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第一部
34 エレナと悲劇の公爵令嬢
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コーデリア様は自領の醜聞を晒したくないし、シーワード子爵を牽制するためにダスティン様との婚約が進んでいるのに、子爵が失脚したら婚約が反故にされる可能性もある。
抱えるものが多いコーデリア様を説得するのは難しいだろう。
殿下の言うようにシーワード公爵を説得した方がよかったのかもしれない。
でも……
「その可能性があることは分かっています」
「あら。それなのに何故?」
「この選択がシーワード領にとってもこの国にとっても最善の選択だからです。わたしは殿下の婚約者でなくなっても構いません」
圧倒されない様にできる限り毅然と答え、少し逡巡されるご様子のコーデリア様の返答を待つ。
コーデリア様はエレナが殿下の事を大好きな事を知っているはず。
そんなエレナが婚約破棄されても構わないと思っているなんてきっと想定外の出来事に違いない。
「……もしかして、貴女もあの男と結婚したくないのね?」
「……え?」
「そうよね。すっかり忘れてましたけどわたくしよりも、貴女の方があの男のこと昔からご存知ですものね! あの男は我が国の王太子ですし、見目もまぁ麗しいでしょうが、国のためなんて大義名分振りかざして自分が上に立つ事ばかり考えている様な、あんな計算高い性悪男と結婚するなんて、反吐が出ますもの! わたくしだって、やっと婚約者候補から外れることができて、これからは心安らかに過ごせると思って安心していたのに……こんなことが起こるだなんて……」
一気に捲し立てたコーデリア様が、わたしの顔を見て青ざめる。
「えっと……あの……殿下が性悪っていうのはどういう事でしょうか……わたしは優しい殿下しか存じ上げないので……その……」
コーデリア様が、殿下のことを毛嫌いしてるだなんて考えてもいなかったわたしは、戸惑いが隠しきれない。
「……えっと……貴女はやっぱり、王太子殿下の事が、お好きなのね」
「……そうですね」
コーデリア様が気まずそうにこちらを見る。
「あの。わたくしったら、わたくしと王太子殿下の反りが合わないだけでしたのに、一方的に王太子殿下の悪口なんて言ってしまって……」
「あ。いえ、あの」
コーデリア様の殿下評は、ショックではあったけれど、落ち着いて考えれば理由はちょっとだけ分かる。
殿下は、他人とは立場という関係性で繋がっているだけで、そこにある関心や感情が希薄な感じがする。
エレナは婚約者という立場だけでなく、幼馴染の妹だから、可愛いがっていただいている。
だけれど、ただの婚約者だったらきっともっと無関心で、相手にされていないはず。
シーワード公爵は宰相として、貴族院を取りまとめていらした国の重鎮だもの。王室と貴族院の駆け引きの駒であるコーデリア様に対して、密やかにマウントをとる様な振る舞いしてたんだろうなってことも想像に難くない。
殿下とコーデリア様は、お兄様が前に言っていたように、お互いなんとも思ってらっしゃらなかったのかしら。
コーデリア様の様子を見ると、わたしを傷つけてしまったと思い悩んでいる様子がヒシヒシと伝わる。
「お気になさらず……」
「いいえ。気にしないわけには参りませんわ。誰だって自分の想い人の悪口なんて聞きたいわけありませんもの! ちゃんと謝らせて」
ソファから立ち上がってわたしの手をギュッと握るコーデリア様は、わたしが想像していたよりもずっと可愛らしい方だった。
「そうですよね。想い人の悪口を聞くのは辛いです。コーデリア様も、ダスティン様の悪口なんで聞きたくないって思いますよね?」
「当たり前だわ! ダスティンの悪口を他人から聞かされるなんて、想像しただけでもう胸が苦しって……えっ? なっ……何を……貴女はいったい何をおっしゃってますのーっ!」
真っ白な肌を耳まで真っ赤に染めてそう叫ぶコーデリア様の可愛らしさに、わたしは心の中でニヤニヤが止まらなかった。
抱えるものが多いコーデリア様を説得するのは難しいだろう。
殿下の言うようにシーワード公爵を説得した方がよかったのかもしれない。
でも……
「その可能性があることは分かっています」
「あら。それなのに何故?」
「この選択がシーワード領にとってもこの国にとっても最善の選択だからです。わたしは殿下の婚約者でなくなっても構いません」
圧倒されない様にできる限り毅然と答え、少し逡巡されるご様子のコーデリア様の返答を待つ。
コーデリア様はエレナが殿下の事を大好きな事を知っているはず。
そんなエレナが婚約破棄されても構わないと思っているなんてきっと想定外の出来事に違いない。
「……もしかして、貴女もあの男と結婚したくないのね?」
「……え?」
「そうよね。すっかり忘れてましたけどわたくしよりも、貴女の方があの男のこと昔からご存知ですものね! あの男は我が国の王太子ですし、見目もまぁ麗しいでしょうが、国のためなんて大義名分振りかざして自分が上に立つ事ばかり考えている様な、あんな計算高い性悪男と結婚するなんて、反吐が出ますもの! わたくしだって、やっと婚約者候補から外れることができて、これからは心安らかに過ごせると思って安心していたのに……こんなことが起こるだなんて……」
一気に捲し立てたコーデリア様が、わたしの顔を見て青ざめる。
「えっと……あの……殿下が性悪っていうのはどういう事でしょうか……わたしは優しい殿下しか存じ上げないので……その……」
コーデリア様が、殿下のことを毛嫌いしてるだなんて考えてもいなかったわたしは、戸惑いが隠しきれない。
「……えっと……貴女はやっぱり、王太子殿下の事が、お好きなのね」
「……そうですね」
コーデリア様が気まずそうにこちらを見る。
「あの。わたくしったら、わたくしと王太子殿下の反りが合わないだけでしたのに、一方的に王太子殿下の悪口なんて言ってしまって……」
「あ。いえ、あの」
コーデリア様の殿下評は、ショックではあったけれど、落ち着いて考えれば理由はちょっとだけ分かる。
殿下は、他人とは立場という関係性で繋がっているだけで、そこにある関心や感情が希薄な感じがする。
エレナは婚約者という立場だけでなく、幼馴染の妹だから、可愛いがっていただいている。
だけれど、ただの婚約者だったらきっともっと無関心で、相手にされていないはず。
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「お気になさらず……」
「いいえ。気にしないわけには参りませんわ。誰だって自分の想い人の悪口なんて聞きたいわけありませんもの! ちゃんと謝らせて」
ソファから立ち上がってわたしの手をギュッと握るコーデリア様は、わたしが想像していたよりもずっと可愛らしい方だった。
「そうですよね。想い人の悪口を聞くのは辛いです。コーデリア様も、ダスティン様の悪口なんで聞きたくないって思いますよね?」
「当たり前だわ! ダスティンの悪口を他人から聞かされるなんて、想像しただけでもう胸が苦しって……えっ? なっ……何を……貴女はいったい何をおっしゃってますのーっ!」
真っ白な肌を耳まで真っ赤に染めてそう叫ぶコーデリア様の可愛らしさに、わたしは心の中でニヤニヤが止まらなかった。
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