9 / 44
9.アリシアの憂鬱
しおりを挟む
アリシアの一日は、朝起きて顔を洗って身なりを整えると、ギルバートの顔を洗うためのぬるま湯とタオルを用意することから始まる。
厨房まで行って、用意された朝食をカートに乗せて部屋まで持って行って、朝食を摂る。掃除をして、ギルバートのリハビリを手伝って、昼食の時間になって、刺繍をしたり本を読んだり……どれも、ギルバートと一緒に過ごした。
これは今まで過ごしてきた日常。過去の話だ。
今は……朝起きると、ギルバートが侍女を呼んで、ぬるま湯もタオルもその日に着る衣服も用意させた。
身支度も自分ではなくて、使いの者たちに手伝わせた。
ギルバートだけではなく、アリシアのことも。
朝食も部屋まで運ばせて、二人だけで食べる。
今までは自分たちだけでやってきたことだから、第三者が介入することに慣れてなくて、もどかしかった。
二人だけのとき以外はギルバートのことを「殿下」と呼ばなければいけないし、ギルバートからも「アリシア様」と呼ばれる。これは……まあ、不便ではあるものの、なんだかくすぐったい感じがして嫌ではないのでいいのだけれど。
一番重大なのは、未だに二人で同じ部屋、同じベッドで寝ていることではないかと気付いたのが、生活の変化に少しだけ慣れた最近のことだった。
皇帝の側室が、皇太子と寝屋を共にしている。
こんなに重大で、刺激的な話題はないだろう。
醜聞、という言葉を最近になって知った。
二人の関係について、どんな噂が流れているか……自由に皇宮の出入りを許されないアリシアにはわからないが、ギルバートの負担にはなりたくないと考えていた。
あの日から、ギルバートは体調が少しずつ良くなってきて食欲が出てきたようで、主に肉を好んで食べるようになった。
おかげで肉付きが良くなって、顔色も良く健康的な好青年に見える。
アリシアの世話も必要がなくなったこともあって、アリシアからギルバートに提案したのだ。
部屋を別々にしよう、と。
答えは、否だった。
ギルバートはその日の夜、執拗に首や胸を吸って見えるところのあちこちに噛み跡と吸った痕跡を残した。
おかげで数日間、着替えと湯浴みの手伝いは遠慮してもらうことにした。
初めてギルバートに抱かれた日から、毎晩のように蜜夜を過ごしておいて、部屋を別々にするというのもおかしな話なのだが。
実のところ、アリシアは今複雑な思いを抱えていた。
ギルバートに抱かれることは、快感で体が悦ぶし、嫌ではないので彼が望むだけこの身を捧げることができる。
だけど、最後まで抱かれたことがない。
ギルバートはいつも衣類を身に着けたまま、アリシアを抱いた。
アリシアの体を撫でるギルバートの手は優しいけれど、抱きしめる力が前よりも強くなってきたように思う。
ギルバートは、主に口を使って愛撫する。顔も耳も唇も口の中まで……体中を味わう彼の与える快感に震えて、脳が蕩けてしまう。
アリシアを刺激して、溢れる蜜を吸う。ギルバートの抱き方はとても甘美で、アリシアが果てるまで止めてくれないので、沸き上がった欲望を解放してくれる。
果てて、疲れて、蕩ける夜に満足していた。
ギルバートを生かして、求めてもらうことがアリシアの望みだったから。
生贄の血が彼を生かす薬になって嬉しかった。
それ以上にアリシアの体を求めて、噛み付いて舌で舐めて、アリシアの体から滲むものを飲み込むその行為が《食事》のようで。
悦びに満ち溢れた。
なのに、行為の後に熱が冷めていくと同時に、虚しさで取り残された感覚に陥ってしまう。
もっと深くまで繋がりたい。腹の奥で、彼を感じたい。
欲張りになった自分が愚かで、惨めになった。
しかし、ギルバートが最後まで抱かない、というのも理解できた。
アリシアは皇帝の側室という立場なのだから。ギルバートは皇太子で、後継者。彼にも立場というものがある。
だから、きっと、それが理由なのだと、自分に言い聞かせた。
『シア』
アリシアを呼んで、微笑んだギルバートが隣にいない。
空席のそこを見て、アリシアは独りで過ごしていた。
厨房まで行って、用意された朝食をカートに乗せて部屋まで持って行って、朝食を摂る。掃除をして、ギルバートのリハビリを手伝って、昼食の時間になって、刺繍をしたり本を読んだり……どれも、ギルバートと一緒に過ごした。
これは今まで過ごしてきた日常。過去の話だ。
今は……朝起きると、ギルバートが侍女を呼んで、ぬるま湯もタオルもその日に着る衣服も用意させた。
身支度も自分ではなくて、使いの者たちに手伝わせた。
ギルバートだけではなく、アリシアのことも。
朝食も部屋まで運ばせて、二人だけで食べる。
今までは自分たちだけでやってきたことだから、第三者が介入することに慣れてなくて、もどかしかった。
二人だけのとき以外はギルバートのことを「殿下」と呼ばなければいけないし、ギルバートからも「アリシア様」と呼ばれる。これは……まあ、不便ではあるものの、なんだかくすぐったい感じがして嫌ではないのでいいのだけれど。
一番重大なのは、未だに二人で同じ部屋、同じベッドで寝ていることではないかと気付いたのが、生活の変化に少しだけ慣れた最近のことだった。
皇帝の側室が、皇太子と寝屋を共にしている。
こんなに重大で、刺激的な話題はないだろう。
醜聞、という言葉を最近になって知った。
二人の関係について、どんな噂が流れているか……自由に皇宮の出入りを許されないアリシアにはわからないが、ギルバートの負担にはなりたくないと考えていた。
あの日から、ギルバートは体調が少しずつ良くなってきて食欲が出てきたようで、主に肉を好んで食べるようになった。
おかげで肉付きが良くなって、顔色も良く健康的な好青年に見える。
アリシアの世話も必要がなくなったこともあって、アリシアからギルバートに提案したのだ。
部屋を別々にしよう、と。
答えは、否だった。
ギルバートはその日の夜、執拗に首や胸を吸って見えるところのあちこちに噛み跡と吸った痕跡を残した。
おかげで数日間、着替えと湯浴みの手伝いは遠慮してもらうことにした。
初めてギルバートに抱かれた日から、毎晩のように蜜夜を過ごしておいて、部屋を別々にするというのもおかしな話なのだが。
実のところ、アリシアは今複雑な思いを抱えていた。
ギルバートに抱かれることは、快感で体が悦ぶし、嫌ではないので彼が望むだけこの身を捧げることができる。
だけど、最後まで抱かれたことがない。
ギルバートはいつも衣類を身に着けたまま、アリシアを抱いた。
アリシアの体を撫でるギルバートの手は優しいけれど、抱きしめる力が前よりも強くなってきたように思う。
ギルバートは、主に口を使って愛撫する。顔も耳も唇も口の中まで……体中を味わう彼の与える快感に震えて、脳が蕩けてしまう。
アリシアを刺激して、溢れる蜜を吸う。ギルバートの抱き方はとても甘美で、アリシアが果てるまで止めてくれないので、沸き上がった欲望を解放してくれる。
果てて、疲れて、蕩ける夜に満足していた。
ギルバートを生かして、求めてもらうことがアリシアの望みだったから。
生贄の血が彼を生かす薬になって嬉しかった。
それ以上にアリシアの体を求めて、噛み付いて舌で舐めて、アリシアの体から滲むものを飲み込むその行為が《食事》のようで。
悦びに満ち溢れた。
なのに、行為の後に熱が冷めていくと同時に、虚しさで取り残された感覚に陥ってしまう。
もっと深くまで繋がりたい。腹の奥で、彼を感じたい。
欲張りになった自分が愚かで、惨めになった。
しかし、ギルバートが最後まで抱かない、というのも理解できた。
アリシアは皇帝の側室という立場なのだから。ギルバートは皇太子で、後継者。彼にも立場というものがある。
だから、きっと、それが理由なのだと、自分に言い聞かせた。
『シア』
アリシアを呼んで、微笑んだギルバートが隣にいない。
空席のそこを見て、アリシアは独りで過ごしていた。
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる