追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第16話

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 陽の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の空気をゆっくりと暖めていた。
 ライトはゆっくりと目を覚まし、天井をぼんやりと眺めた。

(よく眠れたな……)

 昨日の疲れはほとんど残っておらず、身体が軽かった。
 目をこすりながら起き上がり、深く伸びをする。
 背中の筋肉が心地よく伸び、その感覚に自然と息が漏れた。

 窓を開けると、朝のひんやりした空気が頬を撫で、鳥のさえずりが耳に届いた。
 街はもう動き始めており、遠くから市場の喧騒がかすかに聞こえる。

(今日も……ちゃんとやろう)

 そんな言葉が自然に胸に浮かぶ。
 一日前の自分とは確かに違う。
 少しずつ積み重ねているという実感が、ライトの心をしっかりと支えていた。

 身支度を済ませ、ライトは宿の食堂へ向かった。
 扉を開けた瞬間、ミィナがぱっと顔を上げ、笑顔を見せた。

「ライトさん、おはようございます!」

「おはようございます、ミィナさん」

「ちょうど朝食ができたところです。席にどうぞ!」

 ミィナが持ってきてくれたのは、温かいスープと焼き上がったばかりのパン。
 湯気の立つ料理に、胃が優しく刺激される。

「昨日の依頼、お疲れさまでした。ガルドさんたち、すごく褒めてましたよ」

「えっ……そうなんですか?」

「はい。ライトさんは慎重で、報告も丁寧だって。それに……ちゃんと帰ってきてくれたのが一番嬉しいです」

 ミィナがそう言うと、胸の奥がじんわりと温かくなった。
 誰かが自分の無事を願ってくれていることが、こんなにも心を満たすとは思わなかった。

「今日は、どんな依頼に挑むんですか?」

「まだ決めていませんが……昨日より、少しだけ難しいものに挑んでみようかと思います」

「その気持ち……すごく素敵だと思います。ライトさんならきっと大丈夫です」

 ミィナの言葉は、静かにライトの背中を押してくれた。

 朝食を終え、ギルドへ向かう。
 街の空気は活気に満ちていて、朝日が石畳を明るく照らしている。

 ギルドの扉を押し開けると、いつもの喧騒が耳に広がった。
 冒険者たちの声、武器の金属音、依頼書をめくる音。

「おっ、ライト!」

 ガルドが大きく手を振って呼んだ。
 セインも隣で軽く手を挙げる。

「昨日のスライム討伐、聞いたぞ。二体も倒して巣まで見つけたんだって?」

「報告書、すごく丁寧だったよ。さすがライトだな」

「いえ……そんなにすごいことじゃ」

「すげえことだっての。新人が一人で巣の場所まで特定するなんて滅多にないぞ」

 ガルドの言葉は力強く、セインの声は穏やかで温和だった。
 その両方がライトの胸を静かに温める。

(俺……褒められてるんだ)

 不思議と心が軽くなる。

「今日はどれに挑むんだ?」
 ガルドが依頼板を指さしながら尋ねてくる。

「まだ……これから見ます」

「なら、一緒に選ぼう。ライトなら、このあたりがちょうどいいかもな」

 ガルドは初心者向けより少しだけ難度が高い依頼をいくつか示した。

「このあたりはどうだ?
 ・小型魔獣の討伐
 ・薬草採取の護衛
 ・廃小屋の調査依頼」

「……廃小屋の調査?」

「ああ。ちょっと前から気配があるらしくてな。魔物が住み着いたか、誰かが勝手に使ってるかもしれないって話だ」

「危険はどのくらいですか?」

「低いほうだな。せいぜい小型魔物がいるくらいだと思う」

「ライトならいけるよ」

 ライトはしばらく考えた。
 少し不安もあるが、挑戦したい気持ちが胸の奥でふつふつと湧いている。

(昨日より……少しだけ難しい依頼。それなら)

「……廃小屋の調査、受けてみます」

 ガルドが嬉しそうに笑った。

「よし! そうこなくちゃな!」

 セインも微笑む。

「ライトは慎重だから、きっと大丈夫だよ。危ないと感じたらすぐ戻るんだよ?」

「はい」

 ライトが依頼書を持って受付へ行くと、ミィナはぱっと目を輝かせた。

「廃小屋の調査ですか……気をつけてくださいね」

「はい。何か注意点はありますか?」

「廃小屋周辺には獣の痕跡があるって報告があって……もしかしたら、魔獣が住みついているかもしれません」

「気を引き締めて行きます」

「ライトさんならできます。……無事に帰ってきてくださいね」

 ミィナの声は真剣で、心の奥にすっと染み込んだ。

(心配してくれる人がいるって……こんなに心強いんだな)

 ギルドを出て、街外れへ向かう。
 昨日と違い、今日は少し風が強く、木の葉がざわざわと揺れていた。

 ライトは剣の柄を握り直し、気持ちを整える。

(廃小屋の調査……何があるか分からない。でも、やるしかない)

 足を進めながら、ライトは昨日の戦いの感触を思い返す。

 スライムの跳躍。
 毒液。
 戦いの緊張。

(記録した攻撃パターン……まだ完全ではないけど、役に立つはず)

 視界の端で小さく光った《記録適応》の補正が、ほんのわずかでも自分を助けてくれる気がしていた。

 森の道を外れ、獣道のような細い道をたどっていくと、目的の廃小屋が見えてきた。

 木造の屋根は沈み、壁は半分崩れかけていて、少しでも風が強ければ倒れてしまいそうだった。
 しかしその周囲には、確かに何かが歩いたような痕跡が残っていた。

(これは……)

 足跡はバラバラで、人間のものではない。
 大きさからして小型の魔獣か、野生の獣の類かもしれない。

 ライトは剣にそっと手を添える。

(慎重にいこう)

 小屋へと近づき、耳を澄ませる。
 中からは何も聞こえない。

 ライトはゆっくりと扉に手を伸ばし、きしむ音を立てながら開けた。

 薄暗い室内。
 床には古びた道具や木片が散乱している。
 埃の匂いが鼻をつき、足元の板がわずかにたわむ。

(気配は……?)

 目を細めて奥を見ようとしたそのとき。

 小さな影が、ライトの目の前を横切った。

「……!」

 反射的に身体が動き、剣を構える。

 影は床を走り、窓の割れた隙間から外へ跳ねていった。

(魔獣……?)

 一瞬の姿では判別できなかったが、素早さからしてただの野生の動物ではない。

(追うべきか……でも、無闇に追って罠にかかるのは危険だ)

 ライトはすぐに判断し、小屋の中を先に調べることにした。

 散乱した木片の間に、何かが落ちているのが目に入る。
 ライトはしゃがみ込み、それを拾い上げた。

「……毛?」

 短くて固い黒い毛だった。
 筋の入り方から、魔獣の毛だと分かる。

(何かが住みついていたのは間違いない)

 依頼の内容としては十分な情報だ。
 魔獣の種類までは判別できないが、痕跡があるだけでもギルドにとって重要な手がかりになる。

(……戻ろう)

 その瞬間だった。

 屋根の上から、かすかな気配が落ちてきた。

「……!」

 ライトが反射的に身をひねった直後、屋根の隙間から灰色の影が飛び降りてきた。
 獣のような赤い瞳が鋭く光り、牙をむき出しにしている。

(魔獣……!)

 影は小型の狼のような姿をしていた。
 だが普通の狼よりも筋肉質で、動きが鋭い。
 魔物の気配をまとっている。

 狼型魔獣は低く唸り、ライトの足元へ飛びかかった。

 ライトは剣を横に振り払う。
 刃が魔獣の肩をかすめ、獣が痛みに短く吠えた。

 その瞬間、視界の端で光が揺れる。

《攻撃を記録しました:魔獣(灰狼種)》

(動きが……見える)

 魔獣は攻撃を受けたことで慎重になり、小さく周囲を回りながら隙をうかがっている。
 ライトは呼吸を整え、相手の足運びを記録した感覚を使って読み取る。

(次は右から……)

 魔獣が飛び込んでくる瞬間、ライトは剣を振り上げ、斜めに切り下ろした。
 魔獣は避けようと身をずらすが、記録した軌道によってライトは動きを読み切っている。

 刃が魔獣の胴に深く入った。

 魔獣は短い声を上げ、そのまま床に崩れ落ちた。

「……ふぅ……」

 胸の鼓動がまだ早い。
 手のひらに汗がにじみ、剣を握る力がわずかに緩んだ。

(危なかった……でも)

 ライトは倒れた魔獣を見下ろし、小さく息をついた。

(ちゃんと、勝てた)

 昨日と今日で、確かな前進を感じていた。

 小屋の外に出ると、風が強く吹き抜けた。
 汗ばんだ首筋に冷たい風が当たり、心地よい感覚が広がる。

(報告しよう)

 ライトはギルドへと向けて歩き始めた。
 足取りは揺らがず、胸の奥には静かな確信が灯っていた。
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