上 下
9 / 51

第9話 磨術祭② 控え室

しおりを挟む
 出場者控え室に戻った僕達は、一回戦をモニターで見ていた。 モニターでは森の中、山、都市等で戦っている姿が映っていた。


「これ戦ってるの、森とかの映像だけど、結界なの」


「そうだ空間結界《くうかんけっかい》だな。 舞台上に別の空間を作り出す術だ。 かなり広くて周囲に被害を出さないように作ってあるんだ。 相当な術だぞ」


 麟がそう答えた。


「あっ! テメー、どっから現れた! さっきの借り......」


「まあまあ、灰。 今はこの試合に集中して」


 灰が麟を睨むと、麟はふんと鼻を鳴らした。
 

「それより、僕は114番だけど、灰は何番?」


「あ、ああ俺は20番だよ、別のブロックだ」


「なら、当たるのは後半だね」


「ああ、俺と当たるまでは負けるなよ。 次の一回戦が始まった。 雅だ」


 モニターに雅が映った。 戦いの舞台は森の中で相手は巨漢の男だ。 


「おいおい、相手高等部の三年だぞ。 大丈夫かよあいつ」


「霊力的には男を凌駕してる。 大丈夫だろ」

 
 麟の言葉に灰は驚き、


「お前も、霊力感知ができるのか」


「できて当然だろ」


「余程近くならな。 こんな距離感知できるのは神無ぐらいだ。 お前意外にスゲーな」

 
 麟は、そう素直に褒められて、まんざらでもない顔をしていた。


 巨漢の男は、その体に似合わず、俊敏な動きで木々を飛び回る。 雅は動かず男を見ている。 男が術式を唱えると、地面から多数の木の根が伸び、雅の体を縛り上げた。


 男は木の根を更に鋭く伸ばし雅を襲うが、その瞬間、男の下から、


 ゴゴゴ!! 
 
 と巨大な岩が付き出した。 男は飛んで逃げようとするが、


 バン! 


 と何かに当たったように見え、岩に突き上げられた。 地面に落ちた男を見ることもなく雅は、ゆうゆうと舞台を後にした。


「おい......今の結界術か......」 
 

 灰が驚いて僕に聞いた。


「結界かどうかはわからないけど、気づかれないように相手を閉じ込めたんだと思う」


「そんな高度な術式使えんのかよ。 あいつ」


「僕が土光薙家に行くまでは、当主候補だったらしいよ」


「まじかよ......こりゃ、あいつも侮れねえな......おっと、もうすぐ俺の番だ」


「頑張って!」


 僕が言うと、おう! と言って灰は走っていった。


 入れ替わるように、雅が戻ってきた。


「おかえり、凄いね、あの閉じ込めたやつ」


「は、はい、そんな大したことないですよ......っていうか、またあなたですか! ここは出場者の控え室ですよ! 出ていきなさい!」

 
 麟に雅が食って掛かる。 麟は舌をだし雅を挑発してる。


「で、でも、術式を使ったの気付かなかったよ」


「あれは術式を使いません。 霊境《たまざかい》、霊力で作った球体なので、術式を唱えたりしないので気づかれないんですよ」


「霊力? 僕と同じ」
  

「は、はい、 神無様の真似をしたんです。 神無様より少ない霊力なので足止め位しか使えませんけど......」


「凄いね! あんな使い方があったんだ。 僕も使ってみよう」


 僕が褒めると雅は両手を出して言う。


「はい! どうぞお使いください」


「あっ! 灰だ!」


 灰がモニターに映る。 舞台はどうやら水辺のようだ。 
 

「鬼灯さんは火行術の使い手、相手は水行術使いのようです。 五行で火は水に弱い、相性は最悪ですね」


 相手は水の上に立って、水弾を灰に撃ち込んでいる。 灰はそれをかわし炎弾を撃ち込むも、波の盾を作り防いでいる。 相手は巨大な水の球を頭上に作るとぶつけて、灰を水球の中に閉じ込めた。 


「このままだと気絶しますね。 あれだけ息巻いてたのにがっかりです......」


 雅がため息をつくと、


「よく見なよ、これで終わらないから」

 
 そう麟が言うと、灰の体ががみるみる赤くなっていき、水球が弾けた。 大量の蒸気に包まれ、相手が灰の姿を見失うと、蒸気の中から飛びだした灰は、相手が出した波の盾ごと殴り付けた。 相手は水面を何度か跳ねて水の中に沈んでいった。


「なんですか!? あの熱量!!......体に纏えば大火傷なのに......」

 
 驚く雅に、僕はいった。


「多分、火行だけじゃなく金行の術も使ったんだよ」


「なるほど体を金属化して、それで炎に耐えたと......修行するといってたのは、本当だったのですね、それにしても神無様、術の種類もわかるなんてさすがです!」


 僕は霊力コントロールのおかげで、相手の術の性質を感じ取れるようになっていた。


 灰が戻ってきて、


「ついてねえ、水辺に水行使いとはな。 まあ俺の新術で倒せたがな」

 
 灰は自信たっぷりに言った。


「金行まで使えるとは、見直しましたよ」


 雅が言うと、灰は驚いて、


「なぜだ!? 俺の術を知っているだと!」


「神無様は、お見通しでしたよ」

 
 そう雅に言われて、


「くそっ! まさか簡単に分析されるとは......だが、全て見せたわけじゃねえ、まだとっておきがあるからな。 俺と当たるまで負けるなよ!」


 そう灰に言われてた。


「わかった、頑張るよ」


 その後、次々と試合が進み、金形代君も簡単に初戦を突破した。


「あいつ、やっぱつえーな、大学一年に圧勝だったぜ」


「ええ、あの金行術、固いから攻撃にも、防御にも転じられる汎用性があるんですよね。 かなりの強敵です」


「どこがだよ、霊力ぶれぶれじゃねーか」
 

 麟がそう言った。 確かに僕も少し違和感を覚えていた。

 
(前はもっと洗練された霊力の動きだった。 何か思うところがあるのかな)


 僕の番が来た。 控え室を後にする僕に、


「頑張れよ! こんなとこで負けんなよ!」

 
「当たり前です! こんな所で神無様が負けるわけないでしょう!」


 二人は変なプレッシャーを与えてくる。


「うー、負けたら、どうしよう」


 僕はそう思いながら会場に入った。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...