【R18】生贄の姫は皇子に喰われたい

あまやどんぐり

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37.噛んで、痕を残して

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 再会の約束を交わすと、ギルバートはすぐに机に向かって使者に持たせる書面を書き出した。それが皇宮で待つ宰相の手に渡れば、アリシアを守ってくれるはずだからと。

 書く内容が多いためか、手を止めずに動かしてさらさらとペンを紙に滑らせているのに待つ時間が長く感じた。

 ギルバートは、同盟国で起こっている諍いを収めるために残らなければいけないと話した。半年程で帰れるようにすると言っていたけれど……離れるのは、やはり寂しい。

 かと言って、ギルバートの邪魔をすればせっかく書いている物をインクで汚してしまって、さらに待たされる羽目になるので、アリシアは大人しくギルバートの様子を見るだけに留めた。


 ギルバートの後ろ姿を見つめながら、アリシアは想いを巡らせていた。

 出会ったときは、小さいアリシアよりも小さくて、命の灯も消えかかっていたギルバート……独りで寂しくて、悲しくて、静かな空間で静かに過ごすしかなかったあの空間で、見つけたもう一人の自分のようだと思った。
 生きて欲しいと願った。自分を必要として欲しいと望んだ。……その欲求の名をなんと呼べばいいのかわからないけれど、アリシアはギルバートを求めていた。

 何度も思い出しては浸った、彼と過ごした日々――いつから、自分は彼の事を想っていたのだろう。あのとき……もっと前?などと目を閉じて考えていると、ギルバートから呼ばれて目を開けた。

 想いを巡らせていたおかげで、ギルバートが目に映ると愛しさが込み上げた。

 彼のことを愛しているのだと自覚してから、溢れる想いが止まらなくて、止めることもやめたそれがアリシアを我が儘にする。

「ギル……ぎゅって、して」

 両手を広げて強請った。
 ギルバートは喜んでアリシアを腕の中に引き込んで、抱き締めた。

「……終わった?」

「うん。待たせてごめんね」

 これ以上くっつけないくらいに、アリシアの腕はギルバートの広い背中を抱き締めて、ギルバートは腕の中に納まってしまうアリシアを閉じ込めていた。

「あと、どのくらい、一緒にいられる?」

 開いたシャツに顔を埋めるアリシアの息がギルバートの肌に掛かると、くすぐったくて、それさえも愛しく感じるギルバートは、腕の力を弱めてアリシアの頭を撫でた。

「もう少ししたら、出発しないと」

 被害者達も早く帝国に帰りたいだろうし、待っている人もいるだろうから。

 被害者の中には、アリシアの大切な人達もいる。だから、我慢しないといけない……それを分かっているのに、ギルバートを掴んだ手が離れてくれなくて、我が儘を言いたい欲がもどかしくて、アリシアはギルバートを見上げて瞳を震わせた。

「……ギルが欲しい」

 その気持ちをなんと言えばいいのか、考えて吐き出したアリシアの言葉がギルバートの欲情を誘う。今の状況に問題がなければ、すぐにでもアリシアの服を全て剥いで貪ってしまいたい衝動に眩暈がした。

 抑え込むように吐き出したい欲情を飲み込みたくて、アリシアの口を塞いだのに、舌を吸うとアリシアの口から洩れる甘い声が、さらに欲望を煽って逆効果だった。

「どうして欲しい?」

 ベッドにアリシアを横たわらせると、濡れた唇を撫でてあげた。

 ギルバートは、自分の欲望のまま動けば抱き潰してしまうからと、アリシアの望むことに忠実でいようと、やり方を変えた。

「噛んで……欲しい」

 アリシアは、体を噛んで、痛みの痕を付けて欲しいと強請った。もう随分と前のことで薄れてしまった熱い記憶を、もう一度刻んで欲しかった。

「……わかった」

 アリシアの強請る姿と、これからする行為を想像する脳に理性が支配されそうだったけど、アリシアの体の味を知ってから、何度もそんな苦痛を味わってきたギルバートにとってそれを抑え込むことは容易く、むしろその感覚が懐かしく思えた。

 露わにされたアリシアの素肌が、相変わらず綺麗で、汚すことを躊躇ってしまうけれど、自分の口で汚すのだと思うと甘美でもあった。

 指を首筋から胸にかけて滑らせると、アリシアの体が震えて、甘い声を漏らす。その様子をいつまでも眺めていたいけれど、迫る時間がそれを許してくれない。
 アリシアの肩に顔を埋めて舐めると、口の中にアリシアの味が広がった。そのまま舌を首まで滑らせて、歯を立てた。

「あぁ……!」

 首を噛まれると、アリシアが堪らずに声を上げた。痛みが快感になって、電気が流れるような感覚に、我慢ができなかった。

「シア……」

 二人で過ごした宮殿のように、二人だけの空間ではないし、船内は声が外に漏れやすいことを想定していなかったことに気が付いて、ギルバートはアリシアの唇に指を当てた。

「声、我慢して」

 無茶なことを言っているのはわかっている。
 だけど、始めてしまった行為を止めることなんて出来なかった。

 荒い息を吐きながら頷いたアリシアが、ギルバートの手を口に当てたままその上から自分の手を重ねた。

「んあ……あ……っ」

 アリシアの声がギルバートの手のひらに響くと、それが欲望を刺激してギルバートは別の場所を噛んで、舐めて、吸った。その一連の流れを、アリシアの胸と首のあちこちに施して痕を残していった。

「んん……!」

 胸の先を舐めて味わうと、アリシアがギルバートの頭を軽く押してきた。中断して顔を上げると、アリシアが涙目で「もうやめて」と訴えた。

 自分から強請っておいて、やめてなんて……身勝手で我が儘な行動だけど、アリシアだから許せた。涙目でやめてなんて、可愛すぎる――彼女の魅力に囚われたギルバートは、大人しく従ってアリシアの涙に口付けをした。

「どうしたの?」

 聞くと、アリシアはまだ快感で震える体を抑えるための息を吐きながら答えた。

「……これ以上は、我慢できない、から」

 アリシアの頭から理性が飛びそうになって、僅かに残った理性でどうにかギルバートの行為を止めた。さすがに自分勝手なお願いだったかもしれないと、冷めていく熱がアリシアに罪悪感を抱かせた。

「ごめんなさい……」

「どうして謝るの? 可愛かったよ」

 ギルバートは、開けたアリシアの服のボタンを掛けながら、アリシアの瞼に口付けをした。

「もっとシアのお願い聞きたいから、帰ったら教えて」

 アリシアの唇に軽く口付けを落とすと、微笑んだギルバートがアリシアの頬を撫でて慰めてくれる。アリシアはそんな彼が愛しくて、胸がいっぱいになった。

「ギル……大好き」

「私も、愛してるよ……シア」




 アリシアは船の上から見える青い海を眺めて、最後にした口づけの感触を噛み締めていた。
 ギルバートと想いを通わせてから、ずっと胸が高鳴って落ち着かないから、冷たい風にでも当たろうかと外に出て来たのにと、ため息を漏らした。

 離れるのは寂しいけれど、悲しくはなかった。
 今度こそは、彼への想いを込めてハンカチに刺繍をして待っていようとアリシアは考えていたけれど、予想に反して忙しい日々を過ごす半年だった。
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