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第13話 磨術祭⑥ 木導院 森理《きどういん しんり》

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 僕が控え室に戻ると、灰の隣に車椅子の雅がいた。


「雅!? 大丈夫!」


 僕が駆け寄ると、


「......申し訳ございません......神無様、あんな無様な姿を晒すとは......あれほどの大口を叩きながら情けない......」


「それを言えば俺もだな......」 


 落ち込む雅と灰に、


「仕方ないよ、相手が強すぎた。 灰や雅が弱いわけじゃない、何か特殊な術式を使ってるんだ。 必ず僕が倒して見せるよ」


「そう簡単にいけばいいな......」


 そう言って、甲 蕈留が、話しかけてきた。 


「甲さん......」   


「まさか、土光薙君、仲間の敵討ちとでも言うつもりか」


「いいや、試合は試合、あなたが悪いわけじゃない、二人もそれはわかってる」


「そう、ずいぶん冷静だな......でも僕は違う」


 甲は長髪の中性的で綺麗な顔をしながら、こちらに敵意をむき出しにして、


「僕の父は10年前に、五行家に殺されたからな」

 
 そう憎々しげにそういった。


「10年前......」


「まさか!? あなたの父は!」


「木導院 森理《きどういん しんり》か!?」

 
 雅と灰が驚きながら言うと、


「そうだ......僕の父は木導院 森理、かつて最強の陰陽師と呼ばれた術士。 甲は母方の姓、そして五行家に殺された」


「それは、あなたの父親が操られ多くの術士を殺めたから!」


「そうだ、父は操られ多くの術士を殺した。 だが......僕の父を殺したのは、五行家だった!」


 激昂した甲はすぐ気持ちを抑えるように話し始めた。


「僕の父、森理は、このいびつな陰陽師の世界を嫌い、序列、家の上下を無くすべきだと主張していた。 それを不満に思っていた五行家が、姓 無名《かばね むめい》という男にに暗殺を依頼した。 10年前僕を人質に取って両親を殺した無名は、僕の父を操り陰陽師達を支配しようとして倒された」


「全ては五行家のせい......僕は五行家を許しはしない」


 そう吐き捨てるように言うと、甲は去っていった。


「本当にそんなことがあったの?」


「わかりません......ただ、確かに木導院 森理は死に、それを操った姓 無名も五行家によって倒されています」


「ああ......森理の考えは当時、木導院家内ですら反対する者がいたって聞くぜ、殺されても不思議じゃねえな」


 雅と灰は悲痛な面持ちでそう語った。
 

 その時、準々決勝、最後の試合、壬 冴《みずのえ さえ》が勝ち上がり、《僕VS甲 蕈留》、《兎木 香VS壬 冴》の組み合わせが決定した。


「神無様、甲さんがもしあなたを殺そうとする場合、ためらわず負けを認めてください......無理はしないで......」


 そう懇願するように雅は言い、


「そうだ、俺達の為に、無茶だけはするな」


 灰も同調した。


「ああ、わかった」


 そう言って気持ちの整理がつかぬまま、準決勝に僕は向かった。


 会場に入り舞台に上がり、甲と対峙する舞台は草原だった。


「僕を殺しても土光薙家は新しい当主を立てるだけだ」


「君を殺すことが目的じゃない、五行家や他の有力家から権力を奪うには、僕の意見に賛同するものを集める必要がある。それには力を見せつけなければならない、父のように。 この磨術祭に優勝すれば力を誇示できるはずだ」


(!? どういうことだ......僕を狙ってたのは彼じゃないのか?)


「いくぞ!」


 甲は強力な木の根を撃ち込んでくる。 僕は霊球で防いだ。 それをみた彼はニヤリと笑う。 次の瞬間、霊球は爆発した。 


「さすがだ。 複数枚層を重ねてたな。 でも」

 
 彼の言うとおり、重ね合わせた球の層が次々爆発してくる。 僕はとっさに球から離れた。


(何だ!? 最初の木の根以外は霊力を使ってないはずなのに、僕の球が爆発するときだけ、霊力を感じる......どうなっているんだ、ただ、複数の球が爆発した時、威力が低い......もしかして、)
  

 甲はまた木の根を撃ち込んでくる。 僕は霊甲で受けると爆発した。


(やはり、爆発したが威力は弱い、これは)


「霊壁《れいへき》」


 僕は、前方に霊力の壁を作り出した。 甲さんは、


「なるほど、気づいたのか、さすがだ」


「あなたの木の根には何かが仕込まれていて、それが爆発するとくっついた物の霊力でまた爆発する。 その術は霊力の高いもの程、爆発力が大きくなる」


「ご名答、 僕の木火金行、咒爆菌《じゅばくきん》は、爆発する菌。霊力を糧に成長して爆発し箘を撒き散らす、霊力がある限り爆発は止まらない。......そうか、だから自分から離した所に霊力の厚い壁を作ったのか、だが全て爆発するまで待てばいいだけ」

 
 そう言うと、甲は木の根を撃ちまくった。 爆発は連鎖し壁は一気に崩壊した。


「さあ、醜く抵抗するといい! それを僕が完膚なきまでに叩き潰して、力を見せつける! 必ず五行家を崩壊させてやろう」


 甲がそういった瞬間、彼の周りでパンと爆発が起こった。 それはいくつもの箇所で連続的に起こり始めた。


「なっ!? なんだ、これは!!」


「あなたが壁を爆破している時、霊力の糸、霊織《れいしき》で 君を中心に周りを囲ませてもらった。爆発してとんだ箘が霊力を吸って成長したんだ。 中心にいくほど霊力を強めている。 ガードも爆発を強めるからやめた方がいい」


 僕がそう言うと、甲が動こうとした、だが、糸にからめとられて動けなくなっていた。 爆発は速く、そして、大きくなって中心へと向かい、甲は爆発に巻き込まれた。

 
 大きな爆発音のあと、甲はふらふらと立ち上がり、


「......最後、糸を外したな......なんのつもりだ、情けでもかけたつもりなのか......」


「別に僕は甲さんに恨みなんかないから......でも僕も優勝する必要ができたんだ」


「そうか......少し君は違うのかも知れない......」


 とだけ言うと、甲はよろよろと舞台を降りていった。 その背中を見ながら僕は覚悟を決めていた。
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