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32.想い馳せる、恋焦がれる(8)
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先程まで、穏やかな船の上で談笑して和やかに過ごしていたのが一変して、荒々しい船の上で恐怖に包まれる中、子供達が泣き叫んで、それを制止する怒号が飛んだ。
びくりと肩が跳ねて、恐怖と緊張で震える唇をぎゅっと噛んで抑えると、アリシアは近くにいた怯えて震える子供を自分の胸に抱き寄せた。
旅客船に乗り込んで来た男たちは、片手に短剣や斧を持って「女はこっちへ来い」と一言命令した。
先に部屋に駆けつけていたラディが反抗したが、押さえつけられてなす術もなく、女性と子供達が甲板の一箇所に集められて、皆それぞれ手錠を掛けられた。逃げられないようにと4人ずつのグループに分けられて、4人の片足に鎖で連結された枷まで着けられた。
アリシアは、見知らぬ女性と小さい少女と少年のグループになった。
仲間と結託することも懸念したのか、メリアや他の団員達もそれぞれのグループに割り当てられた。
そして、海賊は金品を回収し終えると、アリシア達を海賊船に移動させて出航した。
「おい。基地に着く前に、品定め終わらせておけよ」
男たちが楽し気に大声を出して奪った金品を物色しているところに、一人の男が声を掛けると"品定め"が始まった。
連れ去った人を囲って、周りをうろうろと歩く男、しゃがみ込んで震える女性を眺めてニヤニヤと笑みを浮かべる男……男たちの手には色違いの紐が握られている。
一人の男がアリシアの前に立ち止まって、アリシアの膝に顔を埋める少女に「顔を上げろ」と命令した。少女は恐怖に震えて動けなかった。男が舌打ちをしてもう一度言っても、少女は動けなかった。
「……や、やめて……ください」
恐怖のせいで出しづらい声を無理矢理出すと、震えて小さい声しか出なかった。
アリシアは、膝の上の少女の頭を優しく抱えて、男を見上げて訴えた。
訝しげにアリシアを見つめた男の口がにやりと笑うのが目に映ると、全身に鳥肌が立つのを感じた。
男は、しゃがんでアリシアの目線に自分の目線を合わせると、突然アリシアの顎を掴んで探し物でもするようにアリシアの顔を左右に動かして、うんうん唸り出した。
(……気持ち悪い)
アリシアは、生まれて初めて異性に嫌悪感を抱いた。
その肌に触れてくる手も、温もりも、表情も全てが気持ち悪くて仕方なかった。これが同じ人間なのかと疑いたくなるほどだった。
(ケダモノ)
人に悪口を向けるのも、生まれて初めてだったけど、この呼び名が目の前の男には相応しいと思った。
その醜いケダモノがアリシアから手を離して、満面の笑みを浮かべて言った。
「おめでとう。お嬢ちゃんは特級品だ」
人身売買の商品として拉致されたアリシア達は、勝手にランク付けをされて、上から特級、A級、B級、C級の4種類を各々言い渡されて、それぞれの色の紐を手首に付けられた。
その判断基準はわからないけれど、すでに人間扱いをされていないことに腹立たしくなり、これからどこか……誰かに買われるのかと、皆恐怖に怯えた。
船がどこかの洞窟に到着すると、船を降ろされて、松明の灯りだけで照らすだけの薄暗い中を歩かされた。
言う事を聞くしかない被害者達は皆、己の行く末に絶望して青ざめた顔で俯いて黙ったまま、足枷の鎖を引きずる音だけが鳴り響いていた。
しばらく歩くと、灯りが見えてその先には、牢屋が並んでいた。
足枷を外して、手首の紐の色別に牢屋に押し込まれる。
アリシアの手首に付けられた"特級品"の牢屋には、アリシアの他に3人いた。
全員を牢屋に押し込んだ男たちが今度は、紙に被害者の特徴と値段を書いて〈売る準備〉を始めた。
どこの国のどの金持ちに売りつけようか……男たちが金の話を弾ませていると、別の牢屋から「帰りたい」と泣き叫ぶ女性の声が響いた。
それに呼応された子供達も泣き喚いて、他の女性も神に祈りを捧げたり、すすり泣く声も続けて聞こえて悲愴感漂う中で、男たちの笑い声が混じって奇妙な光景だった。
「運が良ければ、優しいご主人様に当たるだろうよ」
慰めにもならない言葉を投げかけられて、さらに絶望する被害者達の悲痛な声があちこちから飛び交った。
アリシアも、この状況が夢であってくれたならと手を握り合わせて目を瞑った。それでも、聞こえてくる声は変わらない。目を開けても、見える景色は同じ――。
帝国に近付くにつれてアリシアを憂鬱にさせていた、頭にしきりに浮かんだ彼の顔、声、温もりが今は恋しくて仕方なかった。
びくりと肩が跳ねて、恐怖と緊張で震える唇をぎゅっと噛んで抑えると、アリシアは近くにいた怯えて震える子供を自分の胸に抱き寄せた。
旅客船に乗り込んで来た男たちは、片手に短剣や斧を持って「女はこっちへ来い」と一言命令した。
先に部屋に駆けつけていたラディが反抗したが、押さえつけられてなす術もなく、女性と子供達が甲板の一箇所に集められて、皆それぞれ手錠を掛けられた。逃げられないようにと4人ずつのグループに分けられて、4人の片足に鎖で連結された枷まで着けられた。
アリシアは、見知らぬ女性と小さい少女と少年のグループになった。
仲間と結託することも懸念したのか、メリアや他の団員達もそれぞれのグループに割り当てられた。
そして、海賊は金品を回収し終えると、アリシア達を海賊船に移動させて出航した。
「おい。基地に着く前に、品定め終わらせておけよ」
男たちが楽し気に大声を出して奪った金品を物色しているところに、一人の男が声を掛けると"品定め"が始まった。
連れ去った人を囲って、周りをうろうろと歩く男、しゃがみ込んで震える女性を眺めてニヤニヤと笑みを浮かべる男……男たちの手には色違いの紐が握られている。
一人の男がアリシアの前に立ち止まって、アリシアの膝に顔を埋める少女に「顔を上げろ」と命令した。少女は恐怖に震えて動けなかった。男が舌打ちをしてもう一度言っても、少女は動けなかった。
「……や、やめて……ください」
恐怖のせいで出しづらい声を無理矢理出すと、震えて小さい声しか出なかった。
アリシアは、膝の上の少女の頭を優しく抱えて、男を見上げて訴えた。
訝しげにアリシアを見つめた男の口がにやりと笑うのが目に映ると、全身に鳥肌が立つのを感じた。
男は、しゃがんでアリシアの目線に自分の目線を合わせると、突然アリシアの顎を掴んで探し物でもするようにアリシアの顔を左右に動かして、うんうん唸り出した。
(……気持ち悪い)
アリシアは、生まれて初めて異性に嫌悪感を抱いた。
その肌に触れてくる手も、温もりも、表情も全てが気持ち悪くて仕方なかった。これが同じ人間なのかと疑いたくなるほどだった。
(ケダモノ)
人に悪口を向けるのも、生まれて初めてだったけど、この呼び名が目の前の男には相応しいと思った。
その醜いケダモノがアリシアから手を離して、満面の笑みを浮かべて言った。
「おめでとう。お嬢ちゃんは特級品だ」
人身売買の商品として拉致されたアリシア達は、勝手にランク付けをされて、上から特級、A級、B級、C級の4種類を各々言い渡されて、それぞれの色の紐を手首に付けられた。
その判断基準はわからないけれど、すでに人間扱いをされていないことに腹立たしくなり、これからどこか……誰かに買われるのかと、皆恐怖に怯えた。
船がどこかの洞窟に到着すると、船を降ろされて、松明の灯りだけで照らすだけの薄暗い中を歩かされた。
言う事を聞くしかない被害者達は皆、己の行く末に絶望して青ざめた顔で俯いて黙ったまま、足枷の鎖を引きずる音だけが鳴り響いていた。
しばらく歩くと、灯りが見えてその先には、牢屋が並んでいた。
足枷を外して、手首の紐の色別に牢屋に押し込まれる。
アリシアの手首に付けられた"特級品"の牢屋には、アリシアの他に3人いた。
全員を牢屋に押し込んだ男たちが今度は、紙に被害者の特徴と値段を書いて〈売る準備〉を始めた。
どこの国のどの金持ちに売りつけようか……男たちが金の話を弾ませていると、別の牢屋から「帰りたい」と泣き叫ぶ女性の声が響いた。
それに呼応された子供達も泣き喚いて、他の女性も神に祈りを捧げたり、すすり泣く声も続けて聞こえて悲愴感漂う中で、男たちの笑い声が混じって奇妙な光景だった。
「運が良ければ、優しいご主人様に当たるだろうよ」
慰めにもならない言葉を投げかけられて、さらに絶望する被害者達の悲痛な声があちこちから飛び交った。
アリシアも、この状況が夢であってくれたならと手を握り合わせて目を瞑った。それでも、聞こえてくる声は変わらない。目を開けても、見える景色は同じ――。
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