108 / 276
第三部
7 エレナと殿下の三騎士の関係者たち
しおりを挟む
お茶会でたわいもない話をするのが苦手なエレナが、同年代のご令嬢達と昼食をとるなんてできないと思っていたけれど。
物おじしないメアリさんが話を振って盛り上げてくれる。
そして、同年代の恋バナを聞くのは楽しい。
ミンディさんがプロポーズをうけた時の話は映画みたいにドラマチックだった。
コーデリア様が殿下との婚約を辞退された後に開かれた、実質王太子妃候補を探すためのお茶会の場で、ブライアン様が世紀の大告白をして王室に囚われそうになったミンディさんを救ったんだとか。
ご機嫌でベリンダさんが兄であるブライアン様の英雄譚を語るので、まるで殿下が悪役みたいと笑ってしまった。
ベリンダさんとルーセント少尉の幼い頃の可愛らしい恋物語は共感しかない。
おチビちゃんなんていってたけれど、本当はルーセント少尉から「ミモザのお姫様」なんて呼ばれていたらしい。そんなこと言われたら恋に落ちるに決まってる。
わたしは小さな頃に殿下から「マーガレットの妖精」って呼ばれたのよと明かすと、みんなから黄色い悲鳴があがった。コーデリア様はドン引きしてたけど。
なんだかんだといいながら、そのコーデリア様はダスティン様と愛を育んでいて、わたしがアイラン様に振り回されている間に、パーシェル海を一望する岬で騎士の誓いを受けたらしい。
相変わらず「わたしと結婚したら騎士ではなく公爵にならなくてはいけませんのに」なんてツンツンしてるけど、悪い気はしてないのが手に取るようにわかる。
そういえば、せっかく海に行ったのにシーワード邸から海を眺めただけで、岬にも、港にも、砂浜にも行ってない。
今度機会があったら絶対に海で遊びたい。
「そういえば、メアリさんは? メアリさんのそういう話って聞かないわ。お慕いしてる方は? もうご婚約者様はいるの?」
ベリンダさんに追求されたメアリさんは困ったように頬をぽりぽりとかく。
「えっと、婚約者はいるにはいるんですけど、まだ非公式というか……」
「非公式?」
「相手は年下で、まだ十六歳になってないんです」
ヴァーデン王国では貴族の子女は十六歳になれば婚約できるようになり、婚約したあとは結婚に向けて準備を始める。
親同士が裏で約束していたりはもちろんあるし、暗黙の了解みたいなこともあるけれど、逆にいえば十六歳になるまで正式な婚約はできない。
だから、殿下とエレナの婚約だって、エレナが十六歳になったら正式に発表されるはずだった。
それをエレナが階段から転落したから大事をとってなんて言い訳で、殿下のお誕生日まで先延ばしされている。
かりそめの婚約者だから仕方ない。なんなら先延ばしできて胸を撫で下ろしてるに違いない。
「エレナ様と同じ講堂で講義を受けているのでご存ないですか? アイザック・ジェームスっていって、王都でもそこそこ有名な商家の息子なんです」
考え事をしているわたしに、メアリさんの説明が続く。
アイザック・ジェームス……
王都の商会……
「あら! 知ってるなんてもんじゃないわ! わたし前にお友達にジェームス商会を紹介していただいて、カフスボタンのオーダーをしたもの!」
「その節はご贔屓いただきありがとうございます」
メアリさんは微笑む。腹に一物ありそうな笑顔だ。
ご贔屓……はいいとして、作っていただいた後、お兄様が「エレナが殿下に贈ったカフスボタンを依頼したことを売り文句にするなら利益の半分寄越すように」なんて言い出していたらしい。
市井で人気のないエレナが殿下に贈ったなんて言ったからってみんな真似するわけがない。そんなの売り文句にしたらお笑いぐさだ。
もちろん、いまジェームス商会ではエレナのエの字も出さずに、カフスボタンのオーダーを受けている。
「カフスボタンの件はお兄様があれこれ口出ししたんでしょう? お兄様は兄妹だから贔屓目が酷くて、わたしが殿下への贈り物を依頼したのが箔につながるなんてお思いなのよ。その節はご迷惑おかけしましたわ」
「まあ、正直最初はエリオット様がそんなこと言ってるってジェームス家のご両親から聞いた時は何おっしゃってるのかと思ってましたけど、別に実害を被ったわけではないですから。それに──」
「それに?」
「いえ、エリオット様にお礼をお伝えください」
そういってメアリさんは腹に一物のありそうな笑顔でわたしを上から下まで見回した。
物おじしないメアリさんが話を振って盛り上げてくれる。
そして、同年代の恋バナを聞くのは楽しい。
ミンディさんがプロポーズをうけた時の話は映画みたいにドラマチックだった。
コーデリア様が殿下との婚約を辞退された後に開かれた、実質王太子妃候補を探すためのお茶会の場で、ブライアン様が世紀の大告白をして王室に囚われそうになったミンディさんを救ったんだとか。
ご機嫌でベリンダさんが兄であるブライアン様の英雄譚を語るので、まるで殿下が悪役みたいと笑ってしまった。
ベリンダさんとルーセント少尉の幼い頃の可愛らしい恋物語は共感しかない。
おチビちゃんなんていってたけれど、本当はルーセント少尉から「ミモザのお姫様」なんて呼ばれていたらしい。そんなこと言われたら恋に落ちるに決まってる。
わたしは小さな頃に殿下から「マーガレットの妖精」って呼ばれたのよと明かすと、みんなから黄色い悲鳴があがった。コーデリア様はドン引きしてたけど。
なんだかんだといいながら、そのコーデリア様はダスティン様と愛を育んでいて、わたしがアイラン様に振り回されている間に、パーシェル海を一望する岬で騎士の誓いを受けたらしい。
相変わらず「わたしと結婚したら騎士ではなく公爵にならなくてはいけませんのに」なんてツンツンしてるけど、悪い気はしてないのが手に取るようにわかる。
そういえば、せっかく海に行ったのにシーワード邸から海を眺めただけで、岬にも、港にも、砂浜にも行ってない。
今度機会があったら絶対に海で遊びたい。
「そういえば、メアリさんは? メアリさんのそういう話って聞かないわ。お慕いしてる方は? もうご婚約者様はいるの?」
ベリンダさんに追求されたメアリさんは困ったように頬をぽりぽりとかく。
「えっと、婚約者はいるにはいるんですけど、まだ非公式というか……」
「非公式?」
「相手は年下で、まだ十六歳になってないんです」
ヴァーデン王国では貴族の子女は十六歳になれば婚約できるようになり、婚約したあとは結婚に向けて準備を始める。
親同士が裏で約束していたりはもちろんあるし、暗黙の了解みたいなこともあるけれど、逆にいえば十六歳になるまで正式な婚約はできない。
だから、殿下とエレナの婚約だって、エレナが十六歳になったら正式に発表されるはずだった。
それをエレナが階段から転落したから大事をとってなんて言い訳で、殿下のお誕生日まで先延ばしされている。
かりそめの婚約者だから仕方ない。なんなら先延ばしできて胸を撫で下ろしてるに違いない。
「エレナ様と同じ講堂で講義を受けているのでご存ないですか? アイザック・ジェームスっていって、王都でもそこそこ有名な商家の息子なんです」
考え事をしているわたしに、メアリさんの説明が続く。
アイザック・ジェームス……
王都の商会……
「あら! 知ってるなんてもんじゃないわ! わたし前にお友達にジェームス商会を紹介していただいて、カフスボタンのオーダーをしたもの!」
「その節はご贔屓いただきありがとうございます」
メアリさんは微笑む。腹に一物ありそうな笑顔だ。
ご贔屓……はいいとして、作っていただいた後、お兄様が「エレナが殿下に贈ったカフスボタンを依頼したことを売り文句にするなら利益の半分寄越すように」なんて言い出していたらしい。
市井で人気のないエレナが殿下に贈ったなんて言ったからってみんな真似するわけがない。そんなの売り文句にしたらお笑いぐさだ。
もちろん、いまジェームス商会ではエレナのエの字も出さずに、カフスボタンのオーダーを受けている。
「カフスボタンの件はお兄様があれこれ口出ししたんでしょう? お兄様は兄妹だから贔屓目が酷くて、わたしが殿下への贈り物を依頼したのが箔につながるなんてお思いなのよ。その節はご迷惑おかけしましたわ」
「まあ、正直最初はエリオット様がそんなこと言ってるってジェームス家のご両親から聞いた時は何おっしゃってるのかと思ってましたけど、別に実害を被ったわけではないですから。それに──」
「それに?」
「いえ、エリオット様にお礼をお伝えください」
そういってメアリさんは腹に一物のありそうな笑顔でわたしを上から下まで見回した。
6
あなたにおすすめの小説
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。
みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。
ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。
失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。
ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。
こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。
二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる