【R18】生贄の姫は皇子に喰われたい

あまやどんぐり

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31.想い馳せる、恋焦がれる(7)

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 船が出港すると、メリアがアリシアの隣にやって来て、いつものようにぺちゃくちゃとお喋りを始めた。

 帝国を離れて1年はあっという間だった。
 今まで感じたことのない充実した1年だったと振り返ると、あの国のあの食べ物は美味しかった。あの文化は、ちょっと受け入れ難かったなどの感想をあれこれ述べた。

 それと実は、ラディとメリアは、互いに三男と二女ということもあって、後継者でもないから教育を満足に受けさせてもらえなかった。
 二人の夢は劇団を立ち上げて、いつか世界に羽ばたきたいことだったから、独学で語学を学んだのだという話になった。

「私達がまだ小さい頃にご存命だった皇后様がね、後継者とか身分とか関係なく、平等に教育を受けることができるようにって、アカデミーの設立計画の話があったらしいんだけど……なぜか白紙になったみたい」

(……ギルのお母さん)

 メリアの話を聞いて、ふと気になった。
 ギルバートにアリシアの家族の話を聞かせたときに、ギルバートの家族のことを聞いたら「知らない」と言った。母である皇后陛下はギルバートを産んで亡くなった。父に至っては会ってもいないからと。

「皇后陛下を見たことある?」

 どんな人なんだろう。純粋に気になった。

「肖像画を見たことがあるだけよ。ブロンドヘアに青い瞳が印象的で……」

 彼の瞳は母親譲りなのだと、物思いに耽ってしまって、メリアのお喋りはほとんど頷いて聞くだけになってしまった。



 帝国に着くのは明日の夕刻なので、一晩を船の上で過ごさなければいけない。
 眠りたいのに、ゆらゆらと揺れる船が目的地に近付いていることを思うと、しきりに皇宮で過ごした日のことを思い出して、寝付けなかった。

『眠れないの?』

 16歳の誕生日の前日の記憶。
 待っていた、その日――ギルバートを生かす体に成る日が近付いて、胸がそわそわして落ち着かなくて、眠れなかった夜。

 隣のギルバートが、眠れなくて何度も寝返りを打つアリシアに声を掛けた。

『あ……ごめんなさい』

 彼の眠りの邪魔をしてしまったことに気付いて、アリシアは落ち着かない胸を抑えるように両手をぎゅっと握り合わせた。

 その手に、ギルバートの手がそっと重ねられる。

『シア、もう少しこっち寄って』

 寝返りを打っている内に二人の間隔がいつもより空いていた。
 ギルバートに手を引かれるように距離を詰めると、アリシアの手はギルバートの胸に当てられた。

『心臓の音、わかる?』

 手のひらに伝わるギルバートの温もりと、トクトクと脈打つ音がアリシアの手のひらから伝わってくる。

『……うん』

『目を閉じて』

 そのとき、本当は自分を見つめる彼の瞳を見つめていたかったのだけど、言われるまま目を閉じた。

 ギルバートは何も言わず、アリシアの頬に掛かった髪を後ろに流してくれて、布団をかけ直してくれた。

 静かな空間で、二人の呼吸の音だけが聞こえる。

(ギルの心臓……生きてる)

 彼が生きていることを教えてくれる音が、アリシアの心を落ち着かせてくれた。
 優しく包んでくれるような彼の温もりに身を委ねると、心地良かった。

『おやすみ、アリシア』

 眠りに落ちる頃に聞いた気がする声が記憶から呼び起こされると、今は眠れないアリシアの胸を切なくさせた。



 結局、眠れたのは朝方だったから皆より少し遅く起きて朝食を摂った。
 ゆっくり、もぐもぐと口を動かしていると、予定通りに帝国に着きそうだと船員の話し声が聞こえて、まだぼやけた頭に残る想いに耽った。

 帝国が近くなるにつれて、思い出される彼の声が頭の中で繰り返される。
 一つ思い出せばまた一つ思い出される日々に、想いを馳せる。

 温かいお茶を飲んで、はあ、と息を吐いた。

 今からこんな状態で、帝国に着いたらどうすればいいのか、憂鬱だった。



 部屋に戻って、到着までの時間をメリアを含む団員たちと団欒をして過ごしていた。

 その時だった――。

 船が大きく揺れて、外が騒がしくなったのは一瞬で、部屋の中では皆、何が起こったのかわからずにその場で固まるしかなかった。

 ドタバタと走る音が近付いて、血相を変えたラディが姿を見せると「逃げろ」と叫んだ。

 この海の上には逃げ場などなくて、雪崩れるように男達がやって来て、女と子供たちはあっという間に連れ去られてしまった。
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