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四度目の別荘 XXⅦ

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 響子と別荘に戻り、一緒にシャワーを浴びた。
 すると戸が開かれ、六花と亜紀ちゃんが入って来る。

 「お前ら、俺たちが先に入ってるだろう!」
 「だってぇー、汗でビショビショなんですもん」
 亜紀ちゃんが平然と裸で言った。
 六花はニコニコして、俺の俺を見ている。
 「洗いましょうか」という目で見ている。

 「ちょっと待ってろ!」
 俺は響子を手早く洗い、自分も浴びてすぐに出た。

 「まったく、うちの連中は恥じらいってものがねぇよなぁ」
 「まったくね!」
 俺に拭かれている響子が言った。

 「あーはずかしぃー!」
 亜紀ちゃんの声が聞こえた。

 「石神せんせー、私自分で洗っちゃいますよー!」
 六花がバカなことを言っている。




 サッパリした俺たちは、リヴィングへ行き寛いだ。
 響子の様子を見るが、疲れは特にないようだ。
 一応、昼までゆっくりとすることにした。
 俺は鉛筆で、響子のスケッチをした。

 「タカトラ、上手いね」
 「動くな。そこでカワイイ顔をしろ!」
 響子が笑って頷いた。
 双子が戻って来た。

 「あ! タカさんが描いてる!」
 「見せてみせてー!」
 俺が見せてやると、二人とも驚いていた。

 「タカさん、すごいよ!」
 「どう見てるんですか?」
 俺のスケッチは写実ではない。
 荒い線が縦横に迸っている。
 輪郭から大分飛び出ている線も多い。

 「三次元で見ているんだよ。だから実際の輪郭から別な線も出る。二次元に押し込めるからだな」
 「「なるほどー!」」
 「ジャコメッティとかの素描を観れば、お前らなら分かると思うぞ?」
 「じゃあ、帰ってから見ますね!」
 柳と皇紀も寄って来て、褒めてくれる。
 シャワーを浴びた亜紀ちゃんと六花が入って来て、俺のデッサンを見た。

 「誰ですか?」
 六花が言った。

 「近所のネコ」
 「はあ」
 みんなで笑った。



 子どもたちが昼食の準備を始めた。
 今日はパスタだ。
 シンプルにナポリタンだ。 
 俺は響子のために今朝の残りのご飯でオムライスを作った。
 ササミ肉と野菜を細かく刻んだ。
 ケチャップでハートを描いてやる。

 「私も描いてください!」
 柳が言った。
 俺は柳のナポリタンにウンコの絵を描いてやる。

 「……」

 柳はかき混ぜて食べた。



 一休みして、俺は亜紀ちゃんと柳を連れて、買い物に出た。

 「柳、皇紀の話はどうだった?」
 隣の柳に聞いた。

 「すごかったですよ! 防衛システムってどういうものかと思ってたんですが、皇紀くんは本当にいろいろ考えてるんですね」
 「ああ。実際の軍事基地をベースにしてるからな。でも御堂の家を要塞にするわけにもいかないからなぁ。いろいろ考えてるだろう?」
 「はい。でも、レールガンとか荷電粒子砲だとか、聞いてもよく分かりませんでした」
 「その辺は双子の研究成果も入ってるからな。あいつら三人で、俺のアイデアをどんどん実現してしまうからなぁ」
 「たとえばレールガンってなんですか?」
 「リニアモーターカーってあるだろ? 電磁石で高速で移動する」
 「ああ、はい」
 「アレの銃器版だ。電磁気の力で弾丸を発射するというな。マッハ100くらいが当座の目標だ」
 「え?」
 「小石くらいの弾丸で戦車が粉塵になるな」
 「……」

 「あたしたちがいればいんですけどね。そうもいきませんから」
 後ろで亜紀ちゃんが言った。

 「はい?」

 「歩兵一個大隊、機甲師団、重爆撃機編隊、戦闘機隊、ミサイル攻撃、そうしたものを想定している」
 「へ?」
 「御堂は俺の大親友だからな! ご家族と共に絶対に守るぞ」
 「はい、よろしく?」

 「最近はUCAVも発展しているからなぁ。皇紀の部屋は兵器関連の資料と戦史、戦略の専門書が溢れているよな」
 「あの、一ついいですか?」
 柳が手を挙げた。

 「あんだよ」
 「うちって、どっかと戦争になるんですか?」
 「「そーだよ(です)!」」

 「エェッー!」

 「まあ、必ずそうなるってことじゃなくて、そういうレベルで防衛システムを組むということだ」
 「安心していいんですか?」
 俺と亜紀ちゃんは笑った。

 「まあ、俺に任せろ」
 「はい……?」


 
 スーパーに着くと、また店長が迎えに出てきた。

 「石神様!」
 「今日は最後の買い物に来ました。明日帰りますので」
 「はい! お嬢様から伺いましたものは、すべて揃えています。ただ、今朝ほどお電話でお話ししましたように、ウナギは何分さばく時間がありませんで」
 「構いませんよ、こちらで捌きますから。無理言って本当にすみませんでした」
 「いえいえ。こちらとしても、捌いて焼いたものを商品にしていくつもりで、数はまったく問題ありません。いつも大きなお買い物を感謝しております」

 店内に入ると、『ワルキューレの騎行』が鳴る。
 また亜紀ちゃんと笑った。

 「私たちが来ると、この音楽をかけてくれるんですよ!」
 亜紀ちゃんが柳に説明した。
 
 「へぇー!」
 店長がニコニコとしている。

 「特売の開始にも流すようにしました。そうしましたら、売れ行きが大分よくなりました。石神様のお陰です」
 俺は笑って、そうですかと答えた。
 ウナギはあとで生きたままで運んでくれるそうだ。
 他の食材を買い、店長へ預けた。

 「ではまたフードコートでお休みください」
 俺たちは礼を言い、フードコートでアイスコーヒーを飲んだ。
 座って話していると、店員がケーキを持って来てくれた。

 「店長からです。いつも遠慮なさってご注文されないとのことで」
 俺は笑って礼を言った。

 「VIPですね!」
 亜紀ちゃんが嬉しそうに笑う。

 「石神さんって、どこでも特別ですよねぇ」
 「俺じゃねぇ! 亜紀ちゃんたちがバケモノだからだ」
 「アハハハ!」
 「ウナギ80匹だぞ? 俺はうなぎ屋じゃねぇんだ。今日はこれから大変だよ」
 「みんなで手伝いますって!」
 「捌くのは全部俺じゃねぇか。焼くのもなぁ」
 「今日で覚えます」
 「あー、ちょっと後悔したなぁ」
 「アハハハ!」
 「すいません、何もできなくて」
 「柳はその笑顔が重要だからな。別にいいんだよ」
 「ありがとうございます」
 「まあ、響子と遊んでやってくれ。ああ、オセロとかやってくれよ。六花じゃ相手にならん」
 「分かりました」


 
 店長は早めにうなぎを届けてくれた。
 手間を配慮してのことだろう。
 非常にありがたい。
 双子がまずぬめり取りをしていく。
 熱湯の鍋にウナギをくぐらせ、氷水で冷やす。
 あとはとにかく表面の脂をとっていく。
 表面がザラついた加工のゴム手袋で作業する。

 俺はそれを受け取って捌きに入る。
 皇紀が用意した長いまな板に、うなぎの目を釘で打つ。
 薄刃のよく研いだ包丁で次々に背開きにしていく。
 亜紀ちゃんはそれを骨をめくり、内臓を落としていく。
 頭と骨はとっておく。
 
 皇紀はタレ作りだ。
 とにかく大量に作らせた。
 味見は俺だ。
 骨や頭も炙って次々に入れていく。
 作業の終わった双子はバーベキュー台の火を起こすと同時に、蒸しの準備だ。
 まあ、今日は蒸すのは半分ほどにする。
 時間がない。

 ちょっと一休みした。
 焼きに入ると、あとは一気呵成だからだ。
 亜紀ちゃんがお茶を煎れる。
 みんなミルクティーだ。
 響子が起きて来た。
 六花が連れてくる。
 一緒にお茶を飲んだ。

 「なんか、みんな大変そうだね?」
 響子がキッチンの状況を見て言った。

 「今日はウナギだからな。お前のために頑張るよ」
 「うれしい」
 響子がニコニコする。
 響子は柳とオセロを始めた。
 六花は響子の隣で見ている。

 「よし、作業再開だ」
 「「「「はい!」」」」
 亜紀ちゃんが串を打ち、俺が一度目の焼きに入る。
 一度に10匹を焼く。
 焼き終わったものを双子が蒸していく。
 一度に5匹だ。
 だから俺はあとの五匹をタレに漬けながら続けて焼いていく。
 関西風だ。
 蒸したものは関東風になる。
 8回繰り返す。
 蒸したものをさらに二度目の焼きで4回。

 疲れた。
 終わったのは夕方の5時だった。


 


 オセロは柳のボロ負けだった。
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