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拗ねてムクレて膨れっ面……の可愛いオッサン。
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━━何事も無く朝を迎え━━
陽射しを取り込み明るくなった部屋で、腑に落ち無い顔をしながらガインがノロノロとベッドから降りて朝の支度を始めた。
自分の部屋の自分のベッドで、寝衣ではなくとも裸では無く、衣服を身に着けた状態で目を覚ます。
ある意味、久しぶりに清々しい朝を迎えた気がする。
だが、頭の片隅には微妙な違和感が残る。
「キリアン…来なかったのか。」
昨日の夕方、事に及んだ時に受けた『深夜はもっと濃厚に』予告が敢行されなかった事はある意味有り難いのだが…。
しっかりと『夜の部』がある事を宣言した上で、結局何もしに来なかったという、キリアンらしからぬ行動が心配にもなってしまう。
突然体調を崩したのではないかとも思うが、もしかして……
「俺の頭がミーシャの事でいっぱいになってたトコを見て、ヘソを曲げたのか…?」
キリアンを…怒らせた?呆れさせた?
それで、もう俺の顔を見たくないと思わせたのか?
罪悪感が頭をもたげ始めて胸がギュッと締め付けられる。
ガインはそんな不安がよぎる自身の思考に、自身で待ったをかけた。
「怒らせようが呆れさせようが、それが何だと言うんだ!俺が悪いんじゃねーし!
勝手にへそを曲げていればいいだろう!!」
元は皇妃の部屋であったガインの私室の隣。
皇帝キリアンの私室では、ガインの部屋側の壁に背を預けたキリアンが、声を殺しながらも漏れる笑い声を手で抑えて震えていた。
「プッ……ぷぷッ…声でかっ……
何でガインがキレちゃってるんだろうね。
昨夜、俺に抱かれなかった事をアレコレ考え過ぎて、そんなにも不安がってるなんて…ホント、可愛いんだから。
一週間の禁欲生活に耐えられないのは俺だけじゃないみたいだよ?
ミーちゃんには悪いけど、解禁早そうだね。」
ガインの逆ギレ行動が素直になれないガインが拗ねた時のクセだと子供の頃から良く知っているキリアンは、隣の部屋のガインの様子が嬉しくて仕方がない。
今すぐ隣室に飛び込んでガインを抱き締めて、なだめて思い切り甘えさせて、深く交わり一つに繋がりたい程に。
だが今そんな事をすれば反対側の部屋のドアがバインッと開いて、鬼の形相のメスの虎を覚醒させ兼ねないので、今は我慢しようとキリアンが下唇をキュッと噛んだ。
「ハハハ、どうしてこう…ガインって…どこまでも俺を溺れさせて行くんだろ。
気持ちを伝え、想いが通じて…もう何度も抱いてるのに愛しい気持ちも、もっとガインが欲しいって気持ちも止まらない。
まだ全然、底が見えないよ。」
キリアンは壁に両手の平と額を当て目を閉じ、壁の向こう側に居る最愛の人を想い、優しい笑みを浮かべた。
「まだ教えてあげられないけど、いつか俺の本当の夢を教えてあげる。
二人で夢を叶えようね……。
愛してる、ガイン……。」
▼
▼
▼
「おはようございます、キリアン皇帝陛下。」
近衛隊長として、数人の部下と共に皇帝陛下の私室前にて玉座の間に向かうキリアン皇帝を迎えたガインは、キリッと精悍と言うよりは、ブスッと不機嫌な表情をして立っていた。
「ああ。……今朝はまた、随分と気難しい顔をしているなガインよ。
何か、気に喰わぬ事でもあったのか?」
キリアンは意味深に含み笑いを浮かべてわざとらしくガインに尋ねた。
ガインが連れて来た部下達は普段のガインと今、眼の前二居るガインとの違いが分からない。
いつもどおりの、ゴツくておっかない仏頂面にしか見えない。
「いいえ陛下が気に留めるような事は何も御座いません。
ええ、何も御座いませんとも。」
「そうか。ならば良い。行くぞ。」
口角を僅かに上げ、グギィィと歯ぎしりが聞こえそうな作り笑いを浮かべたガインから、キリアンがスッと目線を外した。
真っ直ぐ前を見据えて悠然と歩く皇帝と、それを護る様に囲む兵士達。
その後に臣や従者を侍らせ、ピンと張り詰めた表情を崩さずに玉座に向かい粛々と歩を進める皇帝キリアンであったが、脳内では床をバンバン叩く勢いで大爆笑をしていた。
━━ガインが可愛い!不貞腐れてんのを隠しきれてないの、可愛い!可愛くてたまんない!
今、皆の見ている前で押し倒して奪ってしまいたい位だよ!師匠!━━
ガインをはじめ、側近や臣下の者を集めたキリアン皇帝は玉座の間へ赴くと、その日は近隣諸国の外交官に謁見を許し国交について言葉を交わした。
その後は国交を担当する文官達に対応を任せ、キリアンは側近や宰相など信頼の置ける臣下一同を連れ会議室へと向かった。
議題の多くは、先の戦争による国内外での後処理についてと、今後の国交についてではあるが、キリアンを暗殺しようとしたリスクィート国の事を最重要事項とした話し合いが行われた。
「今回、私を暗殺しようと目論んだ輩はリスクィートの者ではあるが、義母の生国であるあの国が私の暗殺を謀ったと認めはしないだろう。
女のような顔をした世間知らずの若い皇帝が治め始めたばかりの我が国━━は、そのように侮る輩に常に狙われている。
見せしめという言い方をしたくはないが、リスクィート国を見逃すワケにはいかん。
だが裏を取る必要がある。」
大国であるベルゼルト皇国は多くの国と隣接しており、国を割った先の戦争でキリアンが勝利を得た際には同盟を結びたい国も、これから国交を結びたいという国も多く名乗りを上げた。
それら全てが本心から、キリアン皇帝が統べる国と仲良くしたいと思っているかは定かではなく
「フフッ私はまだ舐められているのでな。都合が良い。
皆は上手く立ち回れ。懐柔される隙を見せるのも良い。
国を統べる器には無い甘い皇帝の元に居るのだとな。
……ま、出来たらば……の話だが。」
キリアン皇帝に不満を持つ配下だとのそぶりを見せ、接触してくる者からその真意を聞き、どの程度の敵となり得るのかを探ろうとの案は、配下を囮に使った卑怯な手段だ。
キリアンを甘く見て国交を優位な立場に持っていきたいだけの国ならば良いが、キリアンの暗殺を企むような国であれば配下にも危険が及ぶ。
時間が惜しいキリアンが、手っ取り早く結果を得るには、綺麗事だけでは済ませられないとの案であったが。
「何をおっしゃいますか陛下!
そんなの絶対に無理だろうが!
芝居だろうが、嘘だろうが、よその国の奴の前で皇帝陛下に不満を持つ態度なんぞ出来るワケ無かろうが!!
キリアンは先帝同様に立派な皇帝だ!我が国の誇りだ!
そんなキリアンを貶めてまで、そんな阿呆どもを燻り出すような事をせんでもいい!」
と、ガインは言う。
キリアンも、会議室に集まった者達も、「だろうな。」と納得した表情をしてガインを見て苦笑しだした。
皇帝に対する口調も忘れて不敬な言葉遣いでの怒鳴るようなガインの咆哮は皇帝に忠義を捧げ、それを誇りだと言う素晴らしい騎士の言葉であり、逆に場が和んでしまった。
「ふふっ、そうだな。私も事を急ぎ過ぎたようだ。
今日はここまでとしよう。解散だ。」
ガタガタと席を立ち、キリアンのブレーンとなる側近や臣下の者が、ガインを見て緩い笑顔を浮かべながらゾロゾロと会議室を出て行った。
「……俺は、いらん事を言ったのか?
なんかみんな、ニヤついて出て行ったが。」
「違うよ、みんなはガインが余りにもガインらしくて、それが面白かったんだよ。
俺も、ちょっと無茶を言ってる感はあったからさ、止めてくれて良かったよ。
それに…嘘とは言え、ガインが俺を見限った態度をするの見たら…俺、きっと本気で泣く。」
広い会議室の中には、中央の高い席に座るキリアンと、傍らに立つガインの二人きりとなった。
キリアンの言葉に照れたように一瞬で顔を赤くさせたガインだったが、思い出したかのように首をブンブンと左右に振った。
「さぁ、実際にはどうなんだかな。
集合時間を忘れて寝過ごすような弟子に、そんな繊細な気持ちがあるとは思えねーしな。」
椅子に座ったまま机に肘をつき、組んだ手の平で隠したキリアンの口元がニイッと綻ぶ。
昨夜、部屋に行かなかった事を責めるガインの言葉に、平静さを装いながらもキリアンの心が喜びに踊る。
━━行っていたら行っていたで
「何で来たんだ帰れ!さっきしたから、もういいだろ!」
とか言っちゃっていただろうにね…ふふっ
素直になり切れなくて逆にめちゃくちゃ素直。
ああ…拗ねてるなんて可愛いなぁ…ガインは。━━
「そうだガイン、今から俺の入浴時間なんだが一緒に風呂に入ろう。」
「…………は?なんで。
皇帝陛下サマは侍女も従者もつけず、風呂はいつも一人でお入りになられるじゃねぇか。」
あからさまに不機嫌そうな顔のまま、胸の前で腕を組んだガインがしかめっ面でハンッと鼻息を飛ばして不愉快そうに答えた。
「そうなんだけどさ、俺が一人で入ってる時にまた暗殺者が襲って来るかも知れないし…。
浴室の外で待っててくれても良いけど、いきなり気絶とかさせられて助けを呼べない状況にされるかも知れないじゃない?」
暗殺されかけた話を持ち出されれば、ガインも今の態度を保つ事は出来ず、胸の前で腕を組んだまま考え込む様に「うぅうん…」と渋い唸り声を上げた。
「なら、まぁ……構わんが。
キリアンは子供の頃から人と風呂に入るのが嫌いだと聞いていたからな。」
「それは男も女も皆、子供だった俺の身体を撫で回したがったりヤラシイ目で見るからで……
野外で修行した時に何度か師匠と水浴びや風呂みたいな湯溜まりに入った事あったじゃないか。
師匠が俺をヤラシイ目で見る事なんてなかったし。
今ならヤラシイ目で見てもいいよ?俺の身体。」
「そっ、そんな目で見るか!!馬鹿!!」
パアッと明るい顔をしたキリアンがガインに言えば、顔を真っ赤にしたガインが過剰に反応した。
「なら、浴場に行こうか。
今日は俺だけが利用出来る日だから誰も来ないし。
誰か来るとしたら、まぁ暗殺者だけだよ。」
「……来たらシャレにならないだろうが……
ま、浴場ん中に一緒に入るならば俺がキリアンを守るし暗殺者なんぞには指一本触れさしゃあしねーけど。」
「さすがガイン、頼もしいな。」
━━二人の甘い時間を邪魔する輩が現れたら、俺がそいつをブッ殺すよ!
さぁ、ミーちゃんのお許しを貰うために、ガインから俺を欲しがってくれるように頑張らないとな!━━
陽射しを取り込み明るくなった部屋で、腑に落ち無い顔をしながらガインがノロノロとベッドから降りて朝の支度を始めた。
自分の部屋の自分のベッドで、寝衣ではなくとも裸では無く、衣服を身に着けた状態で目を覚ます。
ある意味、久しぶりに清々しい朝を迎えた気がする。
だが、頭の片隅には微妙な違和感が残る。
「キリアン…来なかったのか。」
昨日の夕方、事に及んだ時に受けた『深夜はもっと濃厚に』予告が敢行されなかった事はある意味有り難いのだが…。
しっかりと『夜の部』がある事を宣言した上で、結局何もしに来なかったという、キリアンらしからぬ行動が心配にもなってしまう。
突然体調を崩したのではないかとも思うが、もしかして……
「俺の頭がミーシャの事でいっぱいになってたトコを見て、ヘソを曲げたのか…?」
キリアンを…怒らせた?呆れさせた?
それで、もう俺の顔を見たくないと思わせたのか?
罪悪感が頭をもたげ始めて胸がギュッと締め付けられる。
ガインはそんな不安がよぎる自身の思考に、自身で待ったをかけた。
「怒らせようが呆れさせようが、それが何だと言うんだ!俺が悪いんじゃねーし!
勝手にへそを曲げていればいいだろう!!」
元は皇妃の部屋であったガインの私室の隣。
皇帝キリアンの私室では、ガインの部屋側の壁に背を預けたキリアンが、声を殺しながらも漏れる笑い声を手で抑えて震えていた。
「プッ……ぷぷッ…声でかっ……
何でガインがキレちゃってるんだろうね。
昨夜、俺に抱かれなかった事をアレコレ考え過ぎて、そんなにも不安がってるなんて…ホント、可愛いんだから。
一週間の禁欲生活に耐えられないのは俺だけじゃないみたいだよ?
ミーちゃんには悪いけど、解禁早そうだね。」
ガインの逆ギレ行動が素直になれないガインが拗ねた時のクセだと子供の頃から良く知っているキリアンは、隣の部屋のガインの様子が嬉しくて仕方がない。
今すぐ隣室に飛び込んでガインを抱き締めて、なだめて思い切り甘えさせて、深く交わり一つに繋がりたい程に。
だが今そんな事をすれば反対側の部屋のドアがバインッと開いて、鬼の形相のメスの虎を覚醒させ兼ねないので、今は我慢しようとキリアンが下唇をキュッと噛んだ。
「ハハハ、どうしてこう…ガインって…どこまでも俺を溺れさせて行くんだろ。
気持ちを伝え、想いが通じて…もう何度も抱いてるのに愛しい気持ちも、もっとガインが欲しいって気持ちも止まらない。
まだ全然、底が見えないよ。」
キリアンは壁に両手の平と額を当て目を閉じ、壁の向こう側に居る最愛の人を想い、優しい笑みを浮かべた。
「まだ教えてあげられないけど、いつか俺の本当の夢を教えてあげる。
二人で夢を叶えようね……。
愛してる、ガイン……。」
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「おはようございます、キリアン皇帝陛下。」
近衛隊長として、数人の部下と共に皇帝陛下の私室前にて玉座の間に向かうキリアン皇帝を迎えたガインは、キリッと精悍と言うよりは、ブスッと不機嫌な表情をして立っていた。
「ああ。……今朝はまた、随分と気難しい顔をしているなガインよ。
何か、気に喰わぬ事でもあったのか?」
キリアンは意味深に含み笑いを浮かべてわざとらしくガインに尋ねた。
ガインが連れて来た部下達は普段のガインと今、眼の前二居るガインとの違いが分からない。
いつもどおりの、ゴツくておっかない仏頂面にしか見えない。
「いいえ陛下が気に留めるような事は何も御座いません。
ええ、何も御座いませんとも。」
「そうか。ならば良い。行くぞ。」
口角を僅かに上げ、グギィィと歯ぎしりが聞こえそうな作り笑いを浮かべたガインから、キリアンがスッと目線を外した。
真っ直ぐ前を見据えて悠然と歩く皇帝と、それを護る様に囲む兵士達。
その後に臣や従者を侍らせ、ピンと張り詰めた表情を崩さずに玉座に向かい粛々と歩を進める皇帝キリアンであったが、脳内では床をバンバン叩く勢いで大爆笑をしていた。
━━ガインが可愛い!不貞腐れてんのを隠しきれてないの、可愛い!可愛くてたまんない!
今、皆の見ている前で押し倒して奪ってしまいたい位だよ!師匠!━━
ガインをはじめ、側近や臣下の者を集めたキリアン皇帝は玉座の間へ赴くと、その日は近隣諸国の外交官に謁見を許し国交について言葉を交わした。
その後は国交を担当する文官達に対応を任せ、キリアンは側近や宰相など信頼の置ける臣下一同を連れ会議室へと向かった。
議題の多くは、先の戦争による国内外での後処理についてと、今後の国交についてではあるが、キリアンを暗殺しようとしたリスクィート国の事を最重要事項とした話し合いが行われた。
「今回、私を暗殺しようと目論んだ輩はリスクィートの者ではあるが、義母の生国であるあの国が私の暗殺を謀ったと認めはしないだろう。
女のような顔をした世間知らずの若い皇帝が治め始めたばかりの我が国━━は、そのように侮る輩に常に狙われている。
見せしめという言い方をしたくはないが、リスクィート国を見逃すワケにはいかん。
だが裏を取る必要がある。」
大国であるベルゼルト皇国は多くの国と隣接しており、国を割った先の戦争でキリアンが勝利を得た際には同盟を結びたい国も、これから国交を結びたいという国も多く名乗りを上げた。
それら全てが本心から、キリアン皇帝が統べる国と仲良くしたいと思っているかは定かではなく
「フフッ私はまだ舐められているのでな。都合が良い。
皆は上手く立ち回れ。懐柔される隙を見せるのも良い。
国を統べる器には無い甘い皇帝の元に居るのだとな。
……ま、出来たらば……の話だが。」
キリアン皇帝に不満を持つ配下だとのそぶりを見せ、接触してくる者からその真意を聞き、どの程度の敵となり得るのかを探ろうとの案は、配下を囮に使った卑怯な手段だ。
キリアンを甘く見て国交を優位な立場に持っていきたいだけの国ならば良いが、キリアンの暗殺を企むような国であれば配下にも危険が及ぶ。
時間が惜しいキリアンが、手っ取り早く結果を得るには、綺麗事だけでは済ませられないとの案であったが。
「何をおっしゃいますか陛下!
そんなの絶対に無理だろうが!
芝居だろうが、嘘だろうが、よその国の奴の前で皇帝陛下に不満を持つ態度なんぞ出来るワケ無かろうが!!
キリアンは先帝同様に立派な皇帝だ!我が国の誇りだ!
そんなキリアンを貶めてまで、そんな阿呆どもを燻り出すような事をせんでもいい!」
と、ガインは言う。
キリアンも、会議室に集まった者達も、「だろうな。」と納得した表情をしてガインを見て苦笑しだした。
皇帝に対する口調も忘れて不敬な言葉遣いでの怒鳴るようなガインの咆哮は皇帝に忠義を捧げ、それを誇りだと言う素晴らしい騎士の言葉であり、逆に場が和んでしまった。
「ふふっ、そうだな。私も事を急ぎ過ぎたようだ。
今日はここまでとしよう。解散だ。」
ガタガタと席を立ち、キリアンのブレーンとなる側近や臣下の者が、ガインを見て緩い笑顔を浮かべながらゾロゾロと会議室を出て行った。
「……俺は、いらん事を言ったのか?
なんかみんな、ニヤついて出て行ったが。」
「違うよ、みんなはガインが余りにもガインらしくて、それが面白かったんだよ。
俺も、ちょっと無茶を言ってる感はあったからさ、止めてくれて良かったよ。
それに…嘘とは言え、ガインが俺を見限った態度をするの見たら…俺、きっと本気で泣く。」
広い会議室の中には、中央の高い席に座るキリアンと、傍らに立つガインの二人きりとなった。
キリアンの言葉に照れたように一瞬で顔を赤くさせたガインだったが、思い出したかのように首をブンブンと左右に振った。
「さぁ、実際にはどうなんだかな。
集合時間を忘れて寝過ごすような弟子に、そんな繊細な気持ちがあるとは思えねーしな。」
椅子に座ったまま机に肘をつき、組んだ手の平で隠したキリアンの口元がニイッと綻ぶ。
昨夜、部屋に行かなかった事を責めるガインの言葉に、平静さを装いながらもキリアンの心が喜びに踊る。
━━行っていたら行っていたで
「何で来たんだ帰れ!さっきしたから、もういいだろ!」
とか言っちゃっていただろうにね…ふふっ
素直になり切れなくて逆にめちゃくちゃ素直。
ああ…拗ねてるなんて可愛いなぁ…ガインは。━━
「そうだガイン、今から俺の入浴時間なんだが一緒に風呂に入ろう。」
「…………は?なんで。
皇帝陛下サマは侍女も従者もつけず、風呂はいつも一人でお入りになられるじゃねぇか。」
あからさまに不機嫌そうな顔のまま、胸の前で腕を組んだガインがしかめっ面でハンッと鼻息を飛ばして不愉快そうに答えた。
「そうなんだけどさ、俺が一人で入ってる時にまた暗殺者が襲って来るかも知れないし…。
浴室の外で待っててくれても良いけど、いきなり気絶とかさせられて助けを呼べない状況にされるかも知れないじゃない?」
暗殺されかけた話を持ち出されれば、ガインも今の態度を保つ事は出来ず、胸の前で腕を組んだまま考え込む様に「うぅうん…」と渋い唸り声を上げた。
「なら、まぁ……構わんが。
キリアンは子供の頃から人と風呂に入るのが嫌いだと聞いていたからな。」
「それは男も女も皆、子供だった俺の身体を撫で回したがったりヤラシイ目で見るからで……
野外で修行した時に何度か師匠と水浴びや風呂みたいな湯溜まりに入った事あったじゃないか。
師匠が俺をヤラシイ目で見る事なんてなかったし。
今ならヤラシイ目で見てもいいよ?俺の身体。」
「そっ、そんな目で見るか!!馬鹿!!」
パアッと明るい顔をしたキリアンがガインに言えば、顔を真っ赤にしたガインが過剰に反応した。
「なら、浴場に行こうか。
今日は俺だけが利用出来る日だから誰も来ないし。
誰か来るとしたら、まぁ暗殺者だけだよ。」
「……来たらシャレにならないだろうが……
ま、浴場ん中に一緒に入るならば俺がキリアンを守るし暗殺者なんぞには指一本触れさしゃあしねーけど。」
「さすがガイン、頼もしいな。」
━━二人の甘い時間を邪魔する輩が現れたら、俺がそいつをブッ殺すよ!
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