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第91話
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檻の前に立つと、男も女も、誰もすぐには口を開かなかった。
助けに来た、という言葉を信じきれない目だ。疑いと疲労が混じり、期待する余裕すら失っている。
ライトは膝をつき、視線を合わせる位置まで下がった。
「動けるか」
最初に反応したのは、若い男だった。
喉が鳴る音がして、ゆっくりと頷く。
「……足は、動きます」
「ならいい」
鍵はかかっていない。
だが、開けてもすぐに立てる状態じゃないのは分かる。
フィーナが隣に立ち、地面に手を当てる。
草が柔らかく伸び、檻の中に敷かれていく。
「急がなくていい。今は、ここで休める」
それだけ言って、力を流した。
回復魔法じゃない。だが、体を支えるには十分だ。
アリアが周囲を確認する。
「追手は?」
「来ない」
ライトは即答した。
「引き際を決めてる。ここは捨てる場所だ」
リオナが眉をひそめる。
「じゃあ、別の場所がある」
「複数だ」
男の言葉が頭をよぎる。
選別場。途中。使う。
「……聞くことは多そうだな」
捕えた重装の男は、壁に背を預けたまま動かない。
意識はある。だが、歯を食いしばり、視線を逸らしている。
アリアが近づき、しゃがみ込む。
「喋る気は?」
返事はない。
ライトは一歩、前に出た。
「無理に聞かない」
アリアがこちらを見る。
「いいのか?」
「喋らない理由がある。今はそれでいい」
欲しいのは答えじゃない。
流れだ。
「ここで人を集めて、壊れるかどうかを見る」
ライトは男を見下ろす。
「壊れなかった人間は、どこへ行く」
男の喉が動いた。
沈黙が数秒続き、ようやく声が落ちる。
「……山の向こうだ」
それだけだった。
「道は?」
「……一本しかない」
それ以上は喋らない。
だが、十分だ。
ライトは立ち上がり、仲間を見る。
「檻の人を連れて戻る。ここは燃やす」
リオナが頷く。
「証拠は?」
「要らない。連中は移る」
フィーナが静かに言った。
「人が残らなければ、意味がない場所」
「そうだ」
ミリュウが肩で鳴く。
「ミリュ」
「分かってる」
ライトは檻の人たちに視線を戻す。
「街へ戻る。歩けない者は支える。急がない」
誰かが、震える声で言った。
「……本当に、助かるんですか」
ライトは答えなかった。
代わりに背を向け、出口へ歩き出す。
アリアが檻の扉を開け、リオナが火を起こす準備を始める。
フィーナは最後まで、残る気配を確かめていた。
採掘道を出ると、外は夜明け前だった。
空が薄く明るみ始め、冷たい風が頬を打つ。
ライトは一度だけ、背後を見た。
もう、ここには戻らない。
次に行く場所は決まっている。
だが、それを言葉にする必要はなかった。
歩き出せば、自然と向かう。
それで十分だった。
助けに来た、という言葉を信じきれない目だ。疑いと疲労が混じり、期待する余裕すら失っている。
ライトは膝をつき、視線を合わせる位置まで下がった。
「動けるか」
最初に反応したのは、若い男だった。
喉が鳴る音がして、ゆっくりと頷く。
「……足は、動きます」
「ならいい」
鍵はかかっていない。
だが、開けてもすぐに立てる状態じゃないのは分かる。
フィーナが隣に立ち、地面に手を当てる。
草が柔らかく伸び、檻の中に敷かれていく。
「急がなくていい。今は、ここで休める」
それだけ言って、力を流した。
回復魔法じゃない。だが、体を支えるには十分だ。
アリアが周囲を確認する。
「追手は?」
「来ない」
ライトは即答した。
「引き際を決めてる。ここは捨てる場所だ」
リオナが眉をひそめる。
「じゃあ、別の場所がある」
「複数だ」
男の言葉が頭をよぎる。
選別場。途中。使う。
「……聞くことは多そうだな」
捕えた重装の男は、壁に背を預けたまま動かない。
意識はある。だが、歯を食いしばり、視線を逸らしている。
アリアが近づき、しゃがみ込む。
「喋る気は?」
返事はない。
ライトは一歩、前に出た。
「無理に聞かない」
アリアがこちらを見る。
「いいのか?」
「喋らない理由がある。今はそれでいい」
欲しいのは答えじゃない。
流れだ。
「ここで人を集めて、壊れるかどうかを見る」
ライトは男を見下ろす。
「壊れなかった人間は、どこへ行く」
男の喉が動いた。
沈黙が数秒続き、ようやく声が落ちる。
「……山の向こうだ」
それだけだった。
「道は?」
「……一本しかない」
それ以上は喋らない。
だが、十分だ。
ライトは立ち上がり、仲間を見る。
「檻の人を連れて戻る。ここは燃やす」
リオナが頷く。
「証拠は?」
「要らない。連中は移る」
フィーナが静かに言った。
「人が残らなければ、意味がない場所」
「そうだ」
ミリュウが肩で鳴く。
「ミリュ」
「分かってる」
ライトは檻の人たちに視線を戻す。
「街へ戻る。歩けない者は支える。急がない」
誰かが、震える声で言った。
「……本当に、助かるんですか」
ライトは答えなかった。
代わりに背を向け、出口へ歩き出す。
アリアが檻の扉を開け、リオナが火を起こす準備を始める。
フィーナは最後まで、残る気配を確かめていた。
採掘道を出ると、外は夜明け前だった。
空が薄く明るみ始め、冷たい風が頬を打つ。
ライトは一度だけ、背後を見た。
もう、ここには戻らない。
次に行く場所は決まっている。
だが、それを言葉にする必要はなかった。
歩き出せば、自然と向かう。
それで十分だった。
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