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伊永の苦悩

撮影

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 この後はドラマの撮影に移動するスケジュールになっている。今日のシーンちょっと心配やねんなあ。
 だって、大っきいねって言われるやん?それ、実際、先生に言われてる訳やん?重ねるとか言われても、その雰囲気とか色々思い出すやん?冷静で居れる気せえへんもん。
 でも、先生じゃないことくらいは分かるから。上手く表情を乗せれる気もせんくて。不安しかないし、いつも自信なんて無い。こんなんじゃ、先生の作品になんて出られへん。せやから、負けられへん。
「伊永くん、そろそろ出番です」
「はい、すぐ行きます」
 気合を入れ、スタジオに入って、呼吸を整える。
「じゃあ、早速行こうか」
監督の言葉で、スタッフ、演者、全員の空気が変わる。
 合図がかかって、すぐにシーンがスタートする。
「ねえ、もう、我慢できない」
女優さんに、震える声で懇願されながら抱きつかれる。これ、先生やったら、俺、多分止まれんやろな。
「だめだよ、俺たちは」
先生に、そう言うと思うと、勝手に泣きそうになった。
 女優さんが、俺から少し離れて、上目遣いでこちらを見上げる。
「何で?世間の目なんて気にすること?」
「そんなの、当たり前だろ?」
こんなこと、俺に言う資格ないのに。
 女優さんの手が、俺の足を這う。これ、まじで先生やったら、やばかったかも。
「だって、こんなに大っきくしてるのに」
「どこで覚えたんだよ、そんなセリフ」
その言葉に、感情が乗ったのが分かる。
「早く、一つになろ?」
「あんま、煽んなよ」
シャツのボタンを一つ、二つと外されていく。こういう時、どういう表情をするのが正解なのだろうか。
 例えば、今、先生にそう言われて、シャツのボタンを外されているとする。そしたら、俺は、どんな顔をする?
 先生が、必死に、俺とそういうことを営むために、何かに急かされるように、俺のボタンを外すとしたら、俺は、きっと、その先生を愛おしく思うし、早くめちゃくちゃにしたいと思う。
 そう、これは、蘇雨先生。熱が視線を通して透過して行く。それが分かるから、多分俺は、蘇雨先生を前にしたら、好意が透けてあからさまなんだろうな。
「ねえ、止めないの?このまま、しちゃうよ?」
「うん、するんじゃないの?」
そう言って、煽るように手を取る。
「いつも、余裕だよね、余裕がないのは私だけ」
「ん?そう思ってるの?」
そして、彼女を抱きしめる。
「聞こえる?俺の心臓の音」
「聞こえるよ」
カットがかかる。
「今日も調子良いね、伊永くん」
「ほんまですか、嬉しいです」
と、監督に返した。

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