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リリィとニーナと嫉妬

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あの手紙から短めの秋も終わり冬が始まる頃
窓を見れば雪が降っている

木漏れ日の間は温かいので、すっかりみんなそこに集まるようになっていた

意外と賑やかなところになっているがケイラは殿下と一緒に出かけているし
私はミラ達と一緒に過ごしていた
いつもとは違うことといえば隣にはラルフがいることだろうか

「ふふ、可愛いですね」
私のところに寄ってきては膝に乗るうさぎが可愛くて自然と顔が綻ぶ
「そうだな」

相変わらず口数は少ないが、最近は特に表情が出てきているラルフ
今は、ほんの少しだけ笑みを浮かべている
ここ最近穏やかな日々を送れているせいか
ラルフの側にいると癒やされるというかホッとするようになってしまった

こうしていつも付いてきてくれるが、彼自身から不満など言われていない
休み時間は私に付きっきり状態になっているというのに

よくよく考えてもアールに対して脅威に感じるのも一番危険なのも私じゃなくてケイラだと思うんだけどな…いいのか

ケイラに言われたから
きっと付いてきてくれてるんだろうけど、頼まれてからほぼずっと休み時間とか休日を私に時間を使わせてしまってる。流石に申し訳なくなるのだ

「⋯今日もついてきてもらって良かったんですか?」
私の言葉にコクリと頷いている

「⋯いつも合わせてもらってばかりですし。今度はラルフさんの行きたいところに行きませんか?ラルフさんは…どこに行きたいですか?」

「どこでもいい」

「⋯どこでも…?」
私の言葉にまたコクリと頷いている

そんな晩御飯何食べたい?の質問に
なんでもいいよーみたいに言われてもなぁ

彼がよくいるところ…雨の間か?
あそこ好きなのかな?
「じゃあ明日は雨の間に行きましょうか」
いつの間にか現れてるからそこしか思いつかなかった…

「分かった」
素直に了承しているが本当にこれでいいのか

そもそも私を連れて行けるところなんて限られてるから完全にお荷物だよな
なんか申し訳ない…
気のせいか最近女子の視線が刺さるんだよな

やっぱりこれは断るべきだったかな
今約束したばかりだからその時言うことにしよう


しばらくぼーっとしていれば
ミラがこちらに向かって走ってきている
「姉様みて!」

満面の笑みを浮かべて後ろに何かを隠している
「どうし⋯え?」

はいっと渡されたものは血のついたケータイ
前世で私が使っていたものだ傷だらけで画面が割れている
ドックンと心臓が早鐘を打つ

「これ⋯どうしたの?」

ニコニコとした笑顔のままのミラは口を開く
「教えてほしいんだ」

目の前にいるのはミラだというのに声は男性だった
ゾッとしてすぐ離れようと立ち上がれば
ガシっと手を掴まれた痛いくらい握りこまれている

嫌だ 怖い こわいこわい

「やだ!!」
自分の声でハッと目が覚めた

「大丈夫か?起こせばよかったな」
隣からラルフの声がする

「あ、れ…?夢?」
あれは夢だったらしい
走ってもないのに息が上がる

リアルな夢だった
いつから寝こけていたんだ
怖すぎて震えが止まらない

ラルフに背中を擦られてちょっと落ち着いてきた

「姉様?」「大丈夫?」
いつの間にか日陰に来ていたミラとリリィが心配して駆け寄ってきた

「ちょっと…怖い夢見ちゃって、あはは」

「もー驚かさないでよ」

「ごめん。それにしても、いつから寝てたんだろ…全然気が付かなかった」

「姉様少し前からマディソン先輩の肩で寝てたよ」

「!?」
バッとラルフを見れば首を傾げている

「⋯ごめんなさい」
なにやってくれてんの私!

「気にしなくていい。それより顔色が悪いが…本当に大丈夫なのか?」
そう言ってそっと顔に手が触れまじまじと顔を見られている
いつもとは違い心配そうな顔がはっきりとわかるほど表情に出ている

顔が近い⋯
今世でも前世でも彼氏なんぞいなかった私にはなんだか刺激が強い

「⋯大丈夫です」

「良かった」
手を離し安心したように微笑むラルフ
今まで一番自然な笑顔だ
なんでそんな顔するんだ
いろんな意味で心臓に悪い

「今日はもう帰りますね」
平常心が保てるうちに

「⋯送る」
ほぼ毎日こういう彼の優しさに甘えてしまっていたからか、最近異性として意識し始めてしまっている自分がいた

「今日は平気です」

「⋯そうか」
残念そうな顔しないでほしい
勘違いしてしまいそうだ

「疲れたし私も帰るわー ミラはどうする?」
リリィが立ち上がる

「私はリオ君が起きるまで待ってるー!姉様は先に帰ってて顔色悪いし」

「わかったわ。さぁ行きましょ」
リリィの声掛けで寮へ向かう




女子寮が見えて来た頃

「ニーナさん。ちょっといいかしら?」

後ろから声をかけられた
二人して振り向けば
5人程の女生徒、先頭に立つのはケイラの取り巻きの一人だ
確か名前はクロエ・フローレンス
ツヤツヤの手入れされた黒髪に藍色の瞳だ
私に何のようなのか
挨拶程度しか言葉を交したことはない

「⋯なに?友達?」
ボソリとリリィが小声で話しかけてくる
僅かに首を振れば
リリィは察したようだ、眉間にシワが寄っている

「何でしょう?」

「貴女に少しお話があるのだけれど。ここじゃ目立つし、付いてきて頂ける?」

ケイラのときとは違い人数も多ければ威圧感も違うものがある

確実に厄介事だろう。一緒にいるリリィまで巻き込むなんてことはしたくない
せめてリリィだけでも逃さなければと考えていれば

「ここじゃ だめなんですかぁ?」
クロエに食って掛かるリリィ

「リ、リリィ。私は大丈夫だか…」
言い終わる前に『あんたは黙ってなさい!』と言わんばかりにリリィに睨みつけられた

どうして⋯

先頭に立つ伯爵令嬢もジロリとリリィを睨んでいるというのに怯むどころか睨み返している
バチバチと火花が散ってそうな勢いだ

「はぁ⋯ニーナさんだけに用があるの。貴女もお友達との交流にお忙しいでしょ?」
先に折れて話し出すのはクロエだ
遠回しにどこかへ行けと言っている

「お生憎様ですぅ!珍しく今日は暇なんですよねぇ!」
意地でもついていこうとするリリィ
疲れてたんじゃないのか

1歩も譲らない味方に「こんなやつが友達なの?」と信じられないものを見るような目線を送ってくるクロエ

しばらく言い争ったのち
「⋯ふんっ好きにすればいいわ!」とクロエが折れて私とリリィ2人で5人と対峙している
寒いので植物園の休憩所にきていた

広いのもあるが、もっと温かい木漏れ日の間に皆行っているので、あまり人気はない

「それで、話とは?」

「貴女、最近調子に乗り過ぎじゃないの?」
クロエが口を開けば
後ろで控える女子達がそうよそうよと同調している

「なっ──」
「リリィ」
すかさず反論するところを私に止められ眉間にシワを寄せ口を閉じるリリィ

「どういうことでしょうか?」
最近ケイラともラルフともよく過ごしているしな…。そのことについてだろうか。ケイラは彼女たちと過ごす時間を減らして私といることが増えたし

「ケイラ様とラルフ様にあまり付き纏わないでと言っているの!たかだか男爵令嬢でしょ?」

失礼な、付き纏ってなどいない

「付き纏っている覚えはありませんが…おっしゃりたいことはそれだけでよろしいですか?」

「⋯まだよ。ラルフ様が最近貴女に付きっきりらしいじゃない。ラルフ様がどうして貴女みたいな…華やかさも無い、あなたの妹のように可愛げもない、雑草みたいな女の側にいるか知らないけど…。ご迷惑だって自覚なさってないからこうして言いに来てあげたの」

そう言いながらバカにするように全身を上から下まで見られる
嫌な視線がまとわりついてくるが相手が悪いので言い返せない
周りの令嬢もクスクスと笑っている

「ラルフ様が休み時間をどうお過ごしになるかはご本人が決めることです。フローレンス嬢には関係の無い話かと思われますが」

「なっ!」
カッと顔が赤くなり怒りに震えるクロエ
攻撃材料がこれしかないのだ

「⋯貴女は知らないでしょうけど、ラルフ様はケイラ様のことがお好きなのよ!貴女の側に居るのだってケイラ様が頼んだからよ!」

「えっ」
それは知らなかった。流石に動揺するこれが本当の話だったら三角関係どころか泥沼四角関係じゃないか⋯
私の淡い恋心よりもケイラのことが心配になってくるというものだ

「私の話は終わったわ。引き止めてごめんなさいね」
全く申し訳なさそうな謝罪を述べた途端、ぞろぞろと引き連れ帰っていくクロエ達

私とのすれ違いざま
「⋯なんて可哀想な人」
ボソリと言葉を残し行ってしまった



「んもおおおおお!!!何よ!!!あいつら言いたいことだけ言って消えるとかっ!!本当に最っっっっ低!!ちょっと爵位が高いからって鼻にかけてさぁ!どんだけ人のこと馬鹿にすれば⋯⋯ニーナ!!」
衝撃的な話に呆然と立ち尽くしていると彼女たちの影が消えたところで
我慢の限界だとばかりに怒りを爆発させているリリィ
今まで見たことないくらいの形相だ

「はいっ」

「あんたも もっと言い返しなさないよ!!!」

「すみません…」

「聞いた!?雑草って言われてんのよ!?ただでさえ友達少ないくせにこれ以上何減らせって言うのよ!」

ケイラに睨まれていたのに今度は一緒に過ごし始めたので皆警戒して未だクラスの人と会っても距離を置かれている
友人にまで友達が少ないと言われると少し刺さるものがあるな

「まぁまぁ、落ち着いて」

「これが落ち着いてられる!?それにラルフ様、は⋯⋯」

私の方を見て固まるリリィどうしたのかと声をかけようとすれば

「⋯? 俺が、どうかしたのか?」

「!?」
振り向いたら本人が後ろにいた

「い、いつからここに?」

「⋯暇だから来てみたら…その、すごい声がして…」

気不味げなラルフの言葉に自分の声で来てしまったと察したリリィ
周りを見れば少しだけ人が増えていて

私達は注目を浴びていた
一気に顔を赤らめて「私帰る!」と言い捨て走り出してしまった

これは恥ずかしい

結果的に二人にされてしまったが気まずい

「⋯俺が何だったんだ」

「⋯それより、なんの花が見たかったんですか?」

「⋯睡蓮」
睡蓮好きなのか
新しい発見だ
リリィには明日会えたら助けてくれたお礼を言おう
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