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30.想い馳せる、恋焦がれる(6)
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ギルバートは、再び同盟国に向かうための準備に追われていた。
3ヶ月前、同盟国の第二王子から手紙が送られてきた。
――予測していたことが起きた、と。
反乱軍の残党が同盟軍と解放軍を撹乱させている間に、賊は強奪を行う。または、賊に構っている間に、反乱軍はこちらの食糧庫を潰す作戦を企てたりと、二つの組織が手を組んで少々厄介なことになっているようだ。
解放軍は、自分たちに火の粉が降りかからなければ動かない姿勢で、それに気づいた残党と賊が同盟軍を狙って動いている。
それと、強奪の対象が金品だけでなく、女子供を連れ去っては他国へ売り飛ばしている。被害が広がる前に、一気に叩きたい。応援をお願いできないかという内容だった。
同盟国に滞在していた頃、第二王子との会議で残党と賊が手を組めば厄介だと話していた。解放軍と和解条約を結ぶことで決着がついたというのに、両者を刺激して再び争わせようとするかもしれないと。
ギルバートは準備が整い次第、参戦すると返事をした。
ずっと続く諍いに、兵士や騎士たちも疲弊しているだろう。おそらく、相手はそれを狙っているのだ。充分に弱らせてから一気に潰そうと。
小さい火種だと侮っていると、こちらが足元をすくわれる事態になりかねないので、今回は総力を挙げて戦うことにした。
実は予測するだけではなく、事前に相手が基地にするだろう場所の目星を付けていたので、すぐに監視を付けるように第二王子に伝えておいた。
動きがあれば狼煙を上げて知らせるようにと。今回はそれが役に立ちそうだ。
支援物資や武器などの積み荷が船に運び込まれる様子を見ている間に、騎士の隊長たちが次々と、自分の隊の準備が整ったと報告に来た。
もうそろそろ出港できるかと、思っていた矢先だった。
「陛下……! 皇帝陛下!!」
遠くからギルバートを呼ぶ声に振り向くと、雨なんて降ってない中でびしょ濡れの姿で駆け寄る一人の騎士がいた。
「……お前は?」
「は! 皇太子妃殿下の追跡の任に就いており、只今帰還いたしました!」
それはご苦労だったと労いの言葉を掛ける場面なのだが、騎士は慌てた様子で、許しも得ずに発言した。
「旅客船が、こちらに向かう途中、海上で奇襲を受けました!」
混乱しているようで、言葉があちこちに飛び交っていたが、要約すると、こちらに到着する予定の旅客船に乗っていたところ、突然海賊に襲われたと。騎士は応戦しようとしたのだが、多勢に無勢で海に落とされてしまったようだ。
騎士は報告を続けた。海賊は、金品の強奪と共に、女子供を連れ去って行ったと。
「被害者の中に、皇太子妃殿下が」
「全員、直ちに船に乗り込め!!」
皇帝が声を張り上げると、その場にいた全員にビリビリと気迫が伝わって、一気に緊張感が走った。
目の前の騎士も圧倒されて、言葉を続けようとした口は固く閉ざされ、体は直立したまま動けなくなった。
ギルバートの側に、補佐官や近くにいた隊長がすぐに駆け付けて指示を仰いだ。
「7番から9番の乗る船は、襲撃を受けた旅客船の救助に至急向かえ。その後はこの港と、帝国内の警備にあたるように。奴ら、いよいよ帝国に手を出し始めたようだ。絶対に、警戒を怠るな」
「は!」
皇帝からの命を受けた隊長がすぐさま動いて、ギルバートは報告をした騎士に向けて
「お前には旅客船までの案内を任せる」
「あ……は、は!」
急いで言われた船まで走り去る騎士を横目に、補佐官を連れ立って急ぎ足で歩き出したギルバートは、補佐官に同盟国に到着次第、戦闘態勢に入ると全員に伝えるように言って、船に乗り込んだ。
皇帝が乗る船を筆頭に、後ろには三隻続いて同盟国に向けて出港した船内は、戦闘態勢に入る準備で慌ただしかった。
ギルバートも船内に用意された自室に入ると、服を着替え、鎧を身に着けて、腰に剣を下げた。
怒りで腸が煮え返り、今にも発狂してしまいそうな気持ちを押し殺すように握り締めた拳が、血管を浮かせて震えていた。
「アリシア……っ」
彼女が苦境に立たされたときも、危機に陥ったときも側にいない己が歯がゆい。
アリシアに無事でいて欲しいと心配で不安な気持ちと、アリシアに怖い思いをさせるだけでなく、連れ去った奴らへの憎しみが入り混じって感情がめちゃくちゃだった。
帝国に――アリシアに、手を出したことを後悔させてやる……いや、後悔する前に息の根を止めてやる。
「その場で全員、断罪してやる」
一人で物騒なことをぶつぶつと言って、港に到着するのを待った。
3ヶ月前、同盟国の第二王子から手紙が送られてきた。
――予測していたことが起きた、と。
反乱軍の残党が同盟軍と解放軍を撹乱させている間に、賊は強奪を行う。または、賊に構っている間に、反乱軍はこちらの食糧庫を潰す作戦を企てたりと、二つの組織が手を組んで少々厄介なことになっているようだ。
解放軍は、自分たちに火の粉が降りかからなければ動かない姿勢で、それに気づいた残党と賊が同盟軍を狙って動いている。
それと、強奪の対象が金品だけでなく、女子供を連れ去っては他国へ売り飛ばしている。被害が広がる前に、一気に叩きたい。応援をお願いできないかという内容だった。
同盟国に滞在していた頃、第二王子との会議で残党と賊が手を組めば厄介だと話していた。解放軍と和解条約を結ぶことで決着がついたというのに、両者を刺激して再び争わせようとするかもしれないと。
ギルバートは準備が整い次第、参戦すると返事をした。
ずっと続く諍いに、兵士や騎士たちも疲弊しているだろう。おそらく、相手はそれを狙っているのだ。充分に弱らせてから一気に潰そうと。
小さい火種だと侮っていると、こちらが足元をすくわれる事態になりかねないので、今回は総力を挙げて戦うことにした。
実は予測するだけではなく、事前に相手が基地にするだろう場所の目星を付けていたので、すぐに監視を付けるように第二王子に伝えておいた。
動きがあれば狼煙を上げて知らせるようにと。今回はそれが役に立ちそうだ。
支援物資や武器などの積み荷が船に運び込まれる様子を見ている間に、騎士の隊長たちが次々と、自分の隊の準備が整ったと報告に来た。
もうそろそろ出港できるかと、思っていた矢先だった。
「陛下……! 皇帝陛下!!」
遠くからギルバートを呼ぶ声に振り向くと、雨なんて降ってない中でびしょ濡れの姿で駆け寄る一人の騎士がいた。
「……お前は?」
「は! 皇太子妃殿下の追跡の任に就いており、只今帰還いたしました!」
それはご苦労だったと労いの言葉を掛ける場面なのだが、騎士は慌てた様子で、許しも得ずに発言した。
「旅客船が、こちらに向かう途中、海上で奇襲を受けました!」
混乱しているようで、言葉があちこちに飛び交っていたが、要約すると、こちらに到着する予定の旅客船に乗っていたところ、突然海賊に襲われたと。騎士は応戦しようとしたのだが、多勢に無勢で海に落とされてしまったようだ。
騎士は報告を続けた。海賊は、金品の強奪と共に、女子供を連れ去って行ったと。
「被害者の中に、皇太子妃殿下が」
「全員、直ちに船に乗り込め!!」
皇帝が声を張り上げると、その場にいた全員にビリビリと気迫が伝わって、一気に緊張感が走った。
目の前の騎士も圧倒されて、言葉を続けようとした口は固く閉ざされ、体は直立したまま動けなくなった。
ギルバートの側に、補佐官や近くにいた隊長がすぐに駆け付けて指示を仰いだ。
「7番から9番の乗る船は、襲撃を受けた旅客船の救助に至急向かえ。その後はこの港と、帝国内の警備にあたるように。奴ら、いよいよ帝国に手を出し始めたようだ。絶対に、警戒を怠るな」
「は!」
皇帝からの命を受けた隊長がすぐさま動いて、ギルバートは報告をした騎士に向けて
「お前には旅客船までの案内を任せる」
「あ……は、は!」
急いで言われた船まで走り去る騎士を横目に、補佐官を連れ立って急ぎ足で歩き出したギルバートは、補佐官に同盟国に到着次第、戦闘態勢に入ると全員に伝えるように言って、船に乗り込んだ。
皇帝が乗る船を筆頭に、後ろには三隻続いて同盟国に向けて出港した船内は、戦闘態勢に入る準備で慌ただしかった。
ギルバートも船内に用意された自室に入ると、服を着替え、鎧を身に着けて、腰に剣を下げた。
怒りで腸が煮え返り、今にも発狂してしまいそうな気持ちを押し殺すように握り締めた拳が、血管を浮かせて震えていた。
「アリシア……っ」
彼女が苦境に立たされたときも、危機に陥ったときも側にいない己が歯がゆい。
アリシアに無事でいて欲しいと心配で不安な気持ちと、アリシアに怖い思いをさせるだけでなく、連れ去った奴らへの憎しみが入り混じって感情がめちゃくちゃだった。
帝国に――アリシアに、手を出したことを後悔させてやる……いや、後悔する前に息の根を止めてやる。
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