だめじゃない -孵化-

すずかけあおい

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だめじゃない -孵化-⑧

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 どきどきしながら時間が経つのを待つ。こういうときに限って一分が長い。もう三十分くらい経ったかと思い時計を見たら十分しか経っていなくてがっかりしてしまう。

「シャワー浴びたほうがいいのかな」

 こんなことは経験がないのでどうしたらいいかわからない。きっとシャワーは浴びておいたほうがいい、と思い、浴室に向かった。念入りに身体を洗い、自分で奥まったところに触れて緊張する。

「こんなとこに本当に入るのかな……」

 心配になりながらシャワーで泡を流した。
 浴室から出て、夜とは何時からだろうと真剣に考える。五時は夕方、六時は? ぐるぐる考えていたらスマートフォンが短く鳴った。直行からのメッセージだった。

『好きだよ』

 頬が熱をもち、もう行っていいという合図だと思って部屋を出ると、隣のドアにもたれて直行が待っていた。

「おまたせ」
「もういい?」
「おいで」

 ドアを開けてくれて、どきどきしながら中に入る。緊張しすぎて指先が震えてきた。なんとなく直行を見あげると、整った顔が有人と同じように緊張の色をたたえている。

「俺が来なかったらどうしてたの?」
「ずっと待ってた」
「じゃあ、嫌だったら来なくていい、なんて言わないでよ」
「言うよ。有人が来たいと思ってくれないと意味がないんだ」

 有人を大事にしてくれる直行。同じ気持ちを彼に返したい。すごく好きだ、と思ったら心臓が異常なまでに高鳴った。

「有人、真っ赤」
「見ないで」

 手で顔を隠すと、額にキスが落ちてきた。

「見せてよ」
「……」

 おずおずと手をはずすと目が合った。唇を重ね、淡いキスを深めていく。

「シャワー浴びてきた?」

 こくんと頷く。張り切りすぎただろうか。

「本当にいいの?」

 もう一度頷くと抱きあげられた。

「じゃあ絶対逃がさないから」

 そのまま部屋の奥へと進むので慌ててしまう。恥ずかしいけれど嬉しいし、どきどきして心臓がおかしくなりそうだ。

「重いよ。おろして」
「軽いよ。もっと食べたほうがいい。痩せすぎだ」

 頬が熱くて、顔を隠すように直行の胸もとに顔をうずめる。直行からもボディソープのにおいがして、いっそうどきどきしてしまう。
 ベッドにおろされ、またキスを降ってきた。濡れた音が耳にやたら響いて腰が疼いてくる。服を脱がされ、直行も身に着けるものを脱いだ。

「……」
「どうした?」
「う、ううん……。綺麗な身体だからつい見ちゃった」

 程よく筋肉のついた身体はとても綺麗で、思わず触れてしまうと肌もなめらかだ。引き締まった腹筋を撫でて、自分の腹に触れる。全然違う。

「なにむくれてるんだ?」
「だって……」
「可愛いよ。有人の全部が可愛い」

 頬や首に唇が触れる。そのたびに熱い吐息が肌にあたり、ぞくりとしてしまう。肌の上を動いていた大きな手が胸の突起をとらえた。

「あ……っ」

 すぐに口を手で押さえる。変な声が出てしまった。両の突起をくにくにと捏ねられ、つままれると腰が鈍く疼いた。いじられてぷくりと芯をもった尖りをさらに潰される。吐き出す息が熱くなってきて、ぞわぞわと不思議な感覚が身体の内で燻った。

「っ……、んぁ……」

 肌にキスが次々落ちてきて、そのたびに身体が跳ねる。じわじわと快感に侵食されていき、腰に熱が集まる。太腿に唇が触れたときには昂ぶりはしとどに蜜を零していた。

「……だめ……恥ずかしい……」
「やめる?」

 直行はそう言いながら濡れた昂ぶりに指を絡める。

「ああっ……」

 甘い刺激に、妙に高い声が口から飛び出た。呼吸が乱れて頭の中まで熱くなっていく。なにをされても身体が反応してしまう。昂ぶりをやんわりと扱かれて快感が暴れ、どうにもならない。

「やめる?」
「や、……やめ、ないで……っ」
「わかった」

 強弱をつけて扱かれ、直行の手の動きを追うように腰が動いてしまう。気持ちよくて目の前がちかちかする。弾む息を呑み込むように口づけられ、思考が溶けていく。

「あ、あ……、いきそ……いっちゃう……」
「いいよ」
「はあ、っ……、ぅあっ……」

 がくんと背が反り、白濁を吐き出す。荒い呼吸を繰り返して直行を見ると、頬が上気していてとても色っぽい。情欲をたたえる瞳に有人が映っている。

「直行……」
「可愛い、有人。すごく可愛い」
「可愛くなんてない……」

 見られていることが恥ずかしくて顔を背けるが、顎を持たれて戻される。絡まった視線に熱がこもっていて、達したばかりの身体がまた熱くなった。そんな有人に気がついた直行は少し意地悪に微笑む。

「見てるだけだよ」
「それでも……気持ちいい」

 ただ見られていることさえ甘い刺激となって有人を高める。直行のキスで力が抜けると、奥まった秘部をなぞられた。孔の周りをくるりと撫でた指先がとんとんと入口を軽くノックする。本当にそこを使うのか、と緊張してしまった有人をなだめるようにまた唇が触れ合う。上顎を舐められて身体が跳ねた。

「ふ、う……んぅ……っ」

 キスが気持ちよくて背筋にぞくぞくと快感が滑りあがった。吐息が重なる、触れ合うだけのキスも気持ちいいけれど、濃厚に求められるともっと興奮する。口の端から唾液が零れるのも気にせずに、夢中で直行にしがみついた。
 孔をなぞっていた指先がゆっくり中に滑り込み、違和感で身体が固まってしまった。

「大丈夫か?」
「う、うん……。平気」
「嘘つくな」
「ほんとだって」

 強がってみせると、「ふうん」と呟いた直行が指を奥に進ませる。やはり変な感じがして眉をひそめてしまう。指を抜こうとしているのがわかって手で押さえた。

「やめないで」
「でもな」
「大丈夫だから」

 縋るように見つめたら、指が窄まりをほぐすように動いた。

「本当に無理なときはちゃんと言えよ」
「うん」

 変な感じがするけれど痛くはないからきっと大丈夫、と思って頷く。優しいキスに夢中になっているうちに指が増やされた。指が内側を拓き、内壁をなぞる。するりと襞を撫でられ、言いようのない深い快感が押し寄せた。

「っ……え、なに……ああっ」

 甘みを帯びた声が口から次々零れ、抑えられない。知らない感覚に怖いほど身体が昂ぶっていく。直行は欲情に満ちた表情で有人を見つめている。異物感で萎えたものが再び張り詰め、角度を変えた。

「う……あ、はあっ……あ……ぅっ」
「有人……」

 熱っぽい声が劣情を煽る。骨まで蕩けてしまうのではないかというくらい甘い囁きに肌の火照りが増していく。

「可愛い有人……可愛い」
「あぅ、あ……っ、だめ、またくる……っ」

 あっという間に頂まで駆けあがり、もう達するというところで刺激がやんだ。もう少しだったのに、と燻る熱を持て余してつま先でシーツを乱す。中途半端な状態がもどかしく、自分で昂ぶりを扱いて出したいのに手を押さえられてしまった。

「自分でするのはだめ」
「じゃあ、……して」

 目もとまで熱い。懇願するように見つめたら噛みつくようなキスで貪られた。余裕がないのは有人だけではないのを感じてほっとする。直行の下腹部を見ると、昂ぶりは勃ちあがって存在を主張していた。

「ねえ」
「なに?」
「……直行の、大きすぎない?」
「……」

 有人の言葉に頬を赤く染めた直行が目を逸らす。だがすぐにはっとしたように視線を戻した。

「誰と比べてる?」
「え? 俺」
「他の男じゃなくて?」
「う、うん。そんな相手いないし」

 はあ、と息をついて安堵の表情を見せるので首を傾げる。直行は一瞬口を引き結び、それから唇をゆっくり開いた。

「有人も初めてだよな?」
「……? うん」
「そうだよな。ここ使うことも知らなかったもんな」

 そうか、よかった、とひとりで納得している。

「なに?」
「有人が初めてでよかったって話」
「直行は慣れてるね」
「そりゃいろいろ調べたからな」

 そういうものなのだろうか。出来が違う、ということか。少しむくれると頬に唇が触れた。

「そういう可愛い顔するといじめたくなるだろ」
「直行は俺をいじめたりしないよ? いつも優しいじゃない」
「……」

 大きなため息をつかれてしまった。なんだろう、とまた首を傾げると困ったような表情で微笑む直行が指を抜いた。緊張で心臓が激しく鼓動を打つ。

「じゃあ今からいじめる」
「えっ」
「覚悟しろ」

 覚悟と言われても、と身構えると熱い猛りが窄まりを押し広げて滑り込んだ。ゆっくり奥に進む大きな熱に呼吸が詰まった。

「きつ……、大丈夫か?」
「ん、平気だと思う……」
「つらかったら言えよ」

 いじめると言いながら優しい直行に胸を撫でおろす。突然人が変わったようになってしまったらどうしようかと思った。
 ゆっくり中を進む昂ぶりに貫かれていく。奥まで至るとふたりで同時に息をついた。

「痛くない?」
「うん……」
「有人とこうなれるなんてな」

 夢みたいだ、と微笑む直行の頬に触れる。熱い頬は汗ばんでいて、しっとりと手のひらが吸いつくようだった。身体を寄せるように首に腕をまわすと、しっかりと抱きしめられた。皮膚が溶けてひとつに混じり合えそうな気がしてくる。

「中学のときから、ずっと有人だけ好きだった」
「そ、そんな前から?」
「有人が振り向いてくれなくて拗ねてたよ」

 苦笑いされてしまい、そんな素振りは見せなかったのに、と驚いてしまう。有人が鈍くて気がつかなかっただけだろうか。

「直行、動いて」
「大丈夫か?」
「うん。もっと直行を感じたい」
「……」

 また苦笑されてしまった。なにかいけなかっただろうか。

「ぅあっ」
「ほんと、可愛い」

 奥を狙って穿たれ、視界が明滅する。昂ぶりで内襞を擦られるだけであられもない声が押し出されてしまう。表情を歪めて動く直行が綺麗で、せつなげに眉が寄せられるたびに身体の奥が疼いた。

「直行……っ、んっ」

 鎖骨を軽く吸い上げられ、小さな痛みが走る。顔をあげた直行は熱のこもった視線で有人を見つめ、胸もとや肩、二の腕にも同じ行為を繰り返す。そのたびに感じるわずかな刺激が直行の意地悪なのかもしれない。こんな意地悪なら、いくらでもされたい。

「もっと、……もっと……直行……っ」
「有人……っ」

 貫かれる悦びに身体が震える。直行の唇が胸の尖りをとらえた。舌で転がされながら奥を擦られて嬌声が溢れる。尖りをちゅっと吸われた淡い快感に腰ががくんと跳ね、溢れ出る蜜は尻まで伝った。

「あ、あ……はあっ」

 どんどん追いやられて昇り詰めていく。思わず直行にしがみつくと、腰を掴まれひと際深く突かれて最奥を探られた。あ、と思ったときには昂ぶりが弾けて白濁を零していた。
 眉を寄せた直行の猛りが中でいっそう膨らみ、欲望を吐き出した。それでも硬度を保っていて有人はぞわりと肌が甘く騒いだ。もっと欲しい。

「ごめん。抜くから」
「やっ……まだする」

 直行にしがみついて離れて行かないように留める。汗ではりつく前髪をよけて額に唇が触れ、なだめるように頭を撫でられた。

「わかった。ゴムだけ交換するから待って」
「……」

 それさえ嫌だと言いたかったけれど、困らせてしまうから口を噤んだ。だが直行にはそんな気持ちはお見通しのようだった。心底愛おしいものを見るような瞳で有人を映す。

「有人は本当に可愛いな」
「俺なんか地味だから可愛くないよ」
「自分の可愛さがわからないなら、鏡見ながらするか?」
「えっ」

 そんなのは恥ずかしすぎる。想像しただけで頬が燃えそうなほどに熱くなった。くくっと喉の奥で笑う直行の様子から、冗談なのだとわかりむっとしてしまう。

「意地悪」
「いじめるって言っただろ?」

 直行が身体を離してコンドームを交換している。なんとなしにその手もとを覗き込んだらやはり大きかった。

「おっきいね」

 思わずいい子いい子するように撫でてしまう。するとあっという間に角度を変えて張り詰めた。

「……元気だね」
「有人にそんなことされたら元気になるに決まってる」

 ベッドに倒され、唇を食まれる。再び入ってきた昂ぶりに身を震わせて仰け反った。


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