148 / 276
第三部
47 エレナの膝枕
しおりを挟む
「わたしだって殿下のおそばにいたいと思っているのよ」
「エレナ様も、ようやくわかってくださったのですね」
頭をあげたウェードは、感極まった様子で泣きそうになっていた。
「ウェード。期待しちゃダメだよ。エレナはちっともわかってないから」
お兄様はようやくアイラン様の膝の上から起き上がると、偉そうにそう言い放つ。
「お兄様ったら、なんてことおっしゃるの! ちゃんとわかってるわ!」
わたしが声を上げると殿下の頭がモゾモゾと動く。起こしちゃったかしら。
覗き込むと、まだ気持ちよさそうに眠っていた。
ゆっくりと頭を撫でる。
「まだ、王宮にイスファーン語の翻訳ができる役人が少ないのでしょう? わたしもお兄様と一緒に王宮に出仕して翻訳のお手伝いをするわ」
わたしの決意に、お兄様とウェードがため息をついた。
え? どうしよう。翻訳の手伝いくらいじゃ許されないの?
やっぱり、わたしが騒ぎを大きくしすぎたから?
でも、わたしが殿下のお役に立てることって、他に何かあるかしら。
わたしは殿下の仕事を増やすことしかしてなくて、殿下がどんな仕事をされてるか正直よくわからない。
書類にサインをするだけの仕事じゃないことくらいは、わかるんだけど。
「ほらね。エレナは全くもってわかってないでしょ? ウェードも諦めなよ」
「ひどいわ。お兄様は殿下のお近くで役人見習いとして翻訳のお仕事されて、そのまま王宮に出仕も続けられるんでしょ? わたしもご一緒すればお役に立てると思うわ。ほら、文書係もあの感じの悪い役人からハロルド様に変わったでしょ? ハロルド様はわたしと仲良くしてくれるって言ったから、翻訳だけじゃなくて書類を運ぶのだって手伝えるわ」
ウェードに向かってわたしのことを下げる発言をしたお兄様に、不満をぶつける。
社交が下手なエレナだって、多少は人付き合いができるんだ。
「ああ、もう。口が裂けても、殿下の前でデスティモナ次期伯爵と仲良くなったなんて言ったらダメだからね。とにかくエレナは何もしないのがいいと思うよ」
「ええ。そうです。何もなさらないでください」
肩をすくめたお兄様とガックリと肩を落とすウェードは、わたしの答えが納得いかない様子だ。
何もやらせられないほど暴走したつもりはないって言いたいところだけど、エレナの衝動的な行動は目に余る自覚はある。
かりそめの婚約者とはいえ、エレナの行動で殿下の株が下がるのはやめさせたいんだろう。
でも、少しでも役に立ちたい決意は変わらない。
「いいわ。直接殿下に直談判しますから」
「えっ?」
「ねえ、殿下、起きてください」
わたしは殿下の耳元でそっと囁く。
頭が再びモゾモゾと動く。
「んん……」
わたしの呼びかけにゆっくりと瞬きをする。
フサフサとした淡い金色のまつ毛から、湖のような深い青が覗く。
焦点のあっていない瞳は宙をさまよう。
「……殿下。おはようございます」
微睡から、あまり刺激を与えてはいけない。耳元でそっと囁くと、急に焦点が合う。
「……エ、レナ? エレナ! すっ、すまない! その……寝てしまうつもりはなかったんだ!」
膝枕で甘えてしまったことが恥ずかしくなってしまったのか、真っ赤な顔になった殿下は、わたしからパッと顔を逸らして身体を縮こめる。
「お疲れだったのだから、寝てしまって当然で、恥じることなんてないわ。それにごめんなさい。どうしても殿下にご相談があって起こしてしまって」
そう言って頭を撫でても、殿下の身体はどんどん強張っていく。
そりゃ、疲れてるってわかってるもの。もう少し寝かしてあげたかったけれど、でも、いまわたしが殿下のお役に立つために王宮に出仕できることが決まれば、負担が減って今後ここまでお疲れにならないはず。
「わたし、殿下のお役に立ちたいの。おそばにいてもいい?」
わたしの質問に、殿下は顔を上げた。
「エレナ様も、ようやくわかってくださったのですね」
頭をあげたウェードは、感極まった様子で泣きそうになっていた。
「ウェード。期待しちゃダメだよ。エレナはちっともわかってないから」
お兄様はようやくアイラン様の膝の上から起き上がると、偉そうにそう言い放つ。
「お兄様ったら、なんてことおっしゃるの! ちゃんとわかってるわ!」
わたしが声を上げると殿下の頭がモゾモゾと動く。起こしちゃったかしら。
覗き込むと、まだ気持ちよさそうに眠っていた。
ゆっくりと頭を撫でる。
「まだ、王宮にイスファーン語の翻訳ができる役人が少ないのでしょう? わたしもお兄様と一緒に王宮に出仕して翻訳のお手伝いをするわ」
わたしの決意に、お兄様とウェードがため息をついた。
え? どうしよう。翻訳の手伝いくらいじゃ許されないの?
やっぱり、わたしが騒ぎを大きくしすぎたから?
でも、わたしが殿下のお役に立てることって、他に何かあるかしら。
わたしは殿下の仕事を増やすことしかしてなくて、殿下がどんな仕事をされてるか正直よくわからない。
書類にサインをするだけの仕事じゃないことくらいは、わかるんだけど。
「ほらね。エレナは全くもってわかってないでしょ? ウェードも諦めなよ」
「ひどいわ。お兄様は殿下のお近くで役人見習いとして翻訳のお仕事されて、そのまま王宮に出仕も続けられるんでしょ? わたしもご一緒すればお役に立てると思うわ。ほら、文書係もあの感じの悪い役人からハロルド様に変わったでしょ? ハロルド様はわたしと仲良くしてくれるって言ったから、翻訳だけじゃなくて書類を運ぶのだって手伝えるわ」
ウェードに向かってわたしのことを下げる発言をしたお兄様に、不満をぶつける。
社交が下手なエレナだって、多少は人付き合いができるんだ。
「ああ、もう。口が裂けても、殿下の前でデスティモナ次期伯爵と仲良くなったなんて言ったらダメだからね。とにかくエレナは何もしないのがいいと思うよ」
「ええ。そうです。何もなさらないでください」
肩をすくめたお兄様とガックリと肩を落とすウェードは、わたしの答えが納得いかない様子だ。
何もやらせられないほど暴走したつもりはないって言いたいところだけど、エレナの衝動的な行動は目に余る自覚はある。
かりそめの婚約者とはいえ、エレナの行動で殿下の株が下がるのはやめさせたいんだろう。
でも、少しでも役に立ちたい決意は変わらない。
「いいわ。直接殿下に直談判しますから」
「えっ?」
「ねえ、殿下、起きてください」
わたしは殿下の耳元でそっと囁く。
頭が再びモゾモゾと動く。
「んん……」
わたしの呼びかけにゆっくりと瞬きをする。
フサフサとした淡い金色のまつ毛から、湖のような深い青が覗く。
焦点のあっていない瞳は宙をさまよう。
「……殿下。おはようございます」
微睡から、あまり刺激を与えてはいけない。耳元でそっと囁くと、急に焦点が合う。
「……エ、レナ? エレナ! すっ、すまない! その……寝てしまうつもりはなかったんだ!」
膝枕で甘えてしまったことが恥ずかしくなってしまったのか、真っ赤な顔になった殿下は、わたしからパッと顔を逸らして身体を縮こめる。
「お疲れだったのだから、寝てしまって当然で、恥じることなんてないわ。それにごめんなさい。どうしても殿下にご相談があって起こしてしまって」
そう言って頭を撫でても、殿下の身体はどんどん強張っていく。
そりゃ、疲れてるってわかってるもの。もう少し寝かしてあげたかったけれど、でも、いまわたしが殿下のお役に立つために王宮に出仕できることが決まれば、負担が減って今後ここまでお疲れにならないはず。
「わたし、殿下のお役に立ちたいの。おそばにいてもいい?」
わたしの質問に、殿下は顔を上げた。
25
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる