【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

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第三部

8 エレナと噂の騎士様

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 楽しかった昼休みはあっという間に終わりを告げ、明日の昼に稽古の見学へ行く約束をして別れる。

 それにしても、今日一緒にお食事をしたみなさん、すごく話しやすかった。

 今後もみんな仲良くしてくれるかな?

 でも、今日お会いしたみなさんは殿下の護衛候補の家族や婚約者だ。
 エレナが殿下から婚約破棄されたら仲良くは無理かな……

 ううん。いまそんなこと考えたら駄目よ。
 せっかく仲良くなれそうなんだもの。

 コーデリア様達と別れたわたしは、一人で視線を浴びながら廊下を歩いた。

 午後の講義を受けるために講堂に戻ると、スピカさんが心配そうな顔をして席で待っていた。

「明日のお昼に、稽古の見学に伺ってもいいかしら?」

 わたしは席に座りスピカさんに尋ねる。

「わっ! 早速エレナ様が見にきてくださるんですか! あ……嬉しいんですけど、でも、本当に稽古してるだけだから、えっと……つまらないですよ」

 嬉しそうに跳ねたツインテールが、急にしょんぼりする。

「スピカさんが頑張ってる姿を見るのよ。つまらないわけなんてないわ。それに、わたしだけじゃなくて、コーデリア様や、殿下の護衛をよくしていただいているブライアン様やジェレミー様のご家族やご婚約者様もご一緒にお伺いしようと思うの」
「お一人じゃないんですね。なら大丈夫かなぁ」
「なにか不安なことがあるの?」

 スピカさんは辺りを見回し声を小さくした。

「いま、稽古の見学に来る女生徒達で、ちょっとした小競り合いが起きてるんです」
「あら、もしかしてルーセント少尉目当てで?」

 わたしも声をひそめる。

「ご存じなんですか?」
「今しがたお噂を聞いたばかりよ」
「そうなんですよ。ルーセント先生を狙うご令嬢達が、ご生家の権力を笠にきて我が物顔で振る舞われたりしていらして……エレナ様にも強く当たるんじゃないか心配です」
「大丈夫よ。明日はコーデリア様も見学にいらっしゃるもの。コーデリア様に強く出られる方なんて、この王立学園アカデミーには誰もいないわ」

 本当なら侯爵家のご令嬢で、一応は王太子殿下の婚約者のエレナだって、王立学園アカデミーの中ではトップクラスの権力者なはずなのに、残念ながらこれっぽっちも威厳はない。
 コーデリア様の威光に全力で乗っかることを宣言して、スピカさんに笑いかけた。



 ***



「エレナ、久しぶりの王立学園アカデミーは何も問題は起きなかった? いじめられたりしていない?」

 心配そうに、お兄様はわたしの顔を覗き込む。
 帰りの馬車もお兄様と一緒だ。

「安心してお兄様。なんの問題もないわ。お昼だってコーデリア様達にお誘いいただいて、楽しく過ごしたもの」
「よかった。お昼くらいはエレナと一緒にいてあげたかったんだけど、僕も久しぶりの王立学園アカデミーだったから、ご令嬢達に囲まれちゃって身動き取れなくてさ」
「……アイラン様にバレないようになさってね」

 やれやれ顔のお兄様をに冷ややかな視線を送る。

「やだなぁ、何を疑ってるの。僕はアイラン様を泣かせるようなことなんてしないよ。今日だってご令嬢達から、お別れのご挨拶を聞いてただけなんだから」
「そう。お兄様を取り囲んでいたご令嬢達はルーセント少尉狙いに切り替えたって伺いましたから、もう明日からお兄様が取り囲まれることはないんでしょうね」
「へえ。そうなんだ。まあ、殿下に流れたんじゃなきゃいいや」
「……殿下にご令嬢取られるのがお嫌なの?」
「お嫌っていうか、ご令嬢に囲まれてる殿下とか、見るに耐えないよ。それにほら、殿下を囲むご令嬢がいっぱいいたらエレナだって嫌でしょう?」
「それは、もちろんそうに決まってるわ」

 お兄様は頷くと、わたしの頭を撫でる。

「大丈夫。僕はアイラン様も、もちろんエレナも悲しませるようなことはしないから」

 妙に憂いを帯びた笑顔に、わたしは違和感を覚えた。
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