突然「婚約破棄」と言われても、私は婚約者ではありません!

おやっつ

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第2章:人形を辞めて人間として

14.落ちぶれていくグラシア家

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「失礼しました」
 その挨拶に、ガーフは目を合わせない。
 だが返事はなくとも、ナルはガーフから返事をしてくれたような気がした。

 少し微笑みながら、ナルはその部屋のドアをそっと閉める。

 「思ったよりもうまく進みましたね……」
 誰もいない廊下で一人、小さく言葉を呟く。
 この件について、ナルは絶対的な自信を持っていた。それはハルとハルの祖父の腕前、そして裏路地を抜けた先にあるのに、少なからず客が入っていたことを考えればと当然だろう。

 「やはりというべきか、ガーフ様もすぐにこの濁りに気が付いたわよね……」
 そう言いながらナルはまた右腕を少し持ち上げてきらびやかに光る石を見つめる。

 ナルは王女だからそこそこ宝石を見る機会はある。だからこそこの濁りに気が付いたのだ。
 だがガーフは公爵家当主ではあるものの、王女であり女性であるナルよりかは宝石を見る機会は無いはず。
 ……きっと、こういう1つ1つのことを見抜く力が周りよりも優れているから、公爵家の中でもトップなのだろう。

 ♢

 とある貴族の屋敷はピリピリと張りつめた空気を漂わせていた。

 「クソッ……!」
 ある1つの公爵家であるグラシア家の屋敷の一室で、グラシア家の当主であるガッシュ・フォン・グラシアはタワーのように積まれた書類の前で一人嘆いていた。

 「ランめ……グラシア家を2つ序列が低い伯爵家に下げた挙句、を使ったテロまで起こすとは……。」
 ランのせいでグラシア家が滅茶苦茶だ。それなのにあいつは罪から逃げるかのように空へ旅立つだなんて、なんて無責任なやつなんだ!

 ガッシュは実の息子であるランが亡くなったことに少しも悲しむ様子を見せずに、ただグラシア家のことについて頭を悩ませていた。

 「ランが落ちぶれていくのを見て、レイスト家まで何の関係もなかったかのように急に消えやがって……!」

 ガッシュは、はち切れそうな血管を額に浮かばせながら、一人憤慨する。
 その部屋の外では、自分に矛先が向くのではないかと焦る、執事とメイドの姿があった。その二人は目を合わせて、不安そうな顔を浮かばせながら、髪の生え際から頬にかけて汗を流す。

 「ナル……3年間衣食住を与えていたのに……こうなれば王女なんて関係ない。必ず仕返してやる」
 親が親なら子も子、と言うべきだろうか。ガッシュは何も思っていないが、傍から見れば子の復讐をしようとしている親だろう。
 ……なんとも面白く、皮肉なことなのだろうか────

 ♢

 ――バサッ
 ナルは一人、部屋でベッドの中へと背を倒す。
 
 「ハルさんの祖父……どんな人か知るためにも、一度会ってみたいわね」
 そう思っても今は会えない。とりあえず今は、ハルさんの祖父のお店の存続について全力でとりかかろう。今の私に出来ることはそれくらいしかない。

 新しくお店を開くには、ハルさんとハルさんの祖父の許可をとり、セントリア家から支援してもらいながら土地を決め、改装を進める必要がある。
 つまり、改装工事を進めるのは頑張ればあと3日後前後でとりかかれそうだけど、オープンまでは早くても1か月はかかるだろう。

 「長いわね……どうにか早くできないかしら?」
 出来ないと分かっていながら、ナルはその願いを口にする。
 こういうのに近道はない。あったとしても、崩れかけのがけのような危険な道だ。

 「急がば回れ……か」
 結局どうしようもないと思ったナルは、今日もまた部屋の天井を最後にその瞳を閉じる。
 頭の中で、これからの計画を練りながら――

 ♢

 次の日、善は急げとも言う通りに、ナルは早速ハルにその件について話しに宝石屋へと向かっていた。

 「……」
 この前と同じ裏路地をナルは覗く。

 「どうしてこんな路地裏に宝石屋なんて作ったのかしら?」
 別に悪いことでもないし、本人の自由なわけだが……どうしてもここに建てた理由が気になる。

 「でもなぜかそれを聞くのは野暮な気がするのよね」
 ナルは裏路地を歩き進めながら、独り言で自問自答いた。

 「やっと着いた。ここまで意外と距離があるのよね……」
 宝石屋につく頃には、普段運動をしないナルの足は限界に近づいていた。

 ――ガラガラ
 「ナルさん!」
 木製の少し大きめの扉を開くと、お店を巡回していたハルさんがとても急いだ様子で駆け寄ってくる。

 「どうし……」
 「すみませんでした!」
 ハルがナルの目の前まで来るや否や、ハルはナルの言葉を遮りながら全力で頭を下げて謝罪する。

 「えっと……本当にどうしたの?」
 あまりの出来事にナルは少し動揺していた。

 「この前のブレスレット……実は不良品だったんです!」
 「あぁ、そのことね。いいわよ、それを知ってて買ったんだから」
 
 「そうだったのですか?」
 その質問に、ナルは首を縦に振る。

 「急で悪いのだけれど、ハルさんのお爺さんと話せるかしら?少し3人で話したいことがあるの」

 その言葉に対してハルは「私もですか?」と聞いた後に、「多分大丈夫だと思いますけど」と返事をした。

 その後すぐにハルの祖父が居る宝石屋の二階へと、二人は歩みを進める。

 ただこの時はまだ、ナルはそんなことになるとは微塵も思っていなかった。
 まさか、提案をなんて──────
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