【R18】生贄の姫は皇子に喰われたい

あまやどんぐり

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9.アリシアの憂鬱

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 アリシアの一日は、朝起きて顔を洗って身なりを整えると、ギルバートの顔を洗うためのぬるま湯とタオルを用意することから始まる。
 厨房まで行って、用意された朝食をカートに乗せて部屋まで持って行って、朝食を摂る。掃除をして、ギルバートのリハビリを手伝って、昼食の時間になって、刺繍をしたり本を読んだり……どれも、ギルバートと一緒に過ごした。

 これは今まで過ごしてきた日常。過去の話だ。

 今は……朝起きると、ギルバートが侍女を呼んで、ぬるま湯もタオルもその日に着る衣服も用意させた。
 身支度も自分ではなくて、使いの者たちに手伝わせた。
 ギルバートだけではなく、アリシアのことも。
 朝食も部屋まで運ばせて、二人だけで食べる。

 今までは自分たちだけでやってきたことだから、第三者が介入することに慣れてなくて、もどかしかった。

 二人だけのとき以外はギルバートのことを「殿下」と呼ばなければいけないし、ギルバートからも「アリシア様」と呼ばれる。これは……まあ、不便ではあるものの、なんだかくすぐったい感じがして嫌ではないのでいいのだけれど。

 一番重大なのは、未だに二人で同じ部屋、同じベッドで寝ていることではないかと気付いたのが、生活の変化に少しだけ慣れた最近のことだった。

 皇帝の側室が、皇太子と寝屋を共にしている。
 こんなに重大で、刺激的な話題はないだろう。
 醜聞、という言葉を最近になって知った。

 二人の関係について、どんな噂が流れているか……自由に皇宮の出入りを許されないアリシアにはわからないが、ギルバートの負担にはなりたくないと考えていた。

 あの日から、ギルバートは体調が少しずつ良くなってきて食欲が出てきたようで、主に肉を好んで食べるようになった。
 おかげで肉付きが良くなって、顔色も良く健康的な好青年に見える。

 アリシアの世話も必要がなくなったこともあって、アリシアからギルバートに提案したのだ。
 部屋を別々にしよう、と。

 答えは、否だった。

 ギルバートはその日の夜、執拗に首や胸を吸って見えるところのあちこちに噛み跡と吸った痕跡を残した。
 おかげで数日間、着替えと湯浴みの手伝いは遠慮してもらうことにした。

 初めてギルバートに抱かれた日から、毎晩のように蜜夜を過ごしておいて、部屋を別々にするというのもおかしな話なのだが。

 実のところ、アリシアは今複雑な思いを抱えていた。

 ギルバートに抱かれることは、快感で体が悦ぶし、嫌ではないので彼が望むだけこの身を捧げることができる。
 だけど、最後まで抱かれたことがない。

 ギルバートはいつも衣類を身に着けたまま、アリシアを抱いた。
 アリシアの体を撫でるギルバートの手は優しいけれど、抱きしめる力が前よりも強くなってきたように思う。
 ギルバートは、主に口を使って愛撫する。顔も耳も唇も口の中まで……体中を味わう彼の与える快感に震えて、脳が蕩けてしまう。
 アリシアを刺激して、溢れる蜜を吸う。ギルバートの抱き方はとても甘美で、アリシアが果てるまで止めてくれないので、沸き上がった欲望を解放してくれる。
 
 果てて、疲れて、蕩ける夜に満足していた。
 ギルバートを生かして、求めてもらうことがアリシアの望みだったから。

 生贄の血が彼を生かす薬になって嬉しかった。
 それ以上にアリシアの体を求めて、噛み付いて舌で舐めて、アリシアの体から滲むものを飲み込むその行為が《食事》のようで。
 悦びに満ち溢れた。

 なのに、行為の後に熱が冷めていくと同時に、虚しさで取り残された感覚に陥ってしまう。

 もっと深くまで繋がりたい。腹の奥で、彼を感じたい。
 欲張りになった自分が愚かで、惨めになった。

 しかし、ギルバートが最後まで抱かない、というのも理解できた。
 アリシアは皇帝の側室という立場なのだから。ギルバートは皇太子で、後継者。彼にも立場というものがある。
 だから、きっと、それが理由なのだと、自分に言い聞かせた。

『シア』

 アリシアを呼んで、微笑んだギルバートが隣にいない。
 空席のそこを見て、アリシアは独りで過ごしていた。
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