【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
59 / 276
第二部

9 エレナはメリーの着せ替え人形

しおりを挟む
 去年、殿下のお誕生日に開かれたお茶会に集まったたくさんの来賓の前で、オーウェン様に殿下との婚約をおままごと扱いされて以降、半年以上お茶会に参加せずにやり過ごしていた。

 社交の場が苦手だからといつまでも逃げ回るわけにはいかないのはわかってる。

 お兄様の言うように、知ってる人もいっぱいいて、お兄様も殿下もいらしてて、王女様の案内係っていうやるべき事が決まってるから手持ち無沙汰になりようがなくて、しかもオーウェン様がいらっしゃらない! なんてこんなお茶会の機会なかなかない。

 わかってるのよ。

 それでも気乗りしないわたしは、着々とメリーが準備をしているのを横目にため息をついた。

「エレナお嬢さま。今日は王都でも人気の服飾店のマダムがきますからね」

 メリーはエレナを着飾らせるのが嬉しくて仕方ないのか、服飾店のマダムが来るのを首を長くして待ちわびている。

 殿下が婚約発表の場で着るようにと贈ってくれた胸元の開くドレスは、夜の舞踏会に着るようなもので、今回エレナの参加するお茶会であれば露出の少ないデイ・ドレスを着る必要があるらしい。
 だけど、エレナがお茶会の参加を逃げ回ったツケで着ていく服がない。

 今回は日数もないから既製品のドレスをエレナの体型に合わせて調整する事になっている。
 エレナはロリ巨乳なので、身長に合わせたドレスだと胸がキツくなるし胸に合わせるとブカブカの服になってしまう。

 なんて贅沢な悩みなのかしら。

 エレナが着飾ることをわたしよりもメリーが楽しみにしてくれている。

「この国で一番可愛いエレナお嬢様ならどんなドレスもお似合いだとは思いますが、エレナ様だけのドレスじゃないのが残念で仕方ありません。つぎはデザインから相談して作りましょうね」

 メリーの清々しいまでの侍女バカっぷりは自己評価の低いエレナに少しだけ勇気をくれた。


***


「まぁまぁ! うちのドレスを未来の王太子妃殿下に着ていただけるなんて!」

 そう芝居がかったセリフを美女に言われて、私は苦手な愛想笑いを浮かべる。

 名ばかり侯爵家のご令嬢の急ぎのドレスの仕立て直しなんて、今までなら断っていただろう案件だ。
 エレナが「殿下の婚約者」だからわざわざマダムがお出ましになって、対応してくれているに違いない。
 マダムの他にも針子と思われる女性が忙しそうにドレスや装飾品をエレナの支度部屋に持ち込んでいる。
 いつシナリオが動き出して婚約者じゃなくなってしまうのかわからないので、すっごく後ろめたい。

 そんな事を思っていると、メリーと仕立て屋のマダムに手際よく着ていた服を脱がされて、ビスチェとドロワーズ姿にされていた。

「まぁあっ! なんてスタイルのよろしいことでしょう! 小柄でいらっしゃるから、こんなにスタイルがよろしいだなんて、存じ上げておりませんでしたわ!」
「さようでございましょう⁈」

 マダムがエレナを褒めるもんだからメリーが嬉しそうに、持ち込まれた試着用のドレスを広げ出す。

 メリー……チョロいわ。

 広げられたドレスはレースやフリルをたっぷり使ったかわいらしいデザインのもの、豪奢な刺繍が入ったきらびやかなデザインのもの、シンプルなドレスに見えてよく見ると柄を織り込んだ生地を使ったものなど素敵なものばかりだった。

 メリーは有無を言わせずどんどん着せては、鏡の前に立たせる。
 マダムと針子達が丈を確認したり身頃を確認しながら、まち針をうったりしつけをしたりと忙しそうにしている。

 何枚試着したんだろう? 十着は下らないと思う。

「ねぇ、メリー。こんなに一度に着たらどのドレスを買えばいいかわからないわ」
「全部買ってあるんですから選ぶ必要はありませんよ。エレナお嬢様は隣国のお姫様の案内係をされるんですからこれじゃあ足りないくらいです」

 わたしがこっそり耳打ちすると、メリーから咎められた。
 そうだ。名ばかり侯爵家だとは言ってもエレナは生粋のお嬢様だった。

「エレナお嬢様も、もう十六歳なんですから着飾ってメリーの事を楽しませてくださいませ」
「……わかったわ」

 わたしの言葉を聞いたメリーは、満面の笑顔で新しいドレスを手に取った。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...