【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
35 / 276
第一部

35 エレナとツンデレ公爵令嬢と誓いのイヤリング

しおりを挟む
 今日も食堂は学生達が集まっていて賑やかだ。

 貴族の子女達が王宮の役人になった時に、給仕がいないと食事ができないのでお昼は一回屋敷に戻ります……なんて事になると、仕事にならないから、王立学園アカデミーには昼食用に食堂が用意されている。
 貴族としてのマナーに、役人としての心得と王立学園アカデミーで過ごす最初の一年は、お母様が言うように、確かに大したことは習わない。
 家庭教師を雇ってまで習うようなことは、今のところなにもない。
 気を失って目覚めた娘が、王立学園アカデミーに行けないなら家庭教師を雇ってと言い出したりしたら、お父様達も困って苦笑いするしかなかったのもよくわかる。

 最近はわたしに面と向かって意地悪をする方どころか、ひそひそと悪口を言う方もいらっしゃらない。
 だから、むやみに目立つお兄様達とお昼を過ごす時間は減らし、お友達になってくれたスピカさんと仲良くお昼ご飯を食べている。

 残念ながらクラスの他のご令嬢達からは距離をとられたままで、なかなか打ち解けられないけれど……
 それでもお友達がいるのは心強い。

「エレナ様にお話があるんだけれどよろしいかしら?」

 スピカさんと食堂でランチを終えて、たわいもないおしゃべりに興じていたら、コーデリア様に声をかけられる。

 周りの視線が一斉に集まるのを感じる。
 王太子殿下の元婚約者有力候補と現婚約者が対峙してるなんてみんな興味あるに決まってる。

「もちろん。かまいませんわ」

 わたしは優雅にニッコリと笑う。
 視線の端に、コーデリア様に対して緊張して怯えるスピカさんが目に入る。

「スピカさん。大丈夫よ。コーデリア様はとてもお優しい方だから、そんなに緊張する必要ないわ」
「はっはい!」
「座ってもよろしいかしら?」

 質問の返事は聞かずに当たり前のように空いている席に腰を下ろす。

「コーデリア様。こちらわたくしの友人のスピカさんです。スピカさん。こちらはシーワード公爵令嬢のコーデリア様です」

 コーデリア様とスピカさんにお互いを紹介する。

「はじめまして。スピカさん」
「はっ、はじめまして……」

 変な沈黙が訪れる。
 ここはわたしが話を切りださないといけないわよね?

「コーデリア様、話したいことというのは何のことでしょう」

 シーワード子爵の不正について子細をお伝えしてから数日経ち、刻一刻と王室主催のパーティーの日が近づいている。
 時間がないのに、未だにコーデリア様はシーワード子爵への糾弾について難色を示されている。
 一瞬そのお返事かと思ったけど、それであればわたしではなく、殿下にお話になるだろう。

 わざわざ、わたしに話したいって事はきっとダスティン様の事。
 予測してつい口元がニヤニヤしてしまいそうになって気を引き締める。

「これを見てくださらない?」

 そういうと、コーデリア様は制服のポケットから、大事そうにハンカチを取り出す。
 ハンカチを広げると青と透明の石がついたイヤリングが出てきた。

「わぁ。綺麗! これっていま街で流行ってるやつですよね!」

 さっきまでオドオドしていたスピカさんが歓声をあげる。

 そう。多分その街で流行っているイヤリング。
 石自体は高級品は使ってないのだけど、可愛いデザインとメッセージ性が受けている。

「あの。もしかしてダスティン様がこれを?」
「えぇ。街の流行り物を婚約者に贈るくらいの気を利かせることが出来ないのかと尋ねたら、これを贈ってきましたの」

 コーデリア様が苦々しく呟く。
 このイヤリングが流行った理由は、恋人に自分の瞳と髪色の石がついたイヤリングを、いつも貴女のそばにいると誓って送る。
 というロマンチックなメッセージ性がうけているから。
 王立学園アカデミーでも、婚約者や恋人に贈ってもらったと自慢げに話すご令嬢達がたくさんいる。

 黒髪に黒い瞳のダスティン様であれば黒い石のイヤリングをお贈りすべきはずが、青と透明の石が付いたイヤリングを送ってきたのでコーデリア様が憤慨している。

 そりゃ憤慨するよね。

 だって、この色の取り合わせって、殿下の瞳と髪の色にしか見えない……

 もしかして、ダスティン様ったら、こないだコーデリア様が殿下と婚約することになってもいいのかなんておっしゃっていたのを、真に受けていらっしゃるとか……

「こんなもの受け取れないわ。あの朴念仁にどういうつもりなのか確認して、突っ返していただけないかしら⁈」

 えっ。巻き込まれたくない。

 と咄嗟に思った。
 思ったけど、唇を噛み締めて涙目になりながら強がっているコーデリア様を見たら、胸がつまって助けてあげる事にした。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...