うが、何も言わず去っていった。


「おかしいな、お前ら程度が俺様と並ぶなどおこがましいとか言うと思ったのにな」


 そう金形代君の物真似をして灰が言う。


「神無様は嬉しくないのですか」


「気が滅入るよ、なんで僕がエントリーされるんだ......術式も使えないのに......」


「単純に戦闘力が高いからだろ。 このクラスじゃ金形代は嫌いだが、四名なら確定だろ。それよりお前俺と当たったら必ず本気出せよ、手を抜いたら許さねえぞ!」


「その前に、私があなたを倒しますよ、鬼灯さん」


「おもしれえが、雅、お前は神無と当たったらどうすんだ」


「当然、全力で戦います。 それでも力及びませんでしょうが、胸を借りるつもりでやります。」


 雅と灰は真剣な眼差しでこちらを見ている。 二人とも本気だ、これは手を抜けないな......そう僕は思った。


 それから、二週間自由行動が認められた。 二人はそれぞれ修行すると言っていた。 僕も本気でやるなら今のままではダメだろうな、どこかで修行しないと。 そう思って帰ろうとすると、巽先生がこちらに来た。


「土光薙、ちょっといいか」


「はい、何ですか?」


「少し頼まれてくれないか?」


「ええ......構いませんけど」


 先生から頼まれたのは、街から少し離れた山に住むと言うある人への手紙だった。
  



 僕は、霊力感知をしながら山道を歩き思った。


 メールなんかじゃダメなのかな、というかスマホもタブレットも禁止だから無理か......そもそもこんなことしてる場合じゃないんだけど......そう思いながら歩いていると、山の峠に小さないおりを見つけた。


「ここか......あの、すみませーん」


「誰だ? お前は......」


 後ろから声をかけられ驚いた。 そこには、小学生位の巫女姿の少女がいた。 驚いたのは霊力感知してたのに、全く気づかなかったからだ。


「誰かと聞いてるんだ」


 金色の髪の少女は、そう言うと腰を引いて構えた。


「待って! 巽先生から手紙を預かって来ました」


「巽君から......」


 庵の奥から、ながい黒髪の綺麗な和服の女性が出てきた。


「よみ、どうする? こいつ殺すか?」


 こちらを睨み付けら恐ろしいことを言う少女に、よみと呼ばれた目をつぶった和服の女性は、


「お止めなさい、麟《りん》、ご免なさいね、それで、君は......」


「僕は土光薙 神無です......これ巽先生からの手紙で」


「土光薙の......」


 僕は手紙を渡し、それでは、と帰ろうとした。


「......少し待って」


 女性は僕を呼び止め、庵に来るように促した。 理由はわからないものの付いていくと、座敷でお茶を出された。 手紙を読んだ後、よみさんは話し始めた。


「手紙を読みました。 どうやら巽君は、私に君を預けたいらしいのだけれど......」


「先生が僕をあなたに?」


「私は黄龍《きりゅう》よみ、この子は麟《りん》よ、神無君」


「でも、どうして......」


「君は狙われていると書かれているわ。 相手はわからないけど、とも、私なら大丈夫だからでしょうね」


 そう言うとゆっくりお茶を飲んだ。


「大丈夫......?」


「ええ、誰が狙っていたとしても、おそらく土光薙家絡みの事でしょう。 私は関係ないから」


「黄龍家は、本来五行家と同格だった、だが権力争いを嫌うよみは奴らから離れ、ここで隠居してるんだ」


 麟さんがそう言うと、よみさんは、


「君の事を頼まれたけど、私は......」


「あの! 霊力を無くす方法知りませんか!」


 遮って話した僕の話に、よみさんと麟という少女は驚いている。


「はあ? お前は馬鹿か! 陰陽師が霊力無くすなんて、なに考えてんだよ!」

 
「どういうことかしら、話してもらえる?」 


 よみさんに、子供の頃からと今の状況を話した。


「なるほど......君は別に力や権力を求めてないのね」 


「信じられない、よみといい......陰陽師は霊力こそ全てなのにな」


「でも、霊力を無くすことは無理ね、封印や結界に一時的に閉じ込めることは可能だけど、普通の生活はできないわ......ご免なさいね」


「そうですか......やはり、付き合っていかないといけないのですね......」


 落ち込む僕に、静かによみさんは言った。


「......いいわ、君の修行を手伝いましょう、君が力を持てば魔物や妖、人に干渉されずらくなるから」


 こうして僕は、よみさんのもとで修行することになった。




 それから一緒にに来るよう言われ付いていくと、川に着いた。 よみさんは、


「まず、神無君、君は霊力のコントロールを覚えないといけないわ」


「えっ! それはできていると思いますが......」


「いいえ、私の霊力を感知してみなさい」


「僕は常に霊力感知をつかっ......え? ない! よみさんの霊力が姿は見えてるのに! それに麟ちゃんも感じない」


 麟ちゃんは、大きな岩に座りにやにやしている。


「霊力を感じないでしょう、私と麟は、霊力を絞って感知されずらくしているの。 もしあなたを襲って来た者が、これが出来てたら君は死んでいたでしょうね」


 確かにこの力で安心しきっていた。 感知できない者もいるのか......
 僕は背筋が凍るよう感じた。


「君は常に全身から霊力を出し続けているの。 そしてその一部を使うときだけ分配をしている。 他の使わなかった霊力は無駄になっているのね、これから出力を下げて出す練習をするわね。 私の封印術で君の霊力を一時的に封じるわ」


 よみさんはそう言うと、術式を唱えた。


「黄龍封印術、《龍鱗封陣》(りゅうりんほうじん》」


 金色の紋様が僕の身体を這うように回り、体に紋様が染み込むようにくっついた。 すると急に身体が重くなり、上手く体を動かせなくなった。


「お、重い......」


「さっき霊力を封印できないと言ったのは、普通の人でも霊力を補助に使って身体を動かしているから、それを縛ると、まともに動けなくなるの。 ほんの少し漏れでる霊力で、その体を自由に動かせられるようになれば、霊力のコントロールができるようになるわ」


 庵まで帰ってらっしゃい、とよみさんは帰っていった。 僕は歩こうとするが、上手く歩けないどころか、まともに立つこともできない。 立っては転び、立っては転びを続けていると、


「全く、見ていられないね、さっきよみが言ってたろ。 体から漏れ出す霊力を使うんだってば、無理やり体を動かしてもダメなんだよ」


 麟ちゃんはそう言って呆れている。


 漏れている霊力を使うか......僕は意識を集中し、目を閉じて自分の霊力を感じる。 すると、うっすらと煙のように体から立ち登る霊力を感じ取った。 それらを紡いで糸のようになるよう意識して、体の中に通すようにしてみた。 すると、


「動ける! まだ重いけど動くことはできるぞ!」


 僕の体はぎこちないが、ゆっくりと動き出せた。


「......あれだけでもう動けるんだ......」


 感心したように麟ちゃんは呟いた。


「ありがとう! 麟ちゃん! アドバイスで少しつかめたよ!」


 と僕が感謝を伝えると、麟ちゃんは顔を赤くし、


「な、別に私は、ただみっともないから、言っただけだ......あと麟ちゃんは止めろ、麟でいい!」


 そう言うとプイと顔を背けた。


「よし! これを上手く出来るようになれば......」


 僕は集中を切らさないよう慎重に霊力を操作し、無駄を無くすため動かす部位だけに霊力を集めた。


 もう日も落ちて暗くなる頃、僕はなんとか庵にたどり着いた。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...