【R18】生贄の姫は皇子に喰われたい

あまやどんぐり

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4.アリシア

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 皇帝の15番目の側室となった身で、自ら皇太子である少年の世話係になった少女と、皇太子でありながらその存在を忘れられた少年は一つの部屋で一緒に過ごした。
 寝る時は同じベッドで横になり、起きたときに隣にいるのが当たり前になって……。

 少年が起きて、少女の姿をまじまじと見れるようになると、少年は窓を拭いて掃除をしている少女を呼んだ。
 あう……と掠れた短い声であったが、少女は聞き逃さずに振り向いてくれた。

「どうしました?」

 持っていた布巾を置いて、パタパタと近づいてくる少女の姿に、少年の顔は自然と綻んだ。

 実は一緒に過ごして10ヵ月にもなろうとしているのに、少年は少女のことを知らなかった。
 名前も素性も知らない。そんな彼女が甲斐甲斐しく世話をしてくれた。嫌な顔もせず弱音も吐かずに、離れずにいてくれた。目の前にいる少女を知りたいと思うのは自然なことだった。

 声を出すのは難しいので、紙に書く。手を動かすリハビリにもなるので文字を書く練習を始めたのだが、長いこと文字を書いていなかったのと指に力が入らないことで、たどたどしい文字であった。

 《きみの こと おしえ て》

「私のな、まえ……?」

 少年の文字を声に出して読み上げてから、少女は少年の顔に視線を移した。
 少年が頷こうとした拍子に咳込んでしまって、少女はすぐに答えることはできなかったけど、呼吸を整えながらクッションに寄り掛かる少年に向かって伝えた。

「アリシアです」

 少女の口から出た回答が、鐘の鳴る音のように耳の中を伝って少年の頭の中に響いた。

「あい……ぃあ」

 言いたかった。呼んでみたかった。その名を舌の上で転がしてみたくて、何度も唇を動かしてみた。
 その様子を見ていたアリシアがクスリと笑って、ずれ落ちた布団を掛け直してくれた。
 そして、ぽつぽつと話してくれた。
 とても小さい国の王女であったこと。
 ここにいる理由……皇帝の15番目の側室であると。
 姉弟たちの話を懐かしみながら話してくれる少女の声に耳を傾けた。

 売り渡される形でやってきた少女がもし、ここにいなければ少年は放っておかれたあの部屋で餓死していただろう。
 あの部屋に、いつ、どうやって移されたのかも記憶になくて、視界はずっと暗くて、朝なのか夜であるかもわからない。時間も日付もわからない。
 苦しいだけだった。

 それを思い出すと、今生きていることが不思議で、夢を見ているような毎日だと思うほど、少年にとって貴重な日々だった。



 夜、首を横に動かすと隣でこちらを向く形で横たわって、寝息をたてる少女がいる。
 力を入れるのに震える腕を一生懸命に少しずつ動かして、少女の鼻先に手の甲が触れた。
 そこに少女の息が掛かると、くすぐったくて指がぴくりと反応して動いてしまった。鼻先を手の甲が擦るように動いたことで、少女の顔が動いて指に唇が触れた。
 瞬間、腹の下から熱が沸き上がる。同時に心臓が飛び跳ねるように鼓動した。

 彼女の唇から伝わる体温と、自分に沸く熱のおかげで、少年は生きていると実感できた。
 少女と出会えていなかったら……そんなこと、考えたくもない。
 生きたい。生きて、そして……。眠る少女を見つめている青い瞳を揺らしながら願った。

 そんな夜を何度も繰り返し過ごしていく内に、目の前の少女は成長して、幼さが残った可愛らしい顔から幼さが消えて、背は頭一つ分は伸びて、手足もすらりと長くなった。腰まで伸びた銀の髪が絹のように艶やかで、シルクのネグリジェが彼女の体の曲線を際立たせるようになった。

 唇も厚みが増えたように思う。それでも小さい口は変わらないけれど。
 アリシアの唇を、指で触れてそっと撫でる。毎晩そうしてきたから、その部分の変化にはすぐに気付けた。

 ギルバートも体は痩せ細っているが、アリシアの小さい顔を覆い隠せるほど手は大きくなったし、身長もアリシアより3センチは伸びた。

 そして体の成長と共に、隣で眠るアリシアを見つめていると、喉が渇いたように感じるようになった。
 この渇きが、沸き上がる熱が、アリシアを求める欲情であると自覚したのはアリシアの16歳の誕生日であった。
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