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信も誠も愛も貫く覚悟。
甘く蕩け合う夜を過ごした翌朝、ガインは珍しくキリアンよりも先に目を覚ました。
こっそりこっそりとベッドから抜け出し、眠るキリアンを起こさない様に皇帝の私室を出た。
一旦隣の自室に戻り、濡れた布で全身を拭ってから新しい服に着替えて仕事に出る。
激しい夜を過ごした翌日、いつも足腰を押さえつつ昨夜の行為を思い出しては「あんな事をさせやがって。クッソ恥ずかしいわ!」と悪態をついて誤魔化す様に照れる事が多いガインだが、今朝は違っていた。
行為そのものより、交わした言葉や、その際に互いが見せた表情、激しく動いた心を思い出しカァァっと赤くなる。
「……ッちょ……顔、熱ッ……!」
今改めて、自分からキリアンが欲しいと言った事を思い出した。
抱いて欲しいなんて自分の口から出るなんて思わなかった。
昨夜、キリアンの部屋に行き仕事の話をして部屋を出ようとした時に、キリアンと離れたくないと思った。
触れたくて触れて欲しくて、身体も心もキリアンで満たされたかった。
「はぁあぁあぁあ…」
訓練場に向かう途中で、壁に片手をついたまま口元を押さえてズルズルとその場にしゃがみ込む。
顔から湯気が出そうな程に体温が上昇する。
膝から力が抜けて立っていられない。
「甘い…甘過ぎる…!何だもう!コレもう!!もう!!」
恥ずかし過ぎてワァワァと大声を上げて走り回りたい位に感情が暴走し掛けている。
脱力して身動きが出来なくなるかと思いきや、思い切り走り回りたい。
「隊長…どうしたんです?こんな所でうずくまって。」
訓練場に向かう廊下で、同じく訓練場に行く途中のノーザンに声を掛けられた。
「あぁ、ノーザンか…いや、ちょっと…色々あって熱っぽいんだ。」
「熱っぽい?確かに顔が赤いようですが。体調が優れないのならば今日は部屋でお休みになられていた方が良いのでは?」
「いや、それは大丈夫なんだが。」
首を傾げるノーザンと共にガインは訓練場に向かった。
多くの兵士が自主練をする中、ガインの目がセディを捉えた。
同じ様にセディもガインをジッと見詰める。
互いを見詰め合いながら、ガインがポツリと独り言つ。
「やはり目立つな…何で俺は…アイツを目で追ってしまうのだろうな…。」
新兵達が先輩兵士達に胸を借りて剣の打ち込み練習をしている間、ガインはノーザンやベテランの騎士達と新しい砦と兵士の配置等について話をしていく。
先日、浴場でキリアンを襲った賊についても意見が出る。
「私の方では調べるのに限度があって…ですが、陛下の方では何か手掛かりを掴んだそうです。」
「は?キリアンが……いや、陛下が?どうやって?」
思わず皇帝陛下を呼び捨てにしてしまい、口ごもりつつ言い直したガインがボッと顔を赤くした。
「さぁ…私には分かりかねますが…。優秀な情報屋でも雇ったのでしょうかね。」
名前を口にしただけで頬を染める乙女の様なガインの姿を見たノーザンは気付かないフリをして、そのまま会話を続けた。
他の騎士達は、ガインが皇帝を呼び捨てにするなど言い間違えた事を恥じて赤くなったのだと認識した様だ。
昼の休憩時間となり、訓練場を見るとセディの姿が無かった。
いつの間に姿を消したのかとガインが訝しげな表情をする。
だが、セディの姿が見えなくなり安堵する自分もいる。
姿が見えれば、無意識に姿を目で追ってしまう。
その理由が自分でも分からず気味が悪い。
兵舎の食堂で昼食を取ったガインは、玉座の間に行き皇帝陛下の前で昨夜皇帝と話した案を宰相や各大臣の前で報告し、日が落ちて夕闇の時間が訪れた頃、今日は早く一日の仕事を終わらせたガインはセディとの約束の時間までの空いた時間を持て余してしまった。
する事が無くなると余計に色々考え過ぎて頭の中が煩くなる。
「もう答えは決まってんのにな。何を焦ってんだか。」
断罪の時間を待つような嫌な気分。
自身を落ち着かせようとするが中々落ち着かない。
約束の時間にはまだ早いが、ガインは兵舎から礼拝堂に抜ける細い道を行き、セディを待つ事にした。
狭い通路で空を見上げれば、建物と建物の壁の間に細く夜空が見え壁で隠れて欠けた月が見える。
「………ガイン隊長?もう来てたんですか?嬉しいですね。
そんなに僕に会いたかったんですか?」
闇に溶ける様にして現れたセディがガインの姿を見付けて嬉々とした表情で駆けて来た。
「ああ、お前を待っていた。」
「わぁ、嬉しい事を言ってくれますね。じゃあ、僕に一度抱かれてくれますよね?」
ガインの前に立ったセディが目を細めて腕をガインの頬に近付ける。
ガインはセディの手が自身の頬に触れない様、腕を上げてガードした。
「それは、ことわる。」
「………はい?断る?陛下に女役で抱かれているって恥ずかしい事をバラされてもいいと?」
頬に触れようとした手を防がれて、嘲笑にも似た笑みを浮かべたセディが高い位置にあるガインの顔を下から睨め付けた。
「構わん。バラしたけれバラせ。
俺はキリアンを絶対に裏切らない。
キリアンが俺を見限ったとしても、俺はキリアンを絶対に欺かない。」
「はぁ?御高説、ご立派ですけどね。そのご立派な隊長様が女役で陛下に掘られて尻を振ってるって娘さんにバラされても?
娘さんが恥ずかしい思いをするんじゃないですか?
周りから指さされたり。」
セディの言葉が刺々しくなり、キリアンと同じ金糸の前髪を掻き上げる。
キリアンと同じ紺碧の瞳でガインを睨み、苛立ちをあらわにした。
「娘は俺が守る!恥ずかしい思いをさせても、指をさされたとしても!俺が側に居てやるし守り続けてやる!」
「恥ずかしい思いをさせて指をさされている時点で娘さん守れてないでしょうが!!
たった一回だけ、身を任せれば上手く納まる話でしょうよ!!」
「俺はキリアンを裏切らん!それは何があっても絶対に変わらん!例えこの命が果てるともだ!!愛しているから!!」
咆哮とも言えるような大声で、ハッキリと言い切ったガインを前にセディはその剣幕に虚を突かれた様に「無」の状態になってしまった。
しばらく無言でオブジェの様な状態だったセディが間を置いて、大きな溜息をついた。
「ハァー、バカバカしい。本当にいーんですね?バラしても。
どうなっても知りませんから。」
セディは頭の後ろで両腕を組んで、細い裏道から去って行った。
セディの姿が見えなくなり、緊張の糸が切れた様にガインがハァッと息を吐いた。
ガインはゆっくりと歩き出し城内に戻ると、自室の隣にあるミーシャの部屋を訪ねた。
「ミーシャ、話がしたい。開けてくれるか?」
「まぁお義父様、どうなさいました?このような時間に……。」
寝衣にストールを羽織ったミーシャが扉を開き、部屋の中へガインを招き入れた。
小さなテーブルに茶を2つ用意し、向かい合って椅子に座る。
「ミーシャに話があって来た…。俺は…ミーシャに秘密にしていた事がある。それは、父親として…あるまじき姿かと思う…。」
「お義父様は立派な方ですわよ?父親として、あるまじき姿だなんて…。」
ミーシャの向かい側に座る、大岩のようなガインが何だか小さく背を丸めている。
ミーシャの入れた茶のカップを掴み、ゴクゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干すとカップをテーブルにタン!と置いた。
「俺とキリアンは…愛し合っている!」
「そうですね。知ってます。」
崖の上から飛び降りる覚悟での告白は、シレッと簡単に返されてしまい、面食らったガインが改めて説明しようとする。
「違う、違うんだ…城の中で噂になってるキリアンと俺の関係とは逆で………。」
「何も違いませんでしょう?
陛下にパパが愛されて、パパも陛下を愛している。
それだけの話じゃないですか。」
ミーシャはカップを置いたガインの手を握り、ニッコリと微笑んだ。
「皇帝陛下と相思相愛の仲だなんて、そんなパパは私の自慢のパパですわよ!」
「パ……パパ……か。」
ガインの鼻がグジっと鳴った。
愛娘のミーシャに何処か距離を置かれている様な気がしていたガインは、ミーシャが自分の秘密を受け入れてくれた上に、パパと呼んで貰えた事で、紐で縛った様にギクシャクした親子関係が解けた様な気がした。
「ありがとうな……ミーシャ……。」
「…お礼を言われる事なんて何も…それより、陛下がパパを心配してましたわよ?昨夜のパパは何だか様子がおかしかったって。」
「そ、そうか、ならキリアンに顔を見せて来るかな…。」
椅子から立ち上がりドアに向かうガインは、昨夜の自分の様子がおかしかったとキリアンから聞いている事に微妙な疑問を浮かべつつ、「幼馴染みだから俺の様子を聞かされるほど仲がいいんだな。」位で答えを解決させた。
ガインの背後でメガネをクイっと上げたミーシャの頭の中では、キリアンから聞かされた惚気け話の「パパからキリアンに抱いてとオネダリ」がリフレイン中である。
━━まだ照れ臭そうではあるけれど、もう完全に両想いだわ!
やったわね!キリお兄ちゃん!!
これでもう田舎に引きこもる事はあるまい。
私の小説家としての活動も安泰だわ!━━
ミーシャの部屋を出たガインは、ミーシャにパパと呼ばれてテレテレと顔を綻ばせながらキリアンの部屋を訪ねた。
「キリアン皇帝陛下、私です。」
ドアの向こう側から、キリアンの「入って」の声が聞こえる。
ガインはドアを開き、礼をして部屋に入った。
「夜分遅くに申し訳ありませ………ディ!!!!」
礼をして顔を上げたガインの前に、キリアンと並んでセディが立っていた。
セディは微笑みながらガインに向け手をヒラヒラと振る。
「やぁ隊長。さっきぶり。」
「……何だよ、その意味深な言葉は。
俺のガインに何かしたんじゃないだろうな。」
キリアンがセディに突き刺す様な視線を向ける。
状況が飲み込め無いガインは、ただ呆然と二人を見ていたが…。
二人の顔が並ぶ様子に既視感を覚えて記憶を辿り、キリアンの執務机の近くにある先代皇帝グレアムと皇妃の肖像画に目が行った。
「………!!!皇妃様!!!」
「…の、弟のセドリックです。改めてよろしく。隊長。」
「叔父上は母上の生国、ヴィーヴル王国の公爵だ。
そして…ヴィーヴルが誇る隠密部隊のひとつを率いて、我が国の為に働いてくれている。
この国で暗部の存在を知っているのは俺だけだったんだが、条件をクリアしたらガインにも存在を明らかにして良いって……。
って、本名名乗って姿を見せたって事は条件をクリアしたって事だよな?なんの条件だったんだよ。」
「え、それは隊長と僕との秘密だから言えない。」
ガインは驚き過ぎて言葉を失った。
ずっと無意識下で、何処かで見た事あるような顔だと記憶と繋ぎ合わせようとしていたらしく目がセディを追いかけていた。
まさかキリアンの母である皇妃と同じ顔だとは気付きもしなかった。
「でも、隊長になら僕の正体を明かしても良いと思ったんだよね。
彼はキリアンを絶対に裏切らないと分かったから。」
「だから…それをどうやって知ったんだよ……
内容次第ではしばき倒すよ?叔父上。」
「ま、ま、待て!!俺の忠誠心をテストされただけだから!
気にするな!それ以上は!!」
顔を赤くして焦ったガインが二人の間に割って入った。
こっそりこっそりとベッドから抜け出し、眠るキリアンを起こさない様に皇帝の私室を出た。
一旦隣の自室に戻り、濡れた布で全身を拭ってから新しい服に着替えて仕事に出る。
激しい夜を過ごした翌日、いつも足腰を押さえつつ昨夜の行為を思い出しては「あんな事をさせやがって。クッソ恥ずかしいわ!」と悪態をついて誤魔化す様に照れる事が多いガインだが、今朝は違っていた。
行為そのものより、交わした言葉や、その際に互いが見せた表情、激しく動いた心を思い出しカァァっと赤くなる。
「……ッちょ……顔、熱ッ……!」
今改めて、自分からキリアンが欲しいと言った事を思い出した。
抱いて欲しいなんて自分の口から出るなんて思わなかった。
昨夜、キリアンの部屋に行き仕事の話をして部屋を出ようとした時に、キリアンと離れたくないと思った。
触れたくて触れて欲しくて、身体も心もキリアンで満たされたかった。
「はぁあぁあぁあ…」
訓練場に向かう途中で、壁に片手をついたまま口元を押さえてズルズルとその場にしゃがみ込む。
顔から湯気が出そうな程に体温が上昇する。
膝から力が抜けて立っていられない。
「甘い…甘過ぎる…!何だもう!コレもう!!もう!!」
恥ずかし過ぎてワァワァと大声を上げて走り回りたい位に感情が暴走し掛けている。
脱力して身動きが出来なくなるかと思いきや、思い切り走り回りたい。
「隊長…どうしたんです?こんな所でうずくまって。」
訓練場に向かう廊下で、同じく訓練場に行く途中のノーザンに声を掛けられた。
「あぁ、ノーザンか…いや、ちょっと…色々あって熱っぽいんだ。」
「熱っぽい?確かに顔が赤いようですが。体調が優れないのならば今日は部屋でお休みになられていた方が良いのでは?」
「いや、それは大丈夫なんだが。」
首を傾げるノーザンと共にガインは訓練場に向かった。
多くの兵士が自主練をする中、ガインの目がセディを捉えた。
同じ様にセディもガインをジッと見詰める。
互いを見詰め合いながら、ガインがポツリと独り言つ。
「やはり目立つな…何で俺は…アイツを目で追ってしまうのだろうな…。」
新兵達が先輩兵士達に胸を借りて剣の打ち込み練習をしている間、ガインはノーザンやベテランの騎士達と新しい砦と兵士の配置等について話をしていく。
先日、浴場でキリアンを襲った賊についても意見が出る。
「私の方では調べるのに限度があって…ですが、陛下の方では何か手掛かりを掴んだそうです。」
「は?キリアンが……いや、陛下が?どうやって?」
思わず皇帝陛下を呼び捨てにしてしまい、口ごもりつつ言い直したガインがボッと顔を赤くした。
「さぁ…私には分かりかねますが…。優秀な情報屋でも雇ったのでしょうかね。」
名前を口にしただけで頬を染める乙女の様なガインの姿を見たノーザンは気付かないフリをして、そのまま会話を続けた。
他の騎士達は、ガインが皇帝を呼び捨てにするなど言い間違えた事を恥じて赤くなったのだと認識した様だ。
昼の休憩時間となり、訓練場を見るとセディの姿が無かった。
いつの間に姿を消したのかとガインが訝しげな表情をする。
だが、セディの姿が見えなくなり安堵する自分もいる。
姿が見えれば、無意識に姿を目で追ってしまう。
その理由が自分でも分からず気味が悪い。
兵舎の食堂で昼食を取ったガインは、玉座の間に行き皇帝陛下の前で昨夜皇帝と話した案を宰相や各大臣の前で報告し、日が落ちて夕闇の時間が訪れた頃、今日は早く一日の仕事を終わらせたガインはセディとの約束の時間までの空いた時間を持て余してしまった。
する事が無くなると余計に色々考え過ぎて頭の中が煩くなる。
「もう答えは決まってんのにな。何を焦ってんだか。」
断罪の時間を待つような嫌な気分。
自身を落ち着かせようとするが中々落ち着かない。
約束の時間にはまだ早いが、ガインは兵舎から礼拝堂に抜ける細い道を行き、セディを待つ事にした。
狭い通路で空を見上げれば、建物と建物の壁の間に細く夜空が見え壁で隠れて欠けた月が見える。
「………ガイン隊長?もう来てたんですか?嬉しいですね。
そんなに僕に会いたかったんですか?」
闇に溶ける様にして現れたセディがガインの姿を見付けて嬉々とした表情で駆けて来た。
「ああ、お前を待っていた。」
「わぁ、嬉しい事を言ってくれますね。じゃあ、僕に一度抱かれてくれますよね?」
ガインの前に立ったセディが目を細めて腕をガインの頬に近付ける。
ガインはセディの手が自身の頬に触れない様、腕を上げてガードした。
「それは、ことわる。」
「………はい?断る?陛下に女役で抱かれているって恥ずかしい事をバラされてもいいと?」
頬に触れようとした手を防がれて、嘲笑にも似た笑みを浮かべたセディが高い位置にあるガインの顔を下から睨め付けた。
「構わん。バラしたけれバラせ。
俺はキリアンを絶対に裏切らない。
キリアンが俺を見限ったとしても、俺はキリアンを絶対に欺かない。」
「はぁ?御高説、ご立派ですけどね。そのご立派な隊長様が女役で陛下に掘られて尻を振ってるって娘さんにバラされても?
娘さんが恥ずかしい思いをするんじゃないですか?
周りから指さされたり。」
セディの言葉が刺々しくなり、キリアンと同じ金糸の前髪を掻き上げる。
キリアンと同じ紺碧の瞳でガインを睨み、苛立ちをあらわにした。
「娘は俺が守る!恥ずかしい思いをさせても、指をさされたとしても!俺が側に居てやるし守り続けてやる!」
「恥ずかしい思いをさせて指をさされている時点で娘さん守れてないでしょうが!!
たった一回だけ、身を任せれば上手く納まる話でしょうよ!!」
「俺はキリアンを裏切らん!それは何があっても絶対に変わらん!例えこの命が果てるともだ!!愛しているから!!」
咆哮とも言えるような大声で、ハッキリと言い切ったガインを前にセディはその剣幕に虚を突かれた様に「無」の状態になってしまった。
しばらく無言でオブジェの様な状態だったセディが間を置いて、大きな溜息をついた。
「ハァー、バカバカしい。本当にいーんですね?バラしても。
どうなっても知りませんから。」
セディは頭の後ろで両腕を組んで、細い裏道から去って行った。
セディの姿が見えなくなり、緊張の糸が切れた様にガインがハァッと息を吐いた。
ガインはゆっくりと歩き出し城内に戻ると、自室の隣にあるミーシャの部屋を訪ねた。
「ミーシャ、話がしたい。開けてくれるか?」
「まぁお義父様、どうなさいました?このような時間に……。」
寝衣にストールを羽織ったミーシャが扉を開き、部屋の中へガインを招き入れた。
小さなテーブルに茶を2つ用意し、向かい合って椅子に座る。
「ミーシャに話があって来た…。俺は…ミーシャに秘密にしていた事がある。それは、父親として…あるまじき姿かと思う…。」
「お義父様は立派な方ですわよ?父親として、あるまじき姿だなんて…。」
ミーシャの向かい側に座る、大岩のようなガインが何だか小さく背を丸めている。
ミーシャの入れた茶のカップを掴み、ゴクゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干すとカップをテーブルにタン!と置いた。
「俺とキリアンは…愛し合っている!」
「そうですね。知ってます。」
崖の上から飛び降りる覚悟での告白は、シレッと簡単に返されてしまい、面食らったガインが改めて説明しようとする。
「違う、違うんだ…城の中で噂になってるキリアンと俺の関係とは逆で………。」
「何も違いませんでしょう?
陛下にパパが愛されて、パパも陛下を愛している。
それだけの話じゃないですか。」
ミーシャはカップを置いたガインの手を握り、ニッコリと微笑んだ。
「皇帝陛下と相思相愛の仲だなんて、そんなパパは私の自慢のパパですわよ!」
「パ……パパ……か。」
ガインの鼻がグジっと鳴った。
愛娘のミーシャに何処か距離を置かれている様な気がしていたガインは、ミーシャが自分の秘密を受け入れてくれた上に、パパと呼んで貰えた事で、紐で縛った様にギクシャクした親子関係が解けた様な気がした。
「ありがとうな……ミーシャ……。」
「…お礼を言われる事なんて何も…それより、陛下がパパを心配してましたわよ?昨夜のパパは何だか様子がおかしかったって。」
「そ、そうか、ならキリアンに顔を見せて来るかな…。」
椅子から立ち上がりドアに向かうガインは、昨夜の自分の様子がおかしかったとキリアンから聞いている事に微妙な疑問を浮かべつつ、「幼馴染みだから俺の様子を聞かされるほど仲がいいんだな。」位で答えを解決させた。
ガインの背後でメガネをクイっと上げたミーシャの頭の中では、キリアンから聞かされた惚気け話の「パパからキリアンに抱いてとオネダリ」がリフレイン中である。
━━まだ照れ臭そうではあるけれど、もう完全に両想いだわ!
やったわね!キリお兄ちゃん!!
これでもう田舎に引きこもる事はあるまい。
私の小説家としての活動も安泰だわ!━━
ミーシャの部屋を出たガインは、ミーシャにパパと呼ばれてテレテレと顔を綻ばせながらキリアンの部屋を訪ねた。
「キリアン皇帝陛下、私です。」
ドアの向こう側から、キリアンの「入って」の声が聞こえる。
ガインはドアを開き、礼をして部屋に入った。
「夜分遅くに申し訳ありませ………ディ!!!!」
礼をして顔を上げたガインの前に、キリアンと並んでセディが立っていた。
セディは微笑みながらガインに向け手をヒラヒラと振る。
「やぁ隊長。さっきぶり。」
「……何だよ、その意味深な言葉は。
俺のガインに何かしたんじゃないだろうな。」
キリアンがセディに突き刺す様な視線を向ける。
状況が飲み込め無いガインは、ただ呆然と二人を見ていたが…。
二人の顔が並ぶ様子に既視感を覚えて記憶を辿り、キリアンの執務机の近くにある先代皇帝グレアムと皇妃の肖像画に目が行った。
「………!!!皇妃様!!!」
「…の、弟のセドリックです。改めてよろしく。隊長。」
「叔父上は母上の生国、ヴィーヴル王国の公爵だ。
そして…ヴィーヴルが誇る隠密部隊のひとつを率いて、我が国の為に働いてくれている。
この国で暗部の存在を知っているのは俺だけだったんだが、条件をクリアしたらガインにも存在を明らかにして良いって……。
って、本名名乗って姿を見せたって事は条件をクリアしたって事だよな?なんの条件だったんだよ。」
「え、それは隊長と僕との秘密だから言えない。」
ガインは驚き過ぎて言葉を失った。
ずっと無意識下で、何処かで見た事あるような顔だと記憶と繋ぎ合わせようとしていたらしく目がセディを追いかけていた。
まさかキリアンの母である皇妃と同じ顔だとは気付きもしなかった。
「でも、隊長になら僕の正体を明かしても良いと思ったんだよね。
彼はキリアンを絶対に裏切らないと分かったから。」
「だから…それをどうやって知ったんだよ……
内容次第ではしばき倒すよ?叔父上。」
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