【R18】生贄の姫は皇子に喰われたい

あまやどんぐり

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3.忘れられた皇子

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 明くる日、少女は侍従に少年のことを聞いた。
 少年は皇帝の唯一の後継者、皇太子であるが、病に臥せっており皇帝の命によってこの宮殿内で療養していると。

 唯一の後継者、皇太子……なのに管理が行き届いていないのはなぜ?

 治療法が見つかっていない不治の病であり、誰も彼に寄り付きたがらない。医者も症状を柔和するための薬を処方するだけなのだと、説明する侍従は責められることを恐れているのか、伝う冷や汗を胸ポケットから出したハンカチで拭いていた。

 少女は、侍従に頼んだ。
 皇太子殿下のお世話を、私がしてもいいか……皇帝陛下に許可を取ってくれないかと。

 返事を待つ間も少女は少年の世話をした。
 まずは彼の身なりを整えてあげようと、お湯に浸けた布を絞って少年の顔や体を丁寧に拭いてあげた。
 陽が射して明るみになったその部屋は、患者が過ごすには良くない環境であった。
 埃も所々に溜まっていて、零れた液体がカーペットに沁みついて汚れていて、割れた食器も散らばっている。

 どれだけの期間をこんな場所で一人で過ごしてきたのだろう。治らないのは、環境のせいでもあるのではないか……。少年の顔色も良くなくて、体も瘦せ細っていて少女が少年を抱き起すのに苦労なんてしないほど軽かった。
 侍従に言って用意してもらった衣服を少年に着せていると、けほけほ咳込みだした少年を急いでクッションに寄りかからせた。

 少年は声も出せないほど、体力がなくなっていた。唇も渇いて、目を開けているのがわからないほど瞼はずっと伏せている感じだった。
 侍従に聞いた彼の歳は、少女と変わらない13歳だというのに、その見た目は老人と変わらなく見えた。

 水を一口飲むだけでも大変な体に、水と変わらない状態まで煮込んだスープを一口、スプーンで掬って口に含むと、コクリと飲み込んでくれた。
 一度に飲み込める量はスプーン一杯だったので、水とスープと薬を間隔を空けて与えては休み、また与えては休みを一日の間に何度も繰り返した。

 皇帝から少年の世話をする許可が下りた。好きにするように、必要なものは侍従を通じて用意するようにと。
 少女はまず少年を自分の部屋に移動させた。
 あんな汚れた環境の部屋で過ごすにはやはり体に良くないと思ったし、他の部屋は階段を上がって移動しないといけないから、少年にとっては過酷だったから。

 大人の力があれば簡単だった。だけど誰も少年に手を差し伸べることはなかった。
 少女はそんな大人たちに無理強いするつもりもなかったし、少年の世話は自分一人で充分だった。

 なぜなら、誰にも言えない秘密の妙薬があったから。
 まだ未熟な体の少女には備わっていないけど。

「苦しいけど、もう少し耐えて。頑張って。……生きて」

 少女の体が少年を生かす薬になるまで……16歳になれば、彼を苦しみから解放してあげられる。
 それまでは決して短い時間ではないけど

「大丈夫。……きっと大丈夫」

 自分自身にも言い聞かせるように、少女は少年を励まし続けた。



 初めの半年を、少年は一日のほとんどを寝て過ごしていた。起きて水を飲み少し経ってから食事のスープと薬を体に入れた。
 寝たきりの状態も血流が悪くなり体に良くないので、少女が仰向けになった少年の足を持って足踏みをするような形になるように持ち上げたり伸ばしたりと動かして、揉んでほぐしたりした。
 外に自由に出られない少女が彼にできることは、そんな世話の日常と、本を読んで聞かせて声を掛けること。そのくらいだった。

 少年は受け答えはできないし、されるがままの生活だったけど、それでも生きようと少女が与えるものは全て受け止めた。
 少女の読み聞かせる声が子守唄になって、励ます声が少年の命を繋ぐ唯一のものになるまで、長くはかからなかった。



 さらに2ヶ月が経つと、少年は起きてる時間が長くなった。
 声も「あー」とか「うー」などの赤ん坊の喃語のようなものを出せるようになった。瞼を開けて少女を見る瞳は深い青で、少女はここに来るまでの途中で見た海を思い出した。

 少年は筋力がまだないので、少女に抱き起してもらわないと起き上がれなかったけど、感謝の印と親愛の証として少女の体を抱き締める行動を取るようになった。
 人の温もりを感じることが嬉しくて。些細だけど、少年がそこまで動けるようになったことが嬉しくて、少女もその抱擁を受け入れて彼を抱き締め返した。
 それが毎朝の二人の日課になった。
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