突然「婚約破棄」と言われても、私は婚約者ではありません!

おやっつ

文字の大きさ
13 / 16
第2章:人形を辞めて人間として

13.一つの願い

しおりを挟む
 ダイヤモンド、それはこの世界でオリハルコン,ミスリルの次に硬化性が高く、その無色透明な石は目を疑うほどの輝きを放つことで知られている。
 
 ナルがハルの宝石屋から買ったブレスレットもまた、ダイヤモンドが埋め込まれていた。

 そのブレスレットがこの宝石屋の存続を分けることになるなど、ハルは微塵も思っていない。ただこの時はまだ、ナルですらもこの願いが通るとは思っていなかった。
 通ればハルにとっても、自分や国にとっても良いな……とナルは思っていただけだった。

 ♢

 「このブレスレット……少し値は張ったけど、本当に美しいわね」

 ナルはそのブレスレットを通した右手を少し上げて、日の光を反射した美しく輝いた石を片目で覗きながらつぶやく。

 「それにしても……」
 このブレスレット、本当に美しい……だけど、奥底が少し濁っている。凝視してやっと見えるかどうかの差だけど、他の品にはなかった濁りだ。

 「不良品……とは思えない。となれば……」
 勝手な私の見解だが、これはハルさんの祖父が加工したものではないのだろう。
 これはきっと、ハルさんが自分で一から加工したもの。仮に祖父が戻ってこなくなったとしても、宝石屋だけは自分の力で続けようと頑張った結果だろう。

 「それを売りに出すのどうかと思うけど……他の品には無かったし、買ったのも濁りに気が付いた私だったから、別に大丈夫か」

 そう言いながら、ナルはセントリア家へと向かう街路の中で歩みを進める。
 この輝きを失くすことがないように────

 ♢

 「あ!!」

 客が少なく静かな宝石屋に見合わない、何かを思い出したかのような声が響き渡る。

 「ナルさんが買ってくれたブレスレット……あれ私が作ったやつだったような気が……!?」

 あれは不良品でお店に出す予定じゃなかったのに……って、どうせ売れるわけないと思ってお店に出した私が悪いんだけど……。
 どうしよう……今から追いかけても間に合わないよね。

 「また今度会ったときに謝らなくちゃ……」
 街路から離れた宝石屋で、ハルは一人で1つ決意した。

 ♢

 ――ガチャッ
 「おかえりなさいませ」
 「ええ、ただいま」

 笑顔で挨拶してくれた執事に、私は挨拶を返した。

 「カイル様は居るかしら?」
 「ただいまカイル様は、ある貴族様と会談の予定があるので、屋敷にはいらっしゃいません。」

 静かだな……と思っていたけれど、やっぱり居なかったか。

 「それではガーフ様は……?」
 「ガーフ様はお部屋にいらっしゃいます。今の時間は仕事が無いはずなのでノックすれば出るはずです」
 「そう……ありがとう」

 執事に一礼した後、私はガーフ様のお部屋へと向かう。
 片腕を光らせながら。

 ♢

 ――コンコン
 「ナルです」
 「ああ、入っていいぞ」

 部屋に入ると、全く同じ場所で同じ人、同じ表情なのに初めて出会った頃よりも威圧感を感じなかった。

 「それで……何か用かね?」
 仕事が無くても忙しのだろうか。ガーフはナルの体調などには触れず口を開くといきなり本題について問うてきた。もしかしたら、ガーフなりの気遣いなのかもしれないが。

 「まず……これを見てほしいんです」
 ナルはそう言いながら右腕からブレスレットを外して両手に乗せ、少しガーフの方へと近づける。

 「これは……ブレスレットか。綺麗な仕上がりなものだ」
 ガーフもナル同様、そのブレスレットの美しさに目を奪われていた。

 「ただ……完全に透き通ったダイヤモンドじゃないな。でも熟練した技術がある。これはどこで買ったんだ?」

 「これは……裏路地の奥にあった宝石屋のものです」

 そこからナルは、ハルの宝石屋であった出来事について、全てのことをガーフに話した。
 ハルの祖父が病で働けない状況にあること、今はハルが一人でお店を切り盛りしていること、このブレスレットはおそらくハルが作ったものだということ。
 そして……ハルの祖父はハルよりも宝石加工の腕が高いこと、最後にこのままではその宝石屋が潰れてしまうこと、ナルは全てを話した。

 「そうか……宝石加工をしたことない奴が、短期間でここまで腕を上げたのか……凄まじい才だな」

 ガーフは肘を机につきながら顎に手をあて、そのブレスレットを見つめる。

 「それで……結局ナル嬢は私に何を言いたいのだ?」
 ガーフ様はきっと、私が言いたいことはわかっているのだろう。
 ただ、それは私の口からお願いしなければならない。

 「その宝石屋をセントリア家で買収し、改装……リニューアルして街路沿いに新しく開きたいのです」
 「…………」

 ナルの提案を聞いた後、ガーフは少し眉をひそめながら黙って考え込んでいた。
 ただ思ったよりも早く顔を上げて口を開き、

 「それは……仲のいい奴を助けるため、か?」

 とナルに問いかけた。

 「いえ……これはです。必ずセントリア家にとって多くの利益を生み出すと思います」

 「ナル嬢がそういうなら本当なのだろうな。決意も伝わってくる」
 ガーフはナルの瞳から決意の強さを感じていた。それに、ガーフも心の奥底では、この宝石屋は国で一番の宝石屋になる、と薄々感じていた。

 「ありがとうございます!!」
 と、ナルは感謝を伝えながら頭を下げる。
 それに対してガーフは

 「王女ともあろう者が、そう簡単に頭を下げるものではないぞ」
 と微笑んだ──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

さようなら、婚約者様。これは悪役令嬢の逆襲です。

パリパリかぷちーの
恋愛
舞台は、神の声を重んじる王国。 そこでは“聖女”の存在が政治と信仰を支配していた。 主人公ヴィオラ=エーデルワイスは、公爵令嬢として王太子ユリウスの婚約者という地位にあったが、 ある日、王太子は突如“聖女リュシエンヌ”に心を奪われ、公衆の場でヴィオラとの婚約を破棄する。 だがヴィオラは、泣き叫ぶでもなく、静かに微笑んで言った。 「――お幸せに。では、さようなら」 その言葉と共に、彼女の“悪役令嬢”としての立場は幕を閉じる。 そしてそれが、彼女の逆襲の幕開けだった。 【再公開】作品です。

婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】

キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。 それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。 もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。 そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。 普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。 マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。 彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...