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第四部
14 エレナと開かずの部屋
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──小太りで醜女で、わがままな癇癪持ち。
そんなことないわって言いたいのに、自信がないわたしは逃げ出すしかできない。
領地のみんなはエレナのことを女神様みたいに思って大切にしてくれているし、お父様もお母様もお兄様も、それにメリーをはじめ屋敷の使用人達もエレナを愛してくれている。
優しくて温かい世界で生きてきた、そんなエレナに突きつけられた現実は、厳しくて冷たい。
いくら前世がオタクで非リアでクラスカーストの下の方で肩身が狭い思いをしていた記憶を取り戻したからって耐え難い。
わたしは溢れそうな涙をこらえて文書室まで辿り着く。
後ろを振り返っても、殿下はもちろんのこと、いつも追いかけてきてくれるお兄様も追いかけてきてくれない。
わかってる。
これからバイラム王子殿下とイスファーン王国の大使館設立について話し合うって言っていたもの。
お兄様だって殿下の付き添いをされるはず。
二人ともわたしを追いかけている場合じゃない。
わかってるけど……
ゆっくりと部屋の扉を開ける。
中ではメアリさんとリリィさんが書類の仕分けをしていた。
「おかえりなさい」
メアリさんの明るい声に気が緩み、涙腺が決壊する。
「って、どうしたんですか⁈」
急に泣き出してしまったわたしにメアリさんが慌てた様子で声をかける。
止めなきゃと思っても涙が止まらない。
声にならない声を上げる。
「この部屋は出入りも多いので、ひとまず奥の個室に行きましょう」
リリィさんは落ち着いた様子でそう言って席を立つと普段使っていない部屋の前に立つ。
壁にぶら下がる鍵で扉を開けようとしたけどびくともしなかった。
「……うーん。ドアノブが空回りしてるので、錠前の方が壊れてるのかもですね」
ハロルド様は思い切り眉を寄せ悲しそうな顔でわたしたちを見上げた。
リリィさんがぶら下がってる鍵を手当たり次第試してみてもその部屋の扉は開かなかった。
ハロルド様を呼び出して解錠を依頼したけど、扉の隙間をのぞきながら鍵やドアノブをガチャガチャさせるだけで結局開かない。
「ずっと使っていない部屋なの?」
わたしはハロルド様に尋ねる。
さっきまで悪評高い婚約者だと知って悲しくて涙が止まらなかったのに、扉が開かない騒ぎですっかり泣き止んでいた。
ハロルド様は泣き腫らした顔のわたしに少し驚いた様子を見せても、あえて触れずにいてくれる。
「いえ、この部屋はモーガンのやつが回送担当の時にしょっちゅう入り浸ってましたよ。だからたぶん開けるのにコツがあるんじゃないかと思うんですけど。モーガンに聞いてきましょうか?」
明るくハロルド様は答えた。
モーガンというのはハロルド様の前に殿下に書類を運んでいた感じの悪い役人の名前だ。
この開かない部屋は、あの感じが悪い役人のサボり部屋にだったんだろう。
「いえ。無理にこじ開けて閉じ込められでもしたら一大事ですから開けるコツは確認不要です。今後のために修理依頼を出しておいていただけますか」
リリィさんは冷静にそう言うと、ハロルド様に慇懃にお辞儀をして部屋を出て行くように促した。
コツがあるなら聞いておきたかったな。なんて思っていたら、メアリさんと目が合う。
メアリさんは「開けるのにコツがいる部屋なんて、なんかのフラグみたいですよね。いつか閉じ込められたりして」となんだか嬉しそう。
メアリさんはわたしが今いる世界を物語の世界だと訴えているのに信じてくれない。
ふざけてわたしを笑わせようとしてくれてるんだろうけど、今のわたしは反論したりするゆとりはない。
「使えないのなら仕方ありませんね。他にあてがありますのでそちらに行きましょう。もうすでに泣き止んでいらっしゃいますけど、何かあったのでしょう? メアリさんは留守番していていただけますか?」
メアリさんが頷いたのを確認して、リリィさんはわたしにストールを被せる。
さすがに泣き腫らした顔で王宮内を歩くわけにはいかないものね。
素直に従って、わたしはリリィさんに手を引かれて歩き出した。
そんなことないわって言いたいのに、自信がないわたしは逃げ出すしかできない。
領地のみんなはエレナのことを女神様みたいに思って大切にしてくれているし、お父様もお母様もお兄様も、それにメリーをはじめ屋敷の使用人達もエレナを愛してくれている。
優しくて温かい世界で生きてきた、そんなエレナに突きつけられた現実は、厳しくて冷たい。
いくら前世がオタクで非リアでクラスカーストの下の方で肩身が狭い思いをしていた記憶を取り戻したからって耐え難い。
わたしは溢れそうな涙をこらえて文書室まで辿り着く。
後ろを振り返っても、殿下はもちろんのこと、いつも追いかけてきてくれるお兄様も追いかけてきてくれない。
わかってる。
これからバイラム王子殿下とイスファーン王国の大使館設立について話し合うって言っていたもの。
お兄様だって殿下の付き添いをされるはず。
二人ともわたしを追いかけている場合じゃない。
わかってるけど……
ゆっくりと部屋の扉を開ける。
中ではメアリさんとリリィさんが書類の仕分けをしていた。
「おかえりなさい」
メアリさんの明るい声に気が緩み、涙腺が決壊する。
「って、どうしたんですか⁈」
急に泣き出してしまったわたしにメアリさんが慌てた様子で声をかける。
止めなきゃと思っても涙が止まらない。
声にならない声を上げる。
「この部屋は出入りも多いので、ひとまず奥の個室に行きましょう」
リリィさんは落ち着いた様子でそう言って席を立つと普段使っていない部屋の前に立つ。
壁にぶら下がる鍵で扉を開けようとしたけどびくともしなかった。
「……うーん。ドアノブが空回りしてるので、錠前の方が壊れてるのかもですね」
ハロルド様は思い切り眉を寄せ悲しそうな顔でわたしたちを見上げた。
リリィさんがぶら下がってる鍵を手当たり次第試してみてもその部屋の扉は開かなかった。
ハロルド様を呼び出して解錠を依頼したけど、扉の隙間をのぞきながら鍵やドアノブをガチャガチャさせるだけで結局開かない。
「ずっと使っていない部屋なの?」
わたしはハロルド様に尋ねる。
さっきまで悪評高い婚約者だと知って悲しくて涙が止まらなかったのに、扉が開かない騒ぎですっかり泣き止んでいた。
ハロルド様は泣き腫らした顔のわたしに少し驚いた様子を見せても、あえて触れずにいてくれる。
「いえ、この部屋はモーガンのやつが回送担当の時にしょっちゅう入り浸ってましたよ。だからたぶん開けるのにコツがあるんじゃないかと思うんですけど。モーガンに聞いてきましょうか?」
明るくハロルド様は答えた。
モーガンというのはハロルド様の前に殿下に書類を運んでいた感じの悪い役人の名前だ。
この開かない部屋は、あの感じが悪い役人のサボり部屋にだったんだろう。
「いえ。無理にこじ開けて閉じ込められでもしたら一大事ですから開けるコツは確認不要です。今後のために修理依頼を出しておいていただけますか」
リリィさんは冷静にそう言うと、ハロルド様に慇懃にお辞儀をして部屋を出て行くように促した。
コツがあるなら聞いておきたかったな。なんて思っていたら、メアリさんと目が合う。
メアリさんは「開けるのにコツがいる部屋なんて、なんかのフラグみたいですよね。いつか閉じ込められたりして」となんだか嬉しそう。
メアリさんはわたしが今いる世界を物語の世界だと訴えているのに信じてくれない。
ふざけてわたしを笑わせようとしてくれてるんだろうけど、今のわたしは反論したりするゆとりはない。
「使えないのなら仕方ありませんね。他にあてがありますのでそちらに行きましょう。もうすでに泣き止んでいらっしゃいますけど、何かあったのでしょう? メアリさんは留守番していていただけますか?」
メアリさんが頷いたのを確認して、リリィさんはわたしにストールを被せる。
さすがに泣き腫らした顔で王宮内を歩くわけにはいかないものね。
素直に従って、わたしはリリィさんに手を引かれて歩き出した。
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