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第49話 魂継の儀⑬ 決勝②

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「あれでよかったの......うずめ」      

 
 僕が聞くと、


「うん......これ以上やる必要も価値もないから、それに犀も解放できたしね」


 うずめは笑いながらそう言った。


「では、俺の番だな」


 鍊が舞台に上がる。 相手は着物姿の若い女性だった。


「お前も匿われていたくちか......」


「いいえ......私はある術式を得るために契約しただけよ......鍊」


「俺を知っている......何者だ」


「いやね......幼いときに会ったことがあるでしょ」


「まさか!? 鏡《きょう》!! そんなもう70才は越えているはず! あんたは宗像の妹なんだから!」


「ふっふっ、そうね」


「傀儡か......」


「いいえ、兄さんみたいに、体を人形にするつもりはないわ。 土光薙の秘術で永遠の若さを得たのよ」


「あいつらが何をしてるか知って協力しているなら、容赦はしない......」


「もちろん知ってるは、全てではないけどね。 でも私にとってはどうでもいいこと......美しさ以外興味はないわ」


 それを聞いた鍊は構える。


「では、中堅戦、金型代 鍊、対、土光薙 かがみ、始め!」


 二人は術式を唱える。


「金火土木行、黄金具足《こがねぐそく》!」


 鍊が金色の甲冑を纏うと、


「綺麗な甲冑ね」


 そう言うと鏡は術式を唱えた。


「金土水火行、併せ万華鏡《あわせまんげきょう》」


 舞台の地面から複数の鏡がせりだしてくると、鏡の中から鍊と同じ傀儡が出てきた。


「なっ! 俺の黄金具足が!」


 鍊は鏡の鍊と戦うも同じ力で対応される。


「こいつ! 俺と同じ力を!」


「ええ、同じ力を持ってるわ。 さあ自分に勝てるかしら」


 鍊は戦いながら術式を唱える。


「金木火行、白銀具足」


 銀の甲冑を出して、本体を攻撃に向かう。


「なるほど......鏡の自分と戦いながら私を傀儡で攻撃するのね。 でも......」


 鏡から銀の甲冑が出てきて、傀儡の攻撃を防いだ。


「くっ! まだ出せるのか!」


「残念ね、私の知る術ならどれだけでも鏡から出せるわ」


 鍊は術式を唱える。


「金土行、黒鉄具足《くろがねぐそく》、金水行、青金具足《あおがねぐそく》、金火行、赤銅具足《あかがねぐそく》」

 
 三体の傀儡を出して攻撃させる。 だが、鏡から三体の傀儡がでてくる。


「ふふふ、霊力切れを狙ってるなら無駄よ。私には咒霊蟲から霊力が供給されてるから、あなたが先に死ぬわ」


 そう笑いながら鏡は言った。 鍊は苦痛に顔を歪めながら更に術式を唱える。


「......金土水火木行、五金具足《ごきんぐそく》」


 五つの具足が合わさり、一つの具足になる。


「なに!? そんな術みたことがない!!」

 
「当然だ......俺が編み出した術だからな......」


 鍊は驚く鏡にそう言うと、相手の五体の傀儡を叩き壊し鏡に迫る。


「ひぃ!」


 怯える鏡の前で、鍊はそのまま倒れた。


 僕達が舞台に上がり鍊を抱えると、


「霊力が尽きたんだ......こんなになるまで戦うなんて」


「お前に賭けているんだ......皆な」


 僕に蕈留さんがいった。


 鍊を連れていくと、会場外で巽先生が待っていて、


「灰は大丈夫だ......鍊も私が医務室まで連れていこう」


「ありがとうございます......お願いします」


 戻ると舞台に蕈留さんが舞台に上がっていく、相手は巨漢の男だった。 


「お前も土光薙と何の関係があるのか......」


「フフ、ああ......ここにいれば最強の肉体を手に入れられるからな」


 そう言う男の腕を見た蕈留さんは、


「その腕の火傷、間違いない! 何故だ! 死んだはず!」


「ああ......死んだよ。 この体の持ち主、木導院 森理はな」


「どういうことだ! それは父さんが僕を魔物から庇って付けた火傷の跡!!」


「私を覚えていないのか蕈留、木導院 極《きわめ》だ」


「極!? 父さんと当主を競ったという男!」


「ああ、そうだ。 私は術の才能こそ森理より優れていたが、肉体が奴より弱かった。 それ故当主になれなかったのだ」


「それで、父さんの体を奪ったというのか!」


「ああ、様々な肉体を奪い取っていたが、森理の体だけは見つからなかったのだ。 それは土光薙に奪われていたからな。 だから森理の体を得る代わりに協力していた。 そしてついに、私は最強の陰陽師の肉体を得た!」


「貴様!!」


「副将戦、甲 蕈留、対、土光薙 百手《ももて》」



 蕈留さんは術式を唱えた。


「木土水金行! 霊食樹林《れいしょくじゅりん》!」


 舞台より大きな樹が次々生え、その根が極に絡み付く。 


「このまま霊力を全て奪い取られろ!」


「無駄だ」


 極に絡み付いてた根が枯れ始め樹も全て枯れてしまう。


「どういうことだ!? 霊力を奪うはずなのに!」


「お前の父は強大な霊力の器。 この肉体の霊力を吸いとりきれず枯れたのさ」


「くっ! 霊力が大きいなら!」


 蕈留さんは術式を唱え咒爆菌を放った。 極は避けもせず受けるが、爆発はしなかった。


「なんだと!?」


「森理は霊力のコントロールをも極めていた。 体がそれを覚えている。 精神は肉体のしもべというだろう」


 蕈留さんが術式を繰り出すも、森理には効かない。


「無駄だ。この体は霊力と琥珀で固めている。 並みの術では傷すら付かない。 お前も私のコレクションにしてやろう」


 そういうと極は術式を唱えた。


「木水金土行、琥珀樹海《こはくじゅかい》」


 巨大な樹が地面から生えると、樹から樹液が大量に吹き出した。


「くっ、体が!」


 蕈留さんの周りの樹液が固まり始める。 蕈留さんは術式を唱えた。


「最早固まるしかないのだ。 諦めて父親同様、私のコレクションとなるがいい」


 蕈留さんはキノコを撃ちだした。


「霊吸茸......霊力で増えるキノコか......霊力を抑えればなんともない無駄なことを......」


 蕈留さんは樹液に埋まっていく。  


「もうすぐ固まり琥珀となるな」


 その時、極の体から茸が生え出す。


「なに!? 霊吸茸は霊力がなければ増えないはず! 咒霊蟲も守ってたのに! くそ! このままではキノコが増え続ける! ちっ!」


 極は舌打ちし術式を唱える。 


「木水土金行、百腕巨人《ヘカトンケイル》!」


 極の体が変わり、腕が多数ある姿になった。


「いいだろう! お前は琥珀にせずこの力で粉砕してやる!」


 そう言うと、蕈留さんの前で多数ある腕を振り上げた。 


「無駄だ......」


 蕈留さんがそう言うと、極はピタリと体が止まった。


「なに!! 体が動かない! なんだこれは! 何をした」


「それは、盗抽化巢《とうちゅうかそう》だ」


「盗抽化巣!? 霊力を奪い成長する菌術!!」


「お前が父さんの体を変えたからな......」


「さっきの霊吸茸に!! 混ぜたのか」


 蕈留さんは樹液から出ると、お腹から血が出ていた。


「その傷!? まさかさっきの茸が増えたのは!!」


「......ああ、僕の血を混ぜてお前に撃ちだした。 一種の賭けだ......冷静に考えればわかったはずだが、お前は臆病な人間だから、自分を信じきれなかった。 お前が当主になれなかったのは体のせいじゃない。 お前の心が弱いからだ」


「貴様! ......体から霊力が......吸われる......ああ」


 極は倒れ倒れた体から大きなキノコが生えた。

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