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第一章•帝国編
6話◆ 偽りの聖女たち。月の女神なんて居やしない。
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バクスガハーツ帝国の城から少し離れた小高い山の中腹に、この国の城よりも大きく要塞の様な造りの教会がある。
この教会は五年前に、この場に建造物として完成された形でいきなり現れたのだ。
そして、同じ時期に皇太后の命と引き換えに彼女から生まれた美しい少年。
「僕は聖女ディアナンネ様の御子です。
聖女ディアナンネ様を、この世にお喚びするために皇太后は天に命を捧げ、僕は生まれたのです。
そして皆さまの信仰を集める為に、この教会を僕に与えられたのです。」
唐突に現れた巨大な教会、この国の行く末を憂いた皇太后が命を捧げて天に祈った事により現れた美しい聖女の御子。
自身を犠牲にした皇太后の死を美談とした奇跡は国民の心を容易く掴み、ロージアは聖女の御子として教会の主となった。
「で、兄上何の用?」
広い教会の内部は天井が高く、大きな祭壇がある。
その祭壇の前に玉座のような椅子を置き、そこに座る美しい少年が尋ねる。
「城の離れにすら滅多に来ないのに、教会に来るなんて珍しいねー。僕の顔を見たくないんでしょ?」
レオンハルト皇帝はロージアを前に、グッと拳を握る。
「俺は…母を、ワケの分からない美談の主人公にして殺したお前の顔も見たくないし、この教会も嫌いだ…。」
祭壇には巨大な聖女ディアナンネの像がある。
色も塗られており美しい造りだが、その表情は悲しげに見え、聖女と言うよりは生け贄に差し出された乙女のように見えてしまう。
何か痛々しく、もともとが聖女ディアナンネを崇拝していたレオンハルト皇帝には、この教会の語るディアナンネに違和感しかない。
「母?あー皇太后ね……みんなに誉められてるからいーじゃん…
それよりさぁ、兄上ー最近、娘達の質落ちてるよ?
あんなんじゃ、ディアナンネ様を造れないよー。」
ロージアは、床に落ちた長い髪の毛を拾いあげる。
長い金色の髪は、途中から不自然に青く染められている。
「……お前が何をしているかを知るつもりはない……
知りたくもない……俺が今日、ここに来たのは……」
「でも、兄上!今回は誉めてあげる!
あのディアーナって子は最高だよ!
初めて見たよ、藍色の髪に金色の瞳の子!
あの子、くれるんだよね?」
「それを許さんと言いに来たのだ!!」
レオンハルト皇帝は剣を抜いてロージアに向ける。
脅すつもりで抜いた剣だったが、向けた剣先をヌルリと人の手が掴んだのを見て息を飲んだ。
「許さん?あはは、許さん?あはは!!
許さんからナニ?」
剣を抜いたレオンハルト皇帝は、気付かぬ間に多くの裸体の少女達に絡み付かれるように抱き締められていた。
生気の無い少女達は、藍色に近い色合いに染め上げられた髪の者や、そんな髪を無理矢理頭皮に縫い付けられている者もいる。
そして、どの少女も眼窩が空洞だ。
「お…お前は何を造っていたんだ!」
生者を求める屍鬼の群れのようにレオンハルト皇帝に群がる少女達は、レオンハルトに危害を加えようとはしないが、縋り付いたまま離れない。
「金の瞳だけは、どうしても手に入らなくてさー。
でも、良かったよ!兄上、ディアーナをありがとう!
お礼に、僕が造ったディアナンネ達をあげる!
しばらく、彼女達に愛して貰いなよ。」
ロージアは笑いながら椅子から立ち上がると、傍に現れた聖職者の衣に身を包んだ男に指示をする。
「アレまだ、殺さないでね?教皇。」
「はい、ロージア様…ところで、城の離れの方に村の少女達が来ておりますが…。」
「えー…ミーナとビスケだっけ?あの二人鬱陶しいんだよね。
たいした素材にもならないのに…」
「ディアーナ嬢は別として、リリーとかいう娘も美しいと思いますが…?…まったく…旨そうで…」
教皇と呼ばれた男は唇の端から蛇のように長い舌先を垂らし、ニヤリと笑む。
「……見た目はね……
だけど僕には、すごく不気味な女だよ、アイツ。」
ロージアは転移魔法を使い、城の離れに飛んだ。
彼は病弱で、離れに幽閉された悲劇の王子様。
この国の城に連れて来られた少女達の前では、常にそう演じて来た。
温室の死角に転移したロージアは、弱々しく青い顔を見せながらテーブルに向かって歩いて来た。
「また、会いに来てくれたの…?ありがとう、ミーナ、ビスケ、リリー、ディアーナ………ッ!?」
テーブルに着くなり、ロージアはいきなりディアーナに胸ぐらを掴まれる。
「ディアーナ様!」「ロージア様はお身体が!」
ミーナとビスケが青くなって騒ぐのを無視して、ディアーナはロージアに顔を寄せる。
間近でガンを飛ばす。もう、ただのヤンキーのように。
「あんたの兄さんが、余りにも役立たずでね!
この、わたくしを放置して、どっか行ったきりだし!」
「あ、兄上が…?
ど、どうして兄上が居なくなって、僕が、こんな目に……?」
ロージアの目が、一瞬ディアーナの真意を探ろうとする。
自分がレオンハルト皇帝を教会に捕らえている事を知っているのではないかと。
「兄貴の不始末、弟の責任!
あんた、あいつを退位させて、この国の皇帝になっちゃいなさいよ!めんどくさいから!!」
「………え?」
胸ぐらを掴まれたままのロージア、そしてディアーナを止めようとしているミーナとビスケの目が点になっている。
「めんどくさいのよ、本当に!
あんな顎の割れたオッサンより、あんたみたいな見てくれの皇帝の方が人気出そうじゃない?
後押ししてあげるわよ、月の女神ディアーナがね!
言いたいのは、それだけよ。」
ロージアの胸ぐらを離し、言いたい事だけ言ったディアーナは、さっさ温室を出て行った。
「そうですよ、ロージア様!」
「暴君と呼ばれたレオンハルト皇帝より、お優しいロージア様の方が皇帝に相応しいです!」
ディアーナの背後でミーナとビスケがロージアを後押しするように言うのを聞きながらディアーナは離れから出た。
その隣にはリリーが立っている。
「リリーは、ロージアのそばに居なくていいの?」
「今は…ええ。」
ディアーナは小さく笑むと、城に向かった。
「そうね、まだ大丈夫かしら」
▼
▼
▼
「兄上聞いて聞いて!僕ね!ディアーナにね!皇帝になればって言われたの!」
大教会の地下深く。
床一面に大きな魔方陣が描かれた巨大なホールがある。
レオンハルト皇帝はその場に捕らわれており、ディアナンネのなりそこないの少女達に群がられたまま身動きが取れなくなっていた。
「僕ね、今、悩んでるんだぁ…
ディアーナを使ってディアナンネ様を造ろうか…
それとも皇帝になって、ディアーナを妻にしようか!
兄上、ディアーナの事を好きだよね?
兄上の好きなディアーナを僕が哭かせてみたいなぁ!
あはは!どんな風に乱れるのかな!」
興奮気味に声を上げ笑うロージアに、憔悴したレオンハルト皇帝が呟く。
「やめろ…あの方は…そのように扱って良い方ではない…
本物の…月の女神なんだ…。」
ロージアの美しい顔が嘲りを含んで醜く歪む。
「月の女神?バッカじゃない?
強いだけの、ただの勘違い女だよ!
女神があんな口悪くて乱暴者なワケ無いじゃん!
それにね、あの子強いけど魔力が一切無いしね!」
レオンハルト皇帝に群がっていた一人の少女が、レオンハルト皇帝に近付いたロージアに縋り付こうと手をのばす。
「触るな!汚い!」
少女の手を振り払ったロージアは、少女を一瞬で消し炭にした。
「ロージア!!やめろ!」
「何だよ…言っとくけど、このディアナンネのなりそこない達は、元に戻らないよ?
消し炭にしてやるのも優しさじゃない?」
━━ロージアが人間でない事は、生まれた時から知っていた。
彼の存在を神秘だと感じる者が多い中、彼を禍々しい者だと感じ、災いが大きくなる前に、と命を狙った者たちも少なからず居た。
その者達すべてが首から下が消失し、床に転がる首だけになって発見されたのだが…。━━
「お前……一体…何者なんだ……?」
ロージアに意見出来る者が居なくなり、見て見ぬ振りをしてきたレオンハルト皇帝も、ずっと胸にしまい込んで無理矢理考えないようにしていた疑問を改めてロージアに投げ掛けた。
ロージアは少女のように美しい顔を歪ませ笑う。
「僕は、聖女ディアナンネの御子で、次期バクスガハーツ帝国皇帝、ロージアさ…。」
「ああああ!もおおお!めんどくさい!」
暗い森の中を、金髪に翡翠の目をした美しい少女が、複数の男達に追われていた。
少女の口からは、「きゃー」だとか、「助けて!」なんて言葉は出ない。
「めんどくさい!あークソめんどくさい!くそ親父死ね!」
オフィーリアは、まとまって追って来た男達をまいて森の中に姿を隠す様に身を潜める。
男達が手分けしてオフィーリアを探し始めると、オフィーリアは一人ずつ背後を取るように現れた。
「まず、一人目…こんばんは、おじ様。
…ねぇ、おじ様は、私を捕らえてどうなさりたいの?」
背後から剣の刃を男の喉仏に当て、耳元で囁く。
「し、城に連れてって…皇帝に見せ…皇帝が寵姫にすれば…俺の手柄に…」
「はい!ただの馬鹿!よって特別免罪!」
オフィーリアは剣を男の頭部にゾリリっと走らせ頭頂部をハゲにし、髪型をカッパの様なトンスラにすると、泡を吹いて気絶した男を解放した。
二人目の男に忍び寄るオフィーリア。
「二人目…おじ様、あなたは私をどうなさりたいの?
嘘ついても分かりますからね?」
オフィーリアは背後から、剣の刃を男の頚動脈に当て尋ねる。
「あら、聞くまでも無いわね…もう人ではないわ。」
男の口と、落ち窪んだ眼窩から黒い巨大な蛭のようなモノがズルリとはみ出す。オフィーリアは剣を振り上げ、男の顔面を正面から貫いた。
「はぁい、魔獣化~!プチりまぁす!」
刺し貫いた剣に青白い高温の炎を纏わせると、オフィーリアは男を一瞬で蒸発させてしまった。
「イチイチイチイチ!一人一人チマチマチマチマ!めんどくせぇ!!あーくそ、この森ごと燃やしてやろうかしら!」
オフィーリアはキレかけていた。
「もう魔物や魔獣でなくても、この美しい俺を拐おうとしているだけで万死に値すると思う!
全員プチっサクっと行きたい!」
「ディアナンネ…様…」
足元で気絶している、トンスラにするだけで許した男がうなされるように呟く。
呼ばれた名前に、だらだら冷や汗をかいたオフィーリアは小さく頷く。
「うん、頑張る…
お父様からディアーナに、レオンは頑張ったから叱らないでやってと言って貰わないと…。」
オフィーリアは三人目を探して森に戻って行った。
「うふふ…出来れば、お会いするのは魔獣さんがいいわ…
会話も無く即プチ出来ますものね…うふふ…。」
この日の晩から、バクスガハーツと隣国の国境付近の森には、笑いながら頭を変な髪型に刈る恐ろしい美少女が出ると噂が立った。
この教会は五年前に、この場に建造物として完成された形でいきなり現れたのだ。
そして、同じ時期に皇太后の命と引き換えに彼女から生まれた美しい少年。
「僕は聖女ディアナンネ様の御子です。
聖女ディアナンネ様を、この世にお喚びするために皇太后は天に命を捧げ、僕は生まれたのです。
そして皆さまの信仰を集める為に、この教会を僕に与えられたのです。」
唐突に現れた巨大な教会、この国の行く末を憂いた皇太后が命を捧げて天に祈った事により現れた美しい聖女の御子。
自身を犠牲にした皇太后の死を美談とした奇跡は国民の心を容易く掴み、ロージアは聖女の御子として教会の主となった。
「で、兄上何の用?」
広い教会の内部は天井が高く、大きな祭壇がある。
その祭壇の前に玉座のような椅子を置き、そこに座る美しい少年が尋ねる。
「城の離れにすら滅多に来ないのに、教会に来るなんて珍しいねー。僕の顔を見たくないんでしょ?」
レオンハルト皇帝はロージアを前に、グッと拳を握る。
「俺は…母を、ワケの分からない美談の主人公にして殺したお前の顔も見たくないし、この教会も嫌いだ…。」
祭壇には巨大な聖女ディアナンネの像がある。
色も塗られており美しい造りだが、その表情は悲しげに見え、聖女と言うよりは生け贄に差し出された乙女のように見えてしまう。
何か痛々しく、もともとが聖女ディアナンネを崇拝していたレオンハルト皇帝には、この教会の語るディアナンネに違和感しかない。
「母?あー皇太后ね……みんなに誉められてるからいーじゃん…
それよりさぁ、兄上ー最近、娘達の質落ちてるよ?
あんなんじゃ、ディアナンネ様を造れないよー。」
ロージアは、床に落ちた長い髪の毛を拾いあげる。
長い金色の髪は、途中から不自然に青く染められている。
「……お前が何をしているかを知るつもりはない……
知りたくもない……俺が今日、ここに来たのは……」
「でも、兄上!今回は誉めてあげる!
あのディアーナって子は最高だよ!
初めて見たよ、藍色の髪に金色の瞳の子!
あの子、くれるんだよね?」
「それを許さんと言いに来たのだ!!」
レオンハルト皇帝は剣を抜いてロージアに向ける。
脅すつもりで抜いた剣だったが、向けた剣先をヌルリと人の手が掴んだのを見て息を飲んだ。
「許さん?あはは、許さん?あはは!!
許さんからナニ?」
剣を抜いたレオンハルト皇帝は、気付かぬ間に多くの裸体の少女達に絡み付かれるように抱き締められていた。
生気の無い少女達は、藍色に近い色合いに染め上げられた髪の者や、そんな髪を無理矢理頭皮に縫い付けられている者もいる。
そして、どの少女も眼窩が空洞だ。
「お…お前は何を造っていたんだ!」
生者を求める屍鬼の群れのようにレオンハルト皇帝に群がる少女達は、レオンハルトに危害を加えようとはしないが、縋り付いたまま離れない。
「金の瞳だけは、どうしても手に入らなくてさー。
でも、良かったよ!兄上、ディアーナをありがとう!
お礼に、僕が造ったディアナンネ達をあげる!
しばらく、彼女達に愛して貰いなよ。」
ロージアは笑いながら椅子から立ち上がると、傍に現れた聖職者の衣に身を包んだ男に指示をする。
「アレまだ、殺さないでね?教皇。」
「はい、ロージア様…ところで、城の離れの方に村の少女達が来ておりますが…。」
「えー…ミーナとビスケだっけ?あの二人鬱陶しいんだよね。
たいした素材にもならないのに…」
「ディアーナ嬢は別として、リリーとかいう娘も美しいと思いますが…?…まったく…旨そうで…」
教皇と呼ばれた男は唇の端から蛇のように長い舌先を垂らし、ニヤリと笑む。
「……見た目はね……
だけど僕には、すごく不気味な女だよ、アイツ。」
ロージアは転移魔法を使い、城の離れに飛んだ。
彼は病弱で、離れに幽閉された悲劇の王子様。
この国の城に連れて来られた少女達の前では、常にそう演じて来た。
温室の死角に転移したロージアは、弱々しく青い顔を見せながらテーブルに向かって歩いて来た。
「また、会いに来てくれたの…?ありがとう、ミーナ、ビスケ、リリー、ディアーナ………ッ!?」
テーブルに着くなり、ロージアはいきなりディアーナに胸ぐらを掴まれる。
「ディアーナ様!」「ロージア様はお身体が!」
ミーナとビスケが青くなって騒ぐのを無視して、ディアーナはロージアに顔を寄せる。
間近でガンを飛ばす。もう、ただのヤンキーのように。
「あんたの兄さんが、余りにも役立たずでね!
この、わたくしを放置して、どっか行ったきりだし!」
「あ、兄上が…?
ど、どうして兄上が居なくなって、僕が、こんな目に……?」
ロージアの目が、一瞬ディアーナの真意を探ろうとする。
自分がレオンハルト皇帝を教会に捕らえている事を知っているのではないかと。
「兄貴の不始末、弟の責任!
あんた、あいつを退位させて、この国の皇帝になっちゃいなさいよ!めんどくさいから!!」
「………え?」
胸ぐらを掴まれたままのロージア、そしてディアーナを止めようとしているミーナとビスケの目が点になっている。
「めんどくさいのよ、本当に!
あんな顎の割れたオッサンより、あんたみたいな見てくれの皇帝の方が人気出そうじゃない?
後押ししてあげるわよ、月の女神ディアーナがね!
言いたいのは、それだけよ。」
ロージアの胸ぐらを離し、言いたい事だけ言ったディアーナは、さっさ温室を出て行った。
「そうですよ、ロージア様!」
「暴君と呼ばれたレオンハルト皇帝より、お優しいロージア様の方が皇帝に相応しいです!」
ディアーナの背後でミーナとビスケがロージアを後押しするように言うのを聞きながらディアーナは離れから出た。
その隣にはリリーが立っている。
「リリーは、ロージアのそばに居なくていいの?」
「今は…ええ。」
ディアーナは小さく笑むと、城に向かった。
「そうね、まだ大丈夫かしら」
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「兄上聞いて聞いて!僕ね!ディアーナにね!皇帝になればって言われたの!」
大教会の地下深く。
床一面に大きな魔方陣が描かれた巨大なホールがある。
レオンハルト皇帝はその場に捕らわれており、ディアナンネのなりそこないの少女達に群がられたまま身動きが取れなくなっていた。
「僕ね、今、悩んでるんだぁ…
ディアーナを使ってディアナンネ様を造ろうか…
それとも皇帝になって、ディアーナを妻にしようか!
兄上、ディアーナの事を好きだよね?
兄上の好きなディアーナを僕が哭かせてみたいなぁ!
あはは!どんな風に乱れるのかな!」
興奮気味に声を上げ笑うロージアに、憔悴したレオンハルト皇帝が呟く。
「やめろ…あの方は…そのように扱って良い方ではない…
本物の…月の女神なんだ…。」
ロージアの美しい顔が嘲りを含んで醜く歪む。
「月の女神?バッカじゃない?
強いだけの、ただの勘違い女だよ!
女神があんな口悪くて乱暴者なワケ無いじゃん!
それにね、あの子強いけど魔力が一切無いしね!」
レオンハルト皇帝に群がっていた一人の少女が、レオンハルト皇帝に近付いたロージアに縋り付こうと手をのばす。
「触るな!汚い!」
少女の手を振り払ったロージアは、少女を一瞬で消し炭にした。
「ロージア!!やめろ!」
「何だよ…言っとくけど、このディアナンネのなりそこない達は、元に戻らないよ?
消し炭にしてやるのも優しさじゃない?」
━━ロージアが人間でない事は、生まれた時から知っていた。
彼の存在を神秘だと感じる者が多い中、彼を禍々しい者だと感じ、災いが大きくなる前に、と命を狙った者たちも少なからず居た。
その者達すべてが首から下が消失し、床に転がる首だけになって発見されたのだが…。━━
「お前……一体…何者なんだ……?」
ロージアに意見出来る者が居なくなり、見て見ぬ振りをしてきたレオンハルト皇帝も、ずっと胸にしまい込んで無理矢理考えないようにしていた疑問を改めてロージアに投げ掛けた。
ロージアは少女のように美しい顔を歪ませ笑う。
「僕は、聖女ディアナンネの御子で、次期バクスガハーツ帝国皇帝、ロージアさ…。」
「ああああ!もおおお!めんどくさい!」
暗い森の中を、金髪に翡翠の目をした美しい少女が、複数の男達に追われていた。
少女の口からは、「きゃー」だとか、「助けて!」なんて言葉は出ない。
「めんどくさい!あークソめんどくさい!くそ親父死ね!」
オフィーリアは、まとまって追って来た男達をまいて森の中に姿を隠す様に身を潜める。
男達が手分けしてオフィーリアを探し始めると、オフィーリアは一人ずつ背後を取るように現れた。
「まず、一人目…こんばんは、おじ様。
…ねぇ、おじ様は、私を捕らえてどうなさりたいの?」
背後から剣の刃を男の喉仏に当て、耳元で囁く。
「し、城に連れてって…皇帝に見せ…皇帝が寵姫にすれば…俺の手柄に…」
「はい!ただの馬鹿!よって特別免罪!」
オフィーリアは剣を男の頭部にゾリリっと走らせ頭頂部をハゲにし、髪型をカッパの様なトンスラにすると、泡を吹いて気絶した男を解放した。
二人目の男に忍び寄るオフィーリア。
「二人目…おじ様、あなたは私をどうなさりたいの?
嘘ついても分かりますからね?」
オフィーリアは背後から、剣の刃を男の頚動脈に当て尋ねる。
「あら、聞くまでも無いわね…もう人ではないわ。」
男の口と、落ち窪んだ眼窩から黒い巨大な蛭のようなモノがズルリとはみ出す。オフィーリアは剣を振り上げ、男の顔面を正面から貫いた。
「はぁい、魔獣化~!プチりまぁす!」
刺し貫いた剣に青白い高温の炎を纏わせると、オフィーリアは男を一瞬で蒸発させてしまった。
「イチイチイチイチ!一人一人チマチマチマチマ!めんどくせぇ!!あーくそ、この森ごと燃やしてやろうかしら!」
オフィーリアはキレかけていた。
「もう魔物や魔獣でなくても、この美しい俺を拐おうとしているだけで万死に値すると思う!
全員プチっサクっと行きたい!」
「ディアナンネ…様…」
足元で気絶している、トンスラにするだけで許した男がうなされるように呟く。
呼ばれた名前に、だらだら冷や汗をかいたオフィーリアは小さく頷く。
「うん、頑張る…
お父様からディアーナに、レオンは頑張ったから叱らないでやってと言って貰わないと…。」
オフィーリアは三人目を探して森に戻って行った。
「うふふ…出来れば、お会いするのは魔獣さんがいいわ…
会話も無く即プチ出来ますものね…うふふ…。」
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